天使になったので、『世界』を管理します。

香珠樹

プロローグ なんか名前を付けられているんだが!

 君たちは天使に会ったことがあるだろうか。


 普通に考えればあるはずはない。天使とは神話上の生き物であり、一般的に神様の使いとして知られていることだろう。


 勿論、比喩的な表現としての天使になら会ったことがあるという人もいるかもしれない。

 その比喩は主にとても美しい女性に使用される。美しすぎて神々しさを感じてしまうほどの人を『天使』と表現しているのであろう。


 とはいえ、誰も天使などは見たことがない。存在するはずがないのだから。

 たとえ存在していたのだとしても、それが本当に美しいのか。神秘性を感じるほども美貌の持ち主なのか。もっと言えば、そもそも天使は女性なのか。それは誰にも分らない―――


 ……とまあ普通に生きていてそんなことを日常的に考えている奴なんて全くと言っていいほどいないだろう。少なくとも俺は違う。むしろ今までで考えたことなんて数えるほどだ。


 そんな俺が天使について語ることとなっているのには当然原因がある。これは一種の現実逃避のようなものだ。受け入れがたいことから目をそらし、思考という名の穴へ逃げ込む。そうすることによって脳のオーバーヒートを防いでいる。


 しかし、現実というものは非情だ。理解出来ないものを無理矢理理解させようとしてくる。


「……ねえ、しっかり聞いてる?」


「あーこれは現実逃避してる感じだねぇ。今になって現実が受け止めきれなくなっちゃったみたい」


「それじゃあ少し休憩しましょう」


「さんせー」


 今俺の目には四人の制服らしきものを着た女性が映っている。


 一人は金髪の髪の毛を腰のあたりまで伸ばした、美少女というよりも美人が似合いそうな美しい少女。年齢は恐らく俺と同じ高校生くらいだろう。


 その隣にいるのはエメラルドグリーンの髪の毛をショートカットにしている、メガネの少女。こちらも美人である。


 そんな二人とは少し離れて、二人の小柄な少女がこちらを見ていた。


 二人とも髪の毛をポニーテールにしていて、髪形以外の部分もそっくりである。違うところと言えば髪の毛の色だろうか。片方は綺麗な水色で、もう一人は火のように赤いとまではいかないが、濃い赤色の髪の毛だ。そして、当然のように二人とも美少女。愛らしいという言葉は二人のために用意されたのでは、と思ってしまうほどだ。


 すると水色の髪の少女はこちらに近づいてきた。


「それじゃあ『お兄さん』、取り敢えず今から少し休憩にするので、その間に現実逃避を終えておいてくださいね。その後『緊急!天使家命名会議』を再開するので、もし休憩が終わる前に現実逃避が終われば、どっちがいいか考えておいてください」


 そう言って俺の前方にあるスクリーンに映し出された二つの名前を指さし、青い髪の少女は元の場所に戻っていった。


 結論から言おう。


 俺は今、この四人に名前を付けられている。


 それで、だ。

 何でこんなことになっているのだろうか?


 俺は少し前の出来事について振り返ることにした。

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