2階の住人

平夜 星中 (ひらや せいちゅう)

第1話 新生活


 池袋から急行列車に揺られて40分。その駅の周辺には住宅街が広がり、駅前はコンビニや飲食店が数店舗立ち並んでいるが、それ以外は何もない。つまり、これといって特徴のない駅だ。この駅から線路沿いを5分程歩いた交差点の近くにそのアパートはある。


賃貸サイト、アットホームハウスによれば、アパートは築25年の2階建てで、サイトに掲載された外観の写真を見ると、アパートのちょうど中央にらせん状の2階へ続く階段があり、それを基準に左右4部屋に別れるような構造になっている。部屋はすべて1Kとなっており、広さは全部屋とも6畳ほど。ユニットバス付きで、物置につかえる4畳のロフトもある。さらに、エアコンや無料で使えるWiFiまでついて、家賃は管理費込みで2万5千円という驚きの安さだ。少し日当たりは悪いそうだが、学生の俺にはこの条件の良さはかなり魅力的だった。職場のある朝霞あさかまでは少し遠い気もしたが、時期的に入居希望も多くなる頃だった。急ぎたいという気持ちと移動費を節約したいという金欠学生の切実な思いも重なり、本当は良くないのだが、内見はせずに電話で直接契約を取り付けた。


 実際に引っ越してみると、エアコンがつかない、給湯器から水が吹き出す、などの多少の不具合が見られたが、代理店経由で大家に連絡を入れて業者に代えてもらった。設置料金も大家持ちだったので結果的に全く問題はなかった。むしろ性能が最新にバージョンアップし、ありがたいぐらいだ。



 いい部屋を見つけられて幸運だった。



 このときはそう思っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る