第2話

 どのくらいそうしていたのだろうか。私は眠っていたらしい。窓からは朝日がカーテンの隙間を縫って差し込んでいた。

 キャンドルの炎は、自分で消したのか、いつの間にか消えていた。

 泣きながら寝てしまったせいだろうか。頭も体も妙にすっきりしない。幸い、出勤時間には時間がある。私は熱いシャワーを浴びる事にした。


「…コ、ヨウコったら!」


 声にはっとすると、目の前に心配そうなエリの顔があった。


「どうしたのよ?急にボーっとしちゃって。そりゃ、まだ日が浅いから気持ちはわかるけど」


 そうだった。落ち込んでる私を元気付けるためにエリが飲みに誘ってくれたのだった。


「すぐには無理かもしれないけど、あんな男、忘れなくちゃ。ヨウコって思いつめちゃうとこあるからさぁ」


 エリの言う通りだ。前の彼と別れたときも思い詰めすぎてリストカットをしてしまった。あの時、たまたま訪ねてきてくれたエリが私を病院に連れて行ってくれなければ、今の私はいなかったかもしれない。こんな事になるならあの時助からなかった方がよかったのかもしれないとも思うけども…。


「今、助けてくれなければよかったって、思ってたでしょ」


 グラスを片手にエリが私の顔を覗き込んでいた。


「そんなこと、ないよ」


 見透かされた心を隠すために、氷が溶けて薄くなったカクテルの残りをぐいと一息に飲み干した。


「ヨウコ。もう、あんなコト、しないでね」


 あの時のことを思い出したのだろう。赤くなった目で私を見つめるエリに、私は静かに頷いてみせた。


「ふぅっ。それを聞けてよかったぁ。さあ、飲むぞーっ!」


 私たちは新しいカクテルを注文し、グラスを高く掲げて乾杯した。

 そう、もう2度と、あんな事はしないだろう。なぜなら、命を絶つことさえ思いつかないほど私の心は死んでいるのだから。


「ごめん、タバコ、すってもいい?」


 普段は私と同じようにタバコは吸わないエリだが、お酒が入ると途端に欲しくなるらしい。ホロ酔い気分になると必ず聞いてくる。


「いいよ、吸いなよ」


 苦笑しながら答えると、エリは待ってましたとばかりにバッグの中からシガレットケースを取り出した。慣れた手つきでタバコを1本手に取り、同じく慣れた手つきでライターで火をつけようとした。


 静かに揺れる火。あの時も赤く、赤く、燃えていた…。


 私の頭に炎が揺らめく。二人で灯したキャンドルの火。静かに燃えつづける炎は、あの時確かに永遠の未来を映し出していたはず。

 エリから聞いたときも信じていなかった。この目で確かめた時でさえ。カズの口から別れの言葉を聞くまでは。あなたが、私以外の人と付き合っていたなんて。


 静かに燃えていたキャンドルの炎はしだいに大きくなり、私の身を包む。私は炎のドレスを身に纏う…。


「きゃあーっ!ヨウコー!」


 エリの声はすでに私の耳には届いていなかった。

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