第27話


 屋敷を出て、ローズは街へと向かった。あの埃っぽい幽霊屋敷に戻ることはもう無いだろうが、あの二度目のクロの顔が忘れられなかった。


「やっぱり、いっかいクエスト終えると記憶って無くなっちゃうのかな。でも、この指輪みたときは思い出してくれてたかな」


 クロの言った、ありがとう、も気になる。あれがこの指輪とネックレスを見て、察して言ったものなのか、思い出してくれたのか、それはもうわからない。

 だが、一つだけ確かなことは、このドラゴンだらけの世界で、数少ない友達ができたこと。そのことだけは、自信を持ってわかったことだ。

 再び会えることはないかもしれない。だが、記憶の奥底に、いつまでもクロとシロはいるのだ。

 それだけで、ローズは明るくなれた。






 そのまま歩き続け、何体か雑魚ドラゴンに絡まれたものの、無事に街についた。


「よしっ!やっと大海ステージに集中できる!次のランキングは頑張るぞ!」


 右腕を高々と突き上げる。その顔は希望の笑顔で満ち溢れていた。




 大海ステージへ着いたローズと同時に転移してきた人物に、ローズは良く見覚えがあった。


「お、アリサじゃん。やっと起きたんだね」


 昼食後、少し休んで部屋に有咲を誘いに行くと、ベッドでぐっすりと眠る妹の姿があり、起こす訳にはいかないと1人でログインしたのだ。


「うん」


「いや、うんって。何か嫌なことでもあったの?後で相談のるよ?」


 不貞腐れたように反応した妹に、つい姉の本能が出てしまった。

 その原因が、姉への嫉妬とライバル心だということを知らずに。


「いいよ。そんなんじゃないからさ。私大海ステージ来るの初めてだから、ちょっと探索がてらぶらぶらしてくるね。じゃあね」


 明らかに早くこの場から去ろうとしているアリサ。いつもなら、一緒に回って?と誘ってくるはずなのに、今は目も合わせてくれない。


 そんなに去りたいのなら、と最後にアドバイスをした。


「ここのステージ、泳げないとほとんどなんも出来ないから、そこにある練習施設で水泳スキル取った方がいいよ」


「わかった。ありがとう」


 ローズに背を向け、アリサはそそくさとその施設に向かった。


「何かあったのかな。嫌な夢でもみたのかな?」


 何年も一緒にいるだけあって、姉の予想正確だった。

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