林間学校①

 5月の終旬、うちの学校では各学年で行事が存在する。1年生、2年生は林間学校という要は野外キャンプのようなものである。当然、1年と2年では行う場所は違う。


 因みに3年生は修学旅行で今年は沖縄らしい。今頃は凛姉や悠姉が向かって居る頃であろうか?


 凛姉たちは生徒会役員でもあるので多少はあっても大きな羽目を外すことは無いと思うが1%だけ不安があるけど……


 多分、俺関連で………しかも、その1%をやらかしそうなんだよな。あの2人だしな。


 そんな訳で俺ら2年生は、その林間学校で目的地に向かっている最中だった。


 その場所は一旦入り込んだら2度と出てこれないという、富士の樹海の近くにあるキャンプ場らしい………っていうか近くに危険な場所をチョイスした人に文句を言いたいが、その人物は凛姉なのである。


 俺、凛姉に恨まれることしたっけ?っていうか、一緒に行けないだけで恨みを買いそうだな……

 はは、大変めんどくさい姉である。


 バスは、クラスごとで分けられている。


 春夏秋冬と雪月花は別のバスになっていて、当然ながら俺とアキ・夏美と冬姫の席どりをしていた。


 夏美は冬姫が全力で奪われるのを阻止したのでここにいる。

 鈴木を含めた他男子数名は、俺に厳しい視線を向けていたのだ。


 けども、今の俺にはそんなのはどうでもよくて問題はそこではないのだ。


「はぁ、今年もやってきてしまったか……」

「ハル、どうしたの浮かない顔して?なんかあったの?」

「いや、正直な所いうと今回の学校行事はあまり好きじゃなくてな。あまり気分が乗らないんだよ」

「へぇ~、そうなんだ。私は結構ワクワクしてるけど」


 そう、俺は学校行事が苦手というか、人付き合いがあまり得意とは言えないのだ。


 だから、今まではアキと冬姫がいてくれたから何とかなってはいたが、今年は夏美もいるので前に比べれば少しだけ嫌な気持ちは薄れていた。


「今回は富士の樹海近くとはね。浅海会長もやってくれるね」

「ほんとね、誰かさんに恨みでもあるんじゃないの?」


 アキと冬姫が俺に向かって言ってくる。


 いや、実際に俺もそうなんじゃないかって思ってしまうくらいだ。ただし、理由は果てしないほどにくだらないがな。


 きっと『ハルと一緒に行けないからここでいいでしょ』って笑いながら言ってそう。


「俺のせいにするんじゃねぇ、俺は悪いことは一切してない。全く凛姉め」

「ハルは色んな意味で凛子先輩に愛されてるね。弟が心配なんだよきっと」

「いや、それならもっと安全な場所があると思うんだが?絶対に嫌がらせだ」

「嫌がらせ?」


 理由は未だに不明なのだが俺は、暗闇と1人での森の中が苦手なのである。誰かといたりすれば問題なのだが、1人になってしまうと足がすくんでしまうのだ。


 凛姉も一応は知ってるから質が悪いのである。


 ただ、林間学校の出来事を後ほど聞いて凛姉が酷く落ち込んだのは言うまでもない。


「それで嫌がらせな訳ね。ふふ」

「なんで笑ってるんだよ。こっちはある意味一大事だっていうのに……」

「ごめんごめん、いつも気丈としてるハルがここまで暗くなるのは初めて見たから。大丈夫、私達がいるから」

「私達じゃなくて、私の間違えじゃなくて~?誤魔化さなくてもいいのに」

「もう~、冬姫~」


 夏美と冬姫の女子トークが始まり俺とアキは只々、聞き役に徹することしかできなかった。


 一度、高速のサービスエリアに止まった時に席を交換されていて俺と夏美・アキと冬姫いう擬似カップルとカップルのような形になっていた。


 犯人は、冬姫で間違いないだろう。冬姫ならやりそうな感じだしな。


 もし、これが”百花繚乱”だったら冬姫+雪月花の誰かになるだろうけど。


 今は、そうゆうのもありなのかなって思えてしまう。きっとそう思わせてくれているのは間違いなく夏美だ。


 夏美と出会ってから約1ヶ月半は経つが、夏美の明るさのおかげで、最近はめんどくさいと思っていたことが、少しであるが楽しいと思えるようになってきた。


 今回の林間学校もそうだ。


 もし、夏美がいなかったら『ハルはもうちょっと楽しめよ』ってアキに言われているのに今回はまだ言われてないのだ。


 それは、俺自身がめんどくさいと思っていないのかもしれない。夏美といれば何か楽しいことが起きるんじゃないかという期待。

 ほんと、他力本願だな。


「ハル、そろそろ着くみたいだよ。降りる準備しよ」

「ああ、そうだな。色々片付けないとな」

「今日は、何の本を持ってきてるの?」

「平安時代の鬼夫婦が現代に転生して一般の高校生を謳歌する物語だけど、あとで少しだけ読んでみるか?」

「うん、読んでみたい。ありがとう」


 やっぱり、夏美の笑顔はいいなって思ってしまう。冬姫が優しく空を照らす”月”とすれば、夏美はどんな暗闇すらも吹き飛ばす”太陽”を思わしてくれる。


 月と太陽があれば”春夏秋冬”はずっとあり続けてくれる。そんな気がした。


「冬姫、夏美、2人ともありがとうな」

「ハル、どうしたのいきなり『ありがとう』なんて」

「いや、急に言いたくなっただけだ。2人がこのままずっと仲良くしてくれればって思ってさ」


 2人は?って顔していたけど俺も?なのだ。大きな理由はないんだ、ただ感謝したかったんだ。


 アキは俺の言葉に含みがあると感じたようで、2人が前を歩いている時に俺の所に来た。


「俺も、ハルがいきなりあんなこと言うからびっくりしたよ。でも、ハルのことだから意味もなく言ったわけじゃないよね?」

「はぁ、流石だな。今までは冬姫がここを明るくしてくれていたけど夏美が入ってその明るさが更に増したような感じがしてさ」

「ハルの言いたいことはなんとなくわかる気がする。冬姫が月で夏美が太陽って言いたいんでしょ?」


 なんで、俺の思考が読まれてんだよ!やっぱり、イケメンはエスパー持ってる。


「俺としてもハルが今まで以上に明るくなってくれるなら、願ってもないことだからね。夏美にはもっと光を出してもらわないとね」

「俺が干からびるだろうが。夏美ならやりかねないから本人には言うなよ?」

「それは、最終手段として使うことにするから安心してよ」

「いや、最終手段と言われて安心って。色々と突っ込みたいことがあるんだが?」

「突っ込むのは、俺以外にしてくれ。あと、冬姫も駄目だからね。俺のだから」

「どさくさに紛れて下ネタを見舞うな」

「ハルがそれをしても良いのは……今はやめよう」

「最後のオチがそれかよ……ってどうゆうことだ?」


 そんな、男子高校生らしい健全?な会話をしながら泊まる場所へ歩くのだった。


 林間学校などで使われる場所は、大概が結構年数が経っていてボロなイメージをしていたが着いてみると、意外と綺麗にされていて驚いた。


 なんかこれなら楽しめそうな気がした。あれをするまでは……


 俺とアキは、同室なので荷物を置いて少ししたら山歩きをするらしいので、今のうちに体力を蓄える。俺だけな。


 アキはスポーツ万能なので体力は問題ないはず。すると、LAMからメッセが飛んできて『今から2人でそっちに行くー』って書いてあった。


「アキ、夏美と冬姫がこっちに来るってさ」

「了解、この辺だけ空けておけばいいかな?」


 俺ら以外に同室の連中はいるが、アキと冬姫の関係は周知の事実なので来ても何の問題もない。ん、ないのか?深く考えるのはやめよう。


 そこで一つだけ問題となるのが俺と夏美の関係を他人がどう見るかなのだ。


 以前、夏美が鈴木にキレた際に『私が誰と行動しようと私の勝手』と大きな声で言ってるので夏美がここに来ることは問題ないとは思っているのだが……


「ハル、今は春夏秋冬で集まるんだから気にすることは無いと思うよ。山歩きのメンバーがこっちに来るって思えばいいんだからさ」

「悪い、またくだらない考えしてたわ。気をつけるよ」

「まぁ、ハルはいつも俺らのことばかり気にかけてくれるからな。俺らがハルを気にかけるのは当たり前のこと」


 数分後、夏美と冬姫が部屋に来て夕食の話に盛り上がっていた。


「去年は、冬姫に任せっきりにしてしまったけど、今年は4人とも料理できるか冬姫の負担が減るのは良かったよ」

「そうなんだ、今年は私と冬姫で美味しいの作ろうね♪」

「そうね、2人の胃袋を掴まないとね」

「おいおい、野外炊飯は俺ら以外にいるのを忘れるなよ?」

「まぁ、彼らには調理以外のことをやってもらえばいいんじゃないの?私達4人は調理担当で」

「俺らもやるのか?まぁ、食事会のこともあるから多少は出来るようになってはいるけど」

「冬姫が言ってるのは、慣れるためにやったらってことでしょ?ちゃんと言わないと」

「夏美、補足してくれてありがとう。って訳でお願いできるかな?」

「「分かった」」


 同室にいるメンバーも野外炊飯の面子なので確認のために聞いてみたら役割担当に問題はなそうだ。要は美味しものが食べれるなら問題ないとのこと。


 山登りの時間も近づいてきたので俺らは外に行く準備を始めたのだった。


 ハイキングコースは意外と勾配がきつく、アキ以外は少し辛そうだったが冬姫はアキが完全フォローするので、気にすることはないのだが、夏美が気になってしかたなかったので夏美の前を歩くことにした。


「夏美、大丈夫か?焦らないでゆっくり行こう」

「うん、ハルも先に行っていいよ。追いつくから」

「そうはいくか。そばにいるから一緒に行こう」

「う、うん。ありがとう。きゃ!」

「夏美!」


 夏美が足を取られて転倒しそうなところを間一髪で手を掴んで防ぐ。近くにいてよかった。


「言ってるそばからごめんね……」

「夏美を助けるのは当たり前だろ。何かあれば俺に頼れ」

「分かった、そうしたらお願いがあるんだけどいいかな?嫌だったら別にいいから」

「俺が出来ることならいいけど。お願いって?」

「着くまで手を繋いでほしいんだけどダメかな?」


 どんなお願いが来るかと思ったらそうゆうことか。さっきの転倒が頭から離れないのだろうな。それくらいならお安い御用だ。


「いいよ、俺がついてるからゆっくり行こうな」

「ありがとう♪」


 俺らは、ゆっくりと目的地まで歩いた。呑気に春夏の話などをしながら。


 ただ、この時の俺は手を繋ぐの意味合いを履き違えていた。そのおかげで目的地に先に着いていたバカップルに弄られる羽目になったのだった。

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