来たるべき戦いに向けて


 俺達が大司教を討伐した数日後、それを切っ掛けとしてアルフレッド学園長は改めて特級クラス全員に事情を説明し、騎士団と共にクトゥグァ撃退の協力を呼び掛けた。

 その過程で、今までクラスメイトには伏せて来た俺とナディアの出生も明らかにした。

 危険に巻き込む以上は、こちらも相応の誠意を見せて置いた方が良いと思ったからだ。


 だが、当然反発する者も居た。


「ハッ、何で俺がそんな面倒な事に巻き込まれなきゃいけねえ。俺はやらないね」


 俺達を含めた他の九人は協力に応じてくれたが、ルーカスと言う男子が、唯一協力を拒んでいる。

 アスタやウィルも説得を試みているが、中々首を縦に振ってくれそうにない。


「君は分かってないのかも知れないけど、クトゥグァとか言う神が復活したら私達も無関係じゃいられないんだよ?」


 ルーカスに話しかけるのは、学園の才女と名高い少女アルメダ。

 魔法分野において天才と名高い彼女だが、魔導士を見下し、騎士こそ至高と考えるルーカスとは相容れない様で、度々衝突しているようだ。


「それが何だ。いざとなったら俺はこの国から出て行ってやるさ」

「自分で言ってて恥ずかしくないの?」

「何を言ってるんだ。自分の命ほど大切な物は無いだろう」

「うーん、清々しい程クズだね。君は」


 二人がバチバチに争ってる所で悪いが、別に俺は無理に協力は求めるつもりないんだよな……。


「良いよアルメダ。ルーカスがやりたくないなら無理強いする気はないんだ」

「君がそれで良いのなら私は何も言わないが……」


 俺が彼女を止めたのを見て、ルーカスは好機とばかりに教室から出て行く。

 去り際に「よくやった愚物。多少は使えるじゃ無いか!!」と言い残して。


「……君にはあの馬鹿を殴る権利があって然るべきだと思うんだが」

「別に構わないよ。むしろ足並みを乱す奴が居なくなって好都合だ」


 流石に腹を立てていないとは言えないが、今は彼以外の全員が賛同してくれた事の方が喜ばしいのだ。


「エルマ、エルモ。君達は大丈夫なのか?」

「ええ問題ないわ」「ああ問題無いぞ」


 特級クラスの内の二人、双子の兄であるエルモと妹であるエルマ。

 前衛で戦うエルモとそれを支援するエルマのコンビネーションは、数人の王国の騎士を相手してなお、圧倒出来るほどの練度だ。

 彼らも危険に巻き込まれるのに躊躇いは無いらしい。


「みんな、ありがとう」


 俺はここに居るクラスメイト達に感謝する。


「何、気にするな。王国の危機となれば立ち向かうのが民としての務めだ」

「そうだね。僕達に出来る事なら協力は惜しまないよ」


 ウィルとアスタの言葉が頼もしい限りだ。


「それでクトゥグァの邪魔をしてやるのに、私達は具体的に何をすれば良いんだい?」


 アルメダが俺に問いかける。


「そうだな、まず新しく増やされた信徒の討伐。それに加えて王都内のダンジョンの攻略。それと出来たらの話なんだが、奴の封印された場所を起点として、その周囲に結界を張りたい」

「ふむ、前二つは学園長からも聞いてはいたが、最後の結界と言うのは何だい?」


 結界と簡単に言ってはいるが、魔法を防いだり出来る程の結界はそうそう張れはしない。

 張れても俺が使った『堅牢の館』の様に、自身も動きが制限される物になってしまう。


 智慧の父神ヴァテァの知識ならどうにかなるかもと思ったが、ナディアによると最近はヴァテァの声を聞かなくなったらしい。

 以前はかなり饒舌に喋って来たものだったが、一体どうしたんだろうか。


「結界は、あいつの力を一定の所で押し留めるのに使いたい。以前相対した時に感じた事なんだが、奴は周囲の物を燃やすほど力を増していた気がするんだ。だから事前に奴の行動範囲を制限しておけば、戦いは大分楽になる……とは思うんだが」


 それほどの結界を構築するだけの力が無い。

 マリナ先生が本気を出しても山一つを覆う結界は出せないし、王国の騎士団にはそもそもマリナ先生以上の実力を持つ者は少ないらしい。

 つまり俺の考えは現時点では机上の空論だ。


「なに、そんな事か。じゃあそれは私が担当しよう」


 俺が思い悩んでいると、アルメダが胸を張って言ってのける。


「出来るのか?」

「そのくらいやって見せなきゃ【学園の才女】の名に名前負けしてしまうからね。不可能な訳じゃ無いのだから、実現して見せるさ」


 事実として、彼女は魔法と言う分野に関しては大人ですら凌駕するほどの知識を有している。

 彼女ならきっと結界構築の糸口を掴んでくれるかもしれない。


「わかった。結界の事については頼んだ」

「じゃあ俺達はダンジョン攻略を担当しよう」


 続いてアスタとウィルが声を上げる。


「では俺も同行しよう」「私も同行します」


 息ピッタリなエルモとエルマもダンジョンの方に向かう様だ。


「じゃあ私達は信徒を探し出して一つずつ拠点を潰して行きましょう」

「そうだな」


 俺とナディア、レーヴェ、イデアの四人は奴らの拠点を探し出し、見つけ次第叩く事になった。

 ちなみにダンジョンの方もこちらの方も、学園長が話を付けて騎士団の人員をある程度割いてくれるらしい。

 学園長は一体何者なんだろうと思わなくも無いが、とにかくありがたい話だ。


「みんな、改めてよろしく」


 来たるべきクトゥグァへの戦いを見据え、改めて俺は気合を入れる事にした。

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