5人目 横井 照男(よこい てるお) 56歳 男

彼はいつも犬を連れている。名前は『ポチ』安易な名前だが、どうやら名前を考える事が苦手らしい。数年前にダンボールに入れられて捨てられていたのを保護したそうだ。そんな彼はみすぼらしい格好で荷台を引き、今日も愛犬と共に空き缶を集めて回っている。


そう、彼はホームレスである。


彼は昔、とある電気メーカーの営業部で課長をしていた。そんな彼が何故ホームレスになったのか?彼はある事件をきっかけに職場で仕事与えてもらえなくなってしまった…。


その事件とは…、別部署の社員が会社の金を使い込んでいた事が発覚した。しかし、その社員は社長の遠い親戚にあたる人間だった、重役達はその事実をもみ消したのだ。もちろん事実を知った彼や同僚達は黙っていなかった。


数日後、社員全員に臨時ボーナスが支給された。事実を知る者への口止めとして。同僚達は仕方ないと諦めてしまいこの事件は闇に葬られた。


彼は曲がった事が嫌いな性格の人間だった。だからと言ってこの事件を蒸し返し大事にするつもりはなかった。ただ支給された臨時ボーナスを受け取ることだけはどうしても嫌だった。


「社長、どうしてもこのお金は受け取れません。」


「そうか…。」


直接社長に臨時ボーナスを突き返した。


次の日、彼に部署移動の通知が届き営業部から離れる事となった。営業しかして来なかった彼に新しい部署での仕事は慣れない事ばかりだったが自分なりにできる事を頑張った。しかし、なかなか認められず、ついには一切の仕事を与えられなくなった。


それでも彼は愛する家族の為にと、事件の事には一切触れずに職場に通い続けた。いつかは自分も必要とされると信じて…。給料泥棒だの、約立たずだのと言われながらも…。


しかし、1年間通い続けても一切仕事をさせて貰えず。ついには退職を決意。後から知ったが社長の命令で仕方かなったと元同僚が話してくれた。


彼はこの時46歳。家族には反対されたが何もしないのに会社に行く事に耐えられなかった。家族の反対を押し切り、自分を必要としてくれる場所探す事にしたのだ。


しかし現実は残酷だった。再就職先は見つからず、妻は息子を連れて出ていった。 彼は自暴自棄になり酒やギャンブルに手を出し、ついには借金で家を手放す事になったのだ。


そうしてホームレスとなった彼だが、後悔は無いと言う。むしろ酒に溺れていた時や、仕事をさせてもらえなかった時よりも今は充実していると。愛する人は離れたが新しい家族もいる。


空き缶等を集めて、その日必要な分のお金は自分で稼ぐ。自分が今を生きる為に働く。彼は生きていると言う実感を噛み締めながら毎日の生活をおくっている。


終わり


「正しい事が出来ない事もある、それが現実。」


次の人物。「野上裕也」

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