転生して目覚めたら邪神の生贄にされてるんですが

ジュレポンズ

炎獄の邪神編

目覚めたらそこは


 ふと気が付くと、薄暗い洞窟の中に居た。

 いや違う。洞窟の中には元々居て、目の前の光景を見て意識が飛んでいた。


 そして飛んで行った意識が前世の記憶と言う物を引き連れて戻ってきたせいで、頭が混乱してしまったようだ。


 前世、とやらの記憶は少し曖昧だが、一般的なゲーム会社やらに就職して、そこそこな生活は出来ていたようだ。

 少なくとも食うに困る、なんてことは無かった。


 だが今回の人生はどうだ。

 親に捨てられ、妙な神を信仰する教団に拾われて育ってしまうと言う状況。


 そしていま目の前では、何人かの信徒が捕らえた贄を神に捧ぐ為に臓物を抉りだし、捧げて呪文を唱えている。


 一般人が見ればSAN値直葬物だが、この邪教の者共に育てられた俺は、前世の記憶的には受け入れがたくとも、何とか耐えられた。


 が、それはそれ。


 何でこんな最悪な転生をしたのかは分からないが、一刻も早くこんなヤバい所から逃げ出したくなった。


「イア、イア!! 大いなる主よ!! 福音を我らに!! その御言葉を我らの元に!!」


 目の前で血まみれの信徒たちが何か言ってる。

 正直、前世の記憶が蘇ったせいで、そろそろ俺もSAN値が削られそう。


 と言うか、この体の記憶だと、俺はこいつらの信仰する神の依り代としてここに立たされているらしい。

 通りで俺の目の前に贄を持ってきて山積みにしてる訳だ。

 しかも体が抉られてるから血の匂い凄いわ、くっせえ。


(で、肝心の邪神はこの体に降りて来てるのか……)


 今の所、身体に違和感はない。

 強いて言えば、前世の記憶が蘇ったのがそれらしいか?

 多分こいつら失敗したな。


 あと気になるのは、この体の記憶ではもう一人、俺以外にも邪神の依り代として捧げられてる少女が居るのだ。

 俺が失敗したとはいえ、万が一そちらが成功して居たら胸糞悪い。


 辺りを見回しても、それらしい子は見当たらない。

 どこか別の場所だろうか?


(クソ、ここの地形が全く分からない。どんだけ不自由な生活を強いられてたんだよ)


 どこか心当たりが無いかとこちらの記憶を探るも、ここと一つ上の居住スペースらしき場所しか見当がつかない。


 それでも懸命に探そうとすると、不意に視界が真っ暗になった。

 かと思えば、今度は景色が不意に変わり、こことは別の場所を映し出した。


「え? えぇ?」


 なんだこれ、千里眼か何かか? 俺は急な視界の明滅に困惑して両目を押さえる。

 目はどうやら探していた子が儀式を行われた所を映し出している。


 どうやらあちらも似たような光景が繰り広げられていた。


 臓物を抉りだした贄を山積みにし、臓物は彼女を取り囲むように円を描いて配置されている。

 信徒が呪文を唱え、その表情は神の降臨を今か今かと待ちわびながら愉悦に濡れている。

 対して、依り代たる少女はその光景を見ても何も思っていないのか、ただ虚ろな目で信徒たちを見つめるのみだ。


 だが、その彼女の背に何やら不穏な気配が降り立つ。


 昏く深き淵より出でる様な悍ましい気配は、まるでこちらの目に気が付いたかの様にこちらを見た。


『何故こちらを見ている?』


 深淵はこちらに問いかける。

 どうやら敵意はまだないらしいが、それでもビリビリとした威圧感を感じる。


 遠目に見ているだけでも心臓が握り掴まれているかのようなプレッシャーを放っている辺り、こいつは本気でヤバい存在っぽいな。


『なるほど、お前もこの子同様に我らに捧げられた存在か』


 こちらが怯んで答えられないでいると、その存在は何かを察したのかほくそ笑んだ。


『しかも……ほぅ、面白い混ざり物もあるようだ。実に興味深い』


 なんか勝手に面白いだとかなんだとか言ってるけど、一体何してるんだ?


『なに、案ずるな。お前にも益のある話をしようと言う事だ』


 俺にも益のある話?

 なんだかとんでもなく怪しい気配がするが聞くだけ聞いてみるか。


『お前はここから抜け出したいのだろう? 手を貸してやる代わりにこの子も連れて行け』


 ……え、そんだけ?


 何か、もっとこう……お前の心臓を代わりに寄越せだとか、強制的に眷属に変えてやるだとかヤバい奴かと思ったけど、本当にそれだけ?


『言った通りだ。お前がここから出て、外の世界に出る時はこの子も連れて行け』


 うーん、なるほどわからん。わからんが、分かった。

 それにしても、何故その女の子をこの子って呼んでるのか。

 邪神なら人間を子なんて言わないだろうに。


『一つ訂正しておく。お前が先ほどから指す邪神と我らは違う存在だ。我らはこの世界における一般的な神性だったが、後の世にて伝承が捻じ曲げられ、歪な存在になり果てたのだ』


 ほうほう、つまり人の手によって邪神に堕ちたと?

 と言うかさっきから我々って言ってるけど、まだ別の神性が居るのか?


『……どうやら認識出来ていない様だが、お前の身にもしっかりと根付いているぞ』




 ……わーお。儀式失敗かと思ってたらバリバリ成功、大成功じゃないですかやだー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る