拡大

 各国で一気に感染が広がるまでは、さらに数日を要した。ニュースは北米の流行で持ちきりだった。


『NYの高山さん、そちらの状況を教えてください。』

『はい、こちらはアメリカ全土がロックダウンして数日、感染の拡大は治まっていません。むしろ急激に拡大している印象です。』

『感染の実態は明らかになったきたのでしょうか?』

『それが、全くわかっていません。政府は急激な重篤患者の増加の対応に懸命で、患者数も感染の規模も全く把握できていません。』

『街の中の様子はどうですか?』

『はい。街角には銃をもった兵士が歩いているほかは、ほとんど人通りはありません。取材しているとリモートワークや宅配サービスなどで生活しているという話を聞けました』

『ありがとうございました。お伝えしていますように、アメリカでは新型感染症が爆発的に広がり大きな影響が出ています。

 日本政府の対応です。日本政府はアメリカからの入国を禁止すると発表しました。また、アメリカに滞在していた日本人は施設で14日間隔離されます……』


 真紀が夕食を食べていると、ママが大型スクリーンテレビ(部屋が大きくなり、室内でも密を避けるため、大型スクリーンテレビが一般的になった)のスイッチを切った。


真紀がいう。

「大変なことになっているね」

パパが答える。

「そうだね……。怖いかもしれないけど、大丈夫だ。B.Cov.の頃とは違う」

「でも、怖い話をわざわざ見るのはやめましょうね」と、ママ。

「「はーい。」」

 パパは若干複雑そうな顔をした。


「そういえば、学校でも風邪が流行ってるのよ。」

「インフルエンザか?」

「違うの。ただの風邪みたいなんだけど、休む子も結構いるよ。」

「ふむ……。結構いるのか……珍しいな」

「そうね、ひどい風邪が流行っているって噂は私も聴いたよ。でも大丈夫じゃない?たまにあることなんだし」

「そうだな」


 この日、日本政府内閣府、及び、COVID-19を教訓に内閣府外局として設置された疾病予防管理センターは、米国の新規感染症やこの風邪がそれぞれ別のウィルスの可能性があるとして、警戒レベルを上げ、都道府県・保健所を通じて情報収集を始めた。


 内閣府はSNSの分析を、疾病よぼ管理センターと保健所は多くの国民が身につけている通信機能つき小型カーディオパルスオキシバイタルメーターのビッグデータ分析を始めた。


 各空港ではサーモグラフィを利用した検温がなされ、一定以上の発熱が見られた場合はSARS-CoV-2のPCIスクリーニング及び抗体検査のうえ、2週間の隔離が行われた。


 そして、社会的隔離の呼びかけが行われた。

 国内で発生した風邪についてはあまり注目されなかったが、主に米国からの新疾患の流入の管理、既に流入していた場合のためにSARS-CoV-2対応を一時的な強化したのだ。

 これらこそが、COVID-19を乗り越えた社会の知恵だった。


 そしてこれによって乗り越えられるだろう、と国もマスコミも多くの人が思っていた。

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