見えない真意
「なるほどね。ショゴス達が……」
ダンジョンから帰って来たあと、俺は例の喫茶店でナイアルラトホテップと会っていた。
「何かわかるか?」
「ん? 彼らは特に関係ない事が分かるね」
相も変わらずパンケーキを頬張りながら彼(?)は答える。
「そうか……。で、そっちは何か分かったか?」
「そうだね。取り敢えずこのパンケーキは美味しい事が分かるよ」
俺の問いかけに彼はふざけて答える。
と言うか、こいつ本当に味覚あるんだろうか……。
「出来ればふざけないで欲しいんだけど?」
「おや、ふざけてると思われてたのか。これは心外だなぁ」
また笑って誤魔化すつもりなのか……と思ったがそうではない様だ。
彼は前回と同じようにパンケーキを食べ終えてから、ようやく話し始めた。
「さてと、どこから話そうかな……まずは奴の状況からか」
奴、とはクトゥグァの事だろう。
「奴は未だ封印状態にある。けど、フサッグとか言う奴は随分真面目に働いてるようで、順調に封印を破ろうとしてるね」
「……何とか出来ないのか?」
「少なくとも、ボクが直接介入するのは難しいかな。ボクと奴は互いに相性が悪くてね。干渉しあえばただの相打ちに終わるだろうね」
彼はあくまでも自分が勝ち残る方法を模索しているようだ。
俺としては相打ちで互いに消滅して貰えればそれが好都合なんだけどな。
俺が訝しむ様な目で見ると、彼は両手を挙げてやれやれ、と言ったような表情を取る。
「嘘だと思うかい? 残念だけど、ボクは隠したり誤魔化したりはしても、嘘はつかない様にしてるんだ」
胡散臭いな。だが、彼の言葉を疑っても始まらない。
「具体的にどうすれば封印を解くのを止められるんだ?」
「正直な話、封印は解かれる前提で動いた方が良いかも知れない」
「どうして?」
俺は尋ねる。
「そもそも、君達が村で過ごしていただろう二年の間で、封印の大半は解除されつつあったんだ。それなのに奴が未だにあそこに留まってるのは、前回の君達の様なイレギュラーに対処出来る程の力を貯め込むためだろうね」
「なるほど……ってそれマズく無いか?」
「そうなんだよ」
「そうなんだよって、緊張感ないな」
そんな万全の状態で出てこられたら手に負えないぞ?
「対策としては、君達がつい先日やってのけた様にダンジョンを攻略して貰うくらいかな。それぞれのダンジョン……特にこの王国の周囲のダンジョンは、奴が封印されている地脈に通じている。ダンジョンを攻略し、内部の魔物の復活とかに魔力のリソースを割かせれば……まぁ多少の遅延効果は期待出来るかも知れない」
「多少……な」
あまり効果のありそうな策では無いが……塵も積もればなんとやらだ。
「あとは、奴との戦いの際に、君の通っている学園の子達に協力して貰うのが手っ取り早いんじゃないか?」
「やっぱそうなるよな……」
「……あんまり乗り気じゃないみたいだね」
俺も、最初は良い案だと思った。
一人で到底敵わないのであれば、共に戦ってくれる人間が居てくれればいい。
だが俺の勝手な因縁に彼らを巻き込んで良いものか……と考えてしまう。
「そもそも、奴が復活した時点で彼らも無関係で居られる訳が無い。手を打つなら早いに越したことは無いよ」
そう、早い方が良い。もう時間は刻一刻と迫ってきているのだ。
出来れば巻き込みたくなかったので、ナディアやレーヴェにも言って居なかったが、そんな悠長にしている暇は無いのかも知れない。
「……君の所の学園長に話してみてはどうだい? 力になってくれるかも知れないよ?」
アルフレッド学園長か。
確かにあの人なら王国の危機と知れば、力になってくれるかも知れない。
俺を警戒しているから信じてくれるかは半々かも知れないが……。
「試しに話はしてみる」
「あぁ、期待して待ってるよ」
そう言って彼は紅茶に手を付ける。
俺も、既に冷め切ってしまった紅茶を一口啜る。
「あ、そうだ。あともう一つ」
「何だ?」
「フサッグとか言うあの大司教が、最近ここら辺に出没してると言う噂を聞いてね。ボクも奴が近くに居るのを感知してるから、気を付けた方が良い」
「……わかった」
あいつが、この王都の付近に?
クトゥグァの復活の為の何かがあるんだろうか?
とにかく気を付けておくか。
◇ ◇ ◇
「やぁ、リノ君。久しぶりだね」
「そうですね」
俺は喫茶店をでてあいつと別れたあと、そのまま学園に向かった。もちろん学園長と話をするためだ。
学園長室を訪ねると、丁度時間が空いていた様で、そのまま話をする事が出来た。
「今日のダンジョン攻略はどうだったかい? 良い経験が出来ていれば良かったんだが……」
「まぁ、実地での戦闘経験は出来たんで良かったかなと。不安定な足場での戦い方だったり、仲間との連携も少し試せましたしね」
俺は思ったままの事を話す。
「そうか。有意義な時間に出来たようで何よりだ」
満足そうにアルフはほほ笑む。
さて、切り出すなら早めに切り出した方が気が楽だ。
「学園長、今日は例の教団、『アンラ・マンユ』について話があって来ました」
「ほう? 一体何かな?」
「俺達とは別で、奴らの生き残りと思われる人物が居ると言う話です」
俺が話を切り出すと、彼は一気に真剣な表情に切り替わる。
「大司教フサッグ、奴が生きていると言う可能性が出てきました」
俺は、ナイアルラトホテップから得た情報を、彼から得たと言う部分を伏せて話した。
全て聞き終えると、アルフは俺に一つ尋ねて来た。
「リノ、君のその情報は何処から手に入れたものだい?」
(うーん、情報元隠せばそうなるよな……)
だが彼との約束で、情報を自分から聞いたと言う事は喋るなと言われている。
虚偽の情報元をでっち上げようかとも思ったが、アルフに通用しそうな気配も無いし、大人しく情報元は言えないと言った方が良いか。
「申し訳ないですが、情報元の詳細は言えません」
「そうか……」
アルフの表情が曇る。
情報元が分からない以上、信用の出来ない情報になってしまうのは避けられないが……
「もしや、ナイアルラトホテップとか言う者からの情報だったりはするかい?」
え? 何故その名前を学園長が?
しまった、と思った時には既に表情に出てしまっていたのか、彼はなるほどとでも言いたげな顔をする。
「実は、数日前に私の元にそう名乗る者が現れてね」
どうやらアルフは事前に彼と接触していたらしい。
「最初、あの情報は眉唾物だと思っていたのだがね。念の為調査を進めて行くと、確かにあの人物が持って来た情報と合致する事が多かった」
「って事は、俺が今日話した情報も既に知っていたんですか?」
「いや、それは知らなかった」
彼は、既にアルフに接触していたから俺に「学園長に話してみろ」みたいな事を言ったのか。
でも俺とアルフに情報を小出しにしている理由は何だ?
ただクトゥグァの撃退が目的なら、俺と組む理由は少ない。
「君は、彼の事をどのくらい信用できると思う?」
アルフは俺に問いかける。
正直、あいつの目的は分かって居ても、それを達成するための行動が不可解だ。
信用出来るか、と問われるとかなり微妙な線だ。
「与えて来た情報からすれば、彼は嘘をついているとは思いません」
「それは、信用できるという事かい?」
「いえ。彼は俺との会話の中で『嘘はつかないが隠す、誤魔化す事はある』と零した。まだこちらに与えていない情報などもある可能性を考えると、信用までには至らない」
「そうか」
アルフは腕を組んで難しい顔をする。
「どの道、私達は彼に踊らされるのを強いられているのかも知れないな」
アルフがそう零したのを最後に、俺と彼はすっかり黙り込んでしまった。
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