誕生日(上)②

 夏美と冬姫が何やら色々と考えているようで、敢えて何も言わずに俺とアキは家に戻った。


 家に着くなり食材を冷蔵庫に入れていくと、食材を見れば俺の好物しかないのだ。


 多分、母さんと冬姫がバラしたんだろうな、その辺は予想はつく。


 とりあえず、俺はアキと共に春夏を構いながら談笑をしていた。


「いつ見ても本の量には圧倒されるよ。自分の部屋にこんなにあったら知恵熱が出そうだ」

「それが普通の答えだ。別にアキが変なわけじゃなくて俺が変な方の部類に入るからな」

「いや、俺が思ってるのは本をここまで愛せるお前が羨ましいと思ってな。俺はスポーツしか取り柄が無いから」

「スポーツという取り柄があるだけ十分だし、今の俺にはこうゆうのが性に合ってるんだよきっとな」


 『そうか』と言いながらアキは、たまにスマホを見ていた。


 冬姫からのメッセを返しているのだろうと思いつつ、いつでも繋がってるって凄いな。俺には絶対に出来なそう。


 アキは、俺の顔を見るなら苦笑していた。


「なに、苦虫を噛んだような顔をしてるんだよ。ハルにはハルのやり方があるんだから俺の真似とかする必要なんてないんだよ」

「イケメンは、みんなエスパー能力でも保持してるようなもんだな」

「これだけ、付き合いがあれば誰でも分かるし、エスパーでも何でもない」


 どうやら、俺はポーカーフェイスがダメのようだ。どれだけ隠しても結局バレる運命らしい。


 すると、グループLAMに冬姫と夏美から『今向かってる』って連絡が入ったので、少ししたら降りて多少の準備をしようとしたら。


「ハルと春夏は今日の主賓なんだからゆっくりしてろよ。俺は冬姫に頼まれていたことだけ下で済ましてくるから。ハルを頼むな、春夏」

「にゃ!」


 春夏……お前は何事にも律儀過ぎじゃないか?本当に猫か?


 そう言って、アキは下に降りていき部屋に残ったのは俺と春夏で春夏は俺に撫でられて左右に寝がえり?を打っていた。可愛いらしいな、なんか懐かしいな。


 懐かしい?なんでそんな言葉が出たのか自分でも不思議だった。その瞬間。


「うっ!」


 急にあの頭痛に襲われる。にゃーにゃーと春夏が鳴いているが、今回は無視できない痛みだった。そして、買い物から帰ってきて俺の部屋に来た夏美が俺の異変に気付いた。


「ハル!どうしたの?ねぇ、大丈夫!」

「な、夏美。なんかいきなり頭痛に襲われて」

「風邪とかじゃないの?ちょっとごめんね?」


 夏美の手が俺の額に添えられる。温かい、安らぐ感じがする。そして頭痛も消えていくような感じもした。


 確認が出来たのか額から手が離れると安心した顔をした。


「熱はないみたいだね。少し休んでていいよ」

「いや、もう大丈夫だ。心配かけて悪い、そろそろ俺も手伝わないと」

「アキと冬姫がハルが寂しがってるからいてあげてって言われて」

「そうか。冬姫も今回のメニューの考案者だから大丈夫か」

「ほとんどが冬姫が決めてくれて、しかもアキも今日の為になにかやってたみたいだよ」


 はぁ~、ってことは今日は最初から冬姫が主導権を握っていた訳か。アキは伏線を張っていた。


 ってことはまだ予想外の出来事がありそうで油断できないな。


 夏美は今日の流れを次回に行かすつもりで冬姫のサポートに入ってたようだ。


「俺が下に降りても戻されそうだから大人しくしてるか。そういえば本はどこまで読めた?」

「あと少しで読み終わるよ。読んでてすごくワクワクする展開で楽しく読めるね」

「そう思ってくれればなにも言うことはないな。読んでくれてありがとうな」

「ハルの書いた小説もいつか見せてね。それまでに色々読むから♪」


 夕日を背に夏美が輝いてるように見えた。あの笑顔がそうさせているのかもしれない。今日は、何故か夏美に見惚れることが多すぎる。一体どうしたんだ、俺は。


 少しだけ時間があったので春夏を一旦夏美に任せて俺は執筆をすることにした。思いついたことを書いているだけなので夏美の話にも耳を向けることが出来た。


「そういえば、ハルがこの前言ってたことがなんとなくだけど分かってきた気がするの。読んでる内に自分がヒロインになってる感じが」

「夏美は、感受性がいいんだな。普通は、ある程度まで読み込まないと掴めないと思っていたのに」


 俺ですら、100冊ほど超えてからようやく出来たというのに、夏美の感受性の高さには恐れ入るばかりだな。


 夏美は、俺を褒めるように次々と言葉を放つ。


「ハルが何も言わずに渡してたら、今の私のようにはならなかったと思う。本が好きでそれを押し付けることなく、読みやすい本を選んでくれたから出来たんだと思う」

「まぁ、あまり読み過ぎると俺みたいになるから気をつけてな。夏美は陽キャラだから悪影響を及ぼしたくないから」


 本を読んでる人が陽キャラなのは余程でない限りレアなケースである。


 こんな言い方は失礼に当たるが、本を読む人はほとんどが何か問題を抱えたりする。


 女性にトラウマを持っていたり、人との関わりに問題があったりと様々だ。


 なので、俺が本を勧める際は深く潜らなくてもいい物をチョイスしている。


 そうすればこっち側の人間になることが無い、こっち側の人間は3次元を嫌い、2次元に思いを馳せている。


 ただ、小説を書いたりする人はそれを参考書のように扱ってるのである。


 けど、俺は言い方を誤っていたようで夏美が俺の所へやってきて少しだけ怒気を纏わせながら俺に抗議した。


「私は本読んでるから陰キャラとかないと思う。そもそも人の価値をそんなことで決めつけたくない。ハルは陰キャラなんかじゃないよ。自分を卑下にしないで!」

「分かったよ、今回は俺が悪かった。でも、そうゆう人もいるってことだけは覚えていて欲しいかな」

「今度言ったら、本気で怒るからね。誕生日に怒りたくないのに~」


 頬をプクーって膨らませているけど全然怖くないからな。


 美少女がこうゆう仕草をしても畏怖感がないことを改めて実感した。


 すると、準備が出来たようで俺らは下に降りる。


 降りて食卓を見たら普段ではありえない光景が目の前にあったのだった。

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