第12話 ガーデニング

世の男は、こう考える。



女が上の学校なんぞ行っても無駄だよ。

知識を得ても生かす場所なんてないじゃないか?。

仕事?

所詮は腰掛けだろ。



中学を出て就職し、数年もしたら課長か部長辺りの管理者に見合いを勧められて結婚。

退職し家庭に入り、そのまま一生を過ごす。


もしも宇宙人が地球人を見たならコレを平均的な雌の生態と考えるだろう。




世の男は皆こう考える。


女とは嘲りの対象だと

若しくは助け守るべき対象だと


酷い男も優しい男も女が自身で何かを行うとは思ってはいない。


だから、加藤教授は彼女を案内人とは思ってはいなかった。


行く先に父親なり歳上の兄弟なりが待っているのだろう。

憲兵隊に怪しまれず希望者に連絡を取る係だろうと

彼女の爆撃機型のアジトに入るまで、そう思っていた。


中田も彼女が案内人と分かるや、その仕事に不安を訴えた。


そして今、爆撃機だったジュラルミンの中は彼女に支配されている。


「今止めるなら足代三千円で良いけど?」


右手のワルサーを振り回しながら彼女は聞いた。







B29を後にし、四人は再び熊笹の繁る山道を歩く。


結局、男三人は三万円を支払い彼女のガイドを希望した。

場所を知るのが彼女だけである以上、男も女も無く従うしかない。

もし、ご機嫌を損ねればピクニックは終わりだ。



先頭は彼女、二人目は教授でありソレに中田と武内が続く。


間隔は10メートル、これは地雷対策だと言う。

誰かが仮に踏んでも全滅を防ぐ措置だと彼女は素っ気なく言った。


「おいおい、把握してんじゃないのかよ!?」


踏む事は珍しくないと言わんばかりの彼女に

カメラの恨みもあって再び中田が噛み付く。


「昨日、埋められたら流石に分からないわ」


ドイツ軍の地雷敷設は、その国民性の通り徹底した物だ。


倒木を跨いだ先に仕掛けられていたり、道の真ん中にあるゲートを退けたら

ワイヤーが信管に繋がっていたりとバラエティーに富む。


地雷の信管を抜いて安心して持ち上げたら、その下に埋まっていた地雷の信管を起爆させる二段構えもある。


一番、危険なのはSマインと呼ばれるタイプで踏むと1メートルほど先の地面から打ち上げられ

20メートル四方に鉄球の雨を降らす。

対策をしても確実に二人はやられるだろう。


数こそ少ないが同じ仕組みで火炎放射器が仕掛けられている場合もある。


これらが百万単位で埋まっているのだから

もはや、撤去は埋めたドイツ軍でも不可能だろう。


彼女が言うには現在歩いている道はドイツ側のパトロール用の通路であり

地雷を踏む確率は藪よりは少ない。


だが、パトロール隊と鉢合わせになる確率は非常に高い。


彼女の言う前回の客はパトロール隊を見るや発砲し全滅している。


警戒度が跳ね上がっていると考えれば、前回使った道に地雷が絶対に埋まっていない保証は無い。


「もし、私が踏んだら迷わず置いて帰って」


青くなった中田に向かって彼女は面倒そうに言うと先を歩きだした。







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