猫とラブコメは突然に

カズハル

1章 出会い

猫と女の子との出会い 

 恋愛やラブコメで使われる『運命』と言えば、まず思い出るのは大抵『運命の赤い糸』が多いと思う。


 だが、そんな物は無いとは言わないがそうそう自分に来るものではないと。


 自分も男、全く興味が無いという訳ではないが、自分の容姿などを客観的に見た上で俺にはそんなことはあり得ないと自負している。


 それを声を大にして言えるのは自分の人生に自信を持っている人間くらい。


 それが、まさか自分に降りかかるとは思いもせずに……


 ※


 学校が終わり、俺は一人で下校していた。


 いつもなら美男美女カップルがもれなくついてくるのだが、今日はデートらしく一人で帰ることになった。


 べ、別に羨ましいなんて思ってない。


 多分……これは強がりであって本当は欲しいのは明白。嫉妬が物語っている。


 そう言っておきながら、彼女が出来ない理由がある。


 ある時を境に本が好きになり、将来は小説家を目指してる為、学校でも常に本を持ってきては読んでいる。


 と言っても、ミステリーやホラー、文豪小説ではなくて漫画を小説化?した所謂いわゆるライトノベルであるが、何故か煙たがれるのだ。


 自分の思い描くイメージでは限界があるから書籍化されている作品や投稿サイトの作品を読み、自分の足りない所を分析しながら日々過ごしている。


 小説もWeb投稿してはいるものの、二次選考まで残れたことが一回あるだけ。


 あとはすべて一次で落選してしまっているが諦める気はない、飽きるまで根気よく付き合っていくつもりでいる。


 いきなり大賞とか取るなんて大層なことは言えないので、今の目標は最終選考に残ることにしている。


 いくら大賞を取れても一発屋で終わってしまったら意味もない。


 出来るならずっと書いていたい、物語を紡いでいたいと思う。


 部活も文芸部に所属しているが、部員は当然俺一人であり、他の部活動でこの部室を使うことはないので、一人でも部活として使用してる。


 いつまで使えるのかは不明で同好会のレベルなんだが、使わせてもらってるだけありがたい。


 俺の学校での立ち位置は陰キャラ扱いされている為か、女子が寄ってくることもないので彼女の『か』の字もないのだ。


「彼女か……俺なんかに出来る訳ないよな。欲しいと思う意欲がないのも原因だが。運命の出会いとか柄じゃないもんな~」


 俺は、独り言を呟いていた。


「運命なんて漫画やラノベの世界だけだよな~。そもそも運命的な出来事自体が未だにないんだから、もしあっても対応すら出来なそうだしな……」


 呟きは呟き出すと止まらない。


 運命の出会いなんてものはそうそうあるものでない。


 昔、一度だけ会ってて『ずっと好きでした』というシチュエーションなんて妄想も良い所だ。


 ただ、現在においては運命とは言わないが奇跡めいたことなら多少はある。


 ただし、恋愛関係ではないけどそれはそれでいいと思う。


 しかし、その『運命』がいつ間にか自分の今後の行動から人生まで変化させられるなんて思う訳もない。


 未来なんて見えたらつまらない。


 そんな荒唐無稽なことを考えながらも、いつもの道を帰ってる際に、いつもとは違う風景がそこにあった。


 電信柱の所に一人の女の子がしゃがみ込んでいて、もしかしたら具合が悪いかもしれないと思い、近づいてみると具合が悪いわけではなくある動物を眺めていた。


「猫?子猫か?」


 そう、猫だった。


 可愛い、白くてもふもふしていて男である俺が見ても可愛らしい。


 少しだけ成長した子猫のようだった。


 見る限り、彼女も俺と同じくらいの年齢だろうか。


 夕日に当たって黒くて長い髪の毛が輝いて見えて、その髪を地面に着かないように膝にかけていた。


 俺自身、高校生だから不審者扱いされることはないはず……自信はないけど……


 思い切って声をかけてみることにした。

 

「ねぇ、その子猫拾って帰るの?」

「ひゃ!び、びっくりした~」

「わ、ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだ」


 しゃがみ込んでいた女の子に声を掛けたが特に他意はない。


 どうやら、女の子は猫に夢中で俺や通行人の存在に全然気づかなかったらしいが、どんだけ集中してみてるんだよ。


 誘拐されても気づかないんじゃないかってくらいだぞ……全く。


 通行人達は敢えて関わらないようにしたんだろうと思う。


 まるで捨て猫を汚い物を扱うように見ていたかのかもしれない。


 それと一緒にいた女の子も。


 女の子は俺を見るなり、すごい勢いで問いかけてきた。


「ねぇ、この子助けてあげて!」

「君がこの子を連れて帰ってあげたら?」

「ううん、私の家は動物は飼えないの。だから、可哀想って思って……」


 ちゃんと声を聞くと、可愛らしい声をしていて、声もしっかりと通っていて聞きやすかった。


 どうやらこの子は、心優しい女の子のようだ。


 こうやって猫を見ると昔を思い出す。


 昔の記憶が色々と曖昧なんだが、猫と遊んだ思い出だけは何故か残っている。


 他にも大切なことがあった気がするが、全然思い出せなくて思い出そうとすると、拒否するかのように急に頭痛がしたことがある。


 その理由は全く不明であり、病院に行っても適当にあしらわそうなので行ってはいないが、すぐに何もなかったように消えたので気にしないことにした。


「………ねぇ、ねぇってば!!」

「び、びっくりした。どうしたの?」


 どうやら、声を掛けてくれていたらしいが俺が更けていた所為で、大声を出させる羽目になってしまった。


「いや、あなたがフリーズしてるから」

「ごめん、ちょっと昔に猫と遊んだことを思い出してて」

「なら、あなたが拾ってあげてよ。だってこんなに可愛いのに可哀想で」


 俺の言葉に彼女がそう返すのは当然のことであるが、こればかりは簡単に頷くことが出来ない。


 猫が孤独になってしまうのを女の子は何とかしたいらしいが、かと言っていきなり連れて帰るわけにはいかないので、一旦家に連絡を入れる。


 彼女が聞こえる位置で、スピーカーもオンにする。


『はい、もしもし。春彦?どうしたの?』

「あのさ。急な話なんだけど猫を連れて帰りたいんだけどいいかな?」

『うーん、私はどっちでもいいけどお父さんがなんて言うか』

「このままだと可哀想だから一旦家に連れて帰るよ」


 母親にそう告げて電話を切り、そして女の子の目を向けた。電話の内容を聞こえるようにしていたので、少々不安な顔をしていた。


「話は聞こえたと思うけど、現状はこれで満足してくれるかな」

「でも、君のお父さんがダメって言ったらこの子は……」

「まぁ、頑固おやじって訳じゃないから多分大丈夫だと思うよ」


 父さんは別になんでかんでも駄目だって即決する人ではない。


 ちゃんと話を聞いた上でどうするかを考える、俺の中では大丈夫って結論付けた。


 すると女の子がいきなり大声を上げる。


「あーー、やばいもうこんな時間!早く帰らないとまた言われちゃう。可愛い猫ちゃんのことよろしくね!」

「あ、ちょっと」


 さっきと逆の展開になってしまった俺と子猫。猫はそのままか……いや、そうじゃない。


 名前も知らない女の子は猛ダッシュして消えてるようにいなくなった。


 うーん、すこしはお淑やかに……可愛いのに勿体ないなって思ってしまった。


 だって、走り出した時に……これ以上は言えないな。守秘義務は大事。


 しかし、この猫と女の子の出会いが今後の俺の学校生活から私生活まで変わるなんて思ってなかった。


『猫とラブコメは突然』ってか。ありえないわ。


 これは、一匹の猫がある男女が見つけ、猫をきっかけに色々な感情が交差していきそれは当人達が知りえぬ事実が徐々に明らかになっていく青春ラブコメである。


『奇跡』『運命』が織りなすラブコメでもあるかもしれない。

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