第10話 夜空

 俺と千夜は気配を消しながら、燃料となる木材(松ぼっくりや小枝など)を拾い集めていた。


 怪物達から身を潜められる場所を探していると、丁度良い大きさの洞窟を見つけた。そこで一晩を過ごす事になった俺達は、体温を保つ為、焚き火に使う木材を集める事になった。


「カミリ、充分集めたし、そろそろ戻ろう」


「分かった」


 俺達が洞窟まで戻ってくると、もう日が落ちかけている。これは急いで火をつけなければ真っ暗になる。

 洞窟の奥の方では、葵が頑張って木の枝を擦り合わせている。どうやら、摩擦からの着火を狙っているらしい。


「カミリさん、千夜さん、緊急事態です! いくらやっても火がつかないんです、お二人も手伝って下さい!」


「葵、俺が火をつけるから、少し下がってくれ」


 俺は葵と交代に木の枝の前へ来ると、腰に差していた剣を抜く。


「神剣術・神吹雪!」


 剣を振り下ろすと同時に舞い散った火の粉は、木の枝に当たると火がつき、段々と大きくなる。


「おおーー!」


 葵はその炎に歓声を上げる。


「何か……神秘的だね」


「そうだな」


「では、作戦会議といきましょうか!」


 葵がこちら側の雰囲気をガンガンとぶち壊していく。

 全く、人がこの光景に感動しているのに、葵はいつも先を見ている。


 しかし、いくら冷静沈着と言っても、これは何か別の類のような気がする。

 俺は心に秘めた思いを千夜にコソッと伝える。


「なあ、千夜。もしかして葵って……ケーワイ?」


「まあ、空気は読めて無さそうだけど……」


 千夜は少し苦笑いをする。


「何してるんですか、二人共! 作・戦・会・議ですよ!」


 俺達は三人で炎を囲み、明日からの作戦を考えた。

 無事会議は終了し、明日に備えて寝る事にした。寝ると言っても、一時間ごとに一人が見張り、二人が睡眠を繰り返す。


 何時誰が襲って来ても可笑しくないこの状況、精神的に追い詰められるチームも少なくないだろう。

 俺は二時間分の睡眠を補給し、千夜と見張りを交代する為、焚き火より少し遠くの入口付近で座っている千夜の方へ向かう。


「千夜、交代だ」


 俺の声に反応してこちらを見ると、またすぐに先程まで見ていた夜空の方へ視線を動かす。


「カミリ、少し……話さないか?」


「ああ、良いぜ」


 俺は千夜の横に座ると、夜空に目を向ける。


「なあカミリ、俺達が最初に会った日の事、覚えてるか?」


「ああ、ビックリしたぜ。まさか転校してきて突然喧嘩吹っかけてくるとは思わなかった……」


「それで、僕は君に完敗したんだっけ……」


「ああ、そうだったっけな……」


 千夜は夜空を見たまま目を瞑り、そして目を開ける。俺はそれを横目で見て、また夜空を見る。


「僕はカミリにずっと憧れてたんだ。僕が長い期間努力し続けても、カミリは一瞬でそれを抜き去ってしまう。だから、離れてしまうのが怖かったんだ。カミリは天才で、僕は凡人っていう線引きで……」


 俺はずっと夜空を見続ける。千夜も同様だ。


「でも、僕は強くなった。今まで憧れだったカミリは、超えるべき壁に変化した。だから僕は、今回の試験、本気でカミリに勝とうと思ってる!」


 俺は千夜の方を見る。その顔は覚悟を決めた男の顔だった。


「それは俺もだよ!」


 俺と千夜は片手で握り拳を作り、互いの拳をぶつける。

 千夜は洞窟の中へと入っていき、俺はまた夜空を眺めた。


 ■


 チュンチュン


 朝だ。洞窟の外では、小鳥が木の実をつついている。

 俺は朝食を確保する為、近くにある川へと向かう。

 昨日は木材集めに必死で、魚を捕る事を忘れていた。


 ピチャン!


 流れる川の音に魚の跳ねる音が聞こえる。周囲からは鳥と風の音、揺れる茂みと誰かが土を踏む音が美しく……ってこの音は何だ?


 俺はその不可解な音がする方へ体を向ける。

 小さめの怪物か? それとも他のチームの人か?

 突然足音が止まる。


 ビュン!


 後ろから球のような物体が凄い速さで飛んでくる。狙いはクリスタルだ。


「くっ!」


 不意に現れたその物体に間一髪避けながらも、その物体を確認する。


 小石だった。

 小石は殺傷能力が低いので、これを投げた人はあくまでクリスタルが狙いだという事だ。クリスタルを小石で吹き飛ばしたところを拾い、逃げる算段だろう。


 俺は小石が飛んで来た方向に体を向ける。


 ビュン!


 またしても小石は俺の真後ろから飛んで来る。俺はその小石もかわすと、また飛んで来た方向に体を向ける。


 ビュン!


 次は後ろから二つ飛んで来る。俺はそれを容易く避ける。

 流石に学習しない馬鹿では無い。


「神剣術・神居合かみいあい!」


 俺は目の前の茂みへ高速移動すると、居合切りを繰り出す。

 俺の神剣術は一時的身体強化が多く、神居合は瞬発力をほんの一瞬数倍に高まる。


 散り散りになった茂みの中には、黒の着物を着た人が顔を覆い、しゃがんでいた。


「お願いします、殺さないで下さい。ヒイーー!」


 その人は何かボソボソ呟き、悲鳴を上げる。

 俺は少し呆れながらも、首を叩いて気絶させる。

 その人が意識を失ったのを確認すると、もう一つの茂みと大木に向かって叫ぶ。


「お前達、とっくにバレてるぞ。さっさと出て来い!」


 種明かしはこうだ。単独で動いている奴を見つけて、チーム三人が別々の物影に隠れて、クリスタルを狙う。

 一人の方へ向かうと、その後ろに待機していた二人が攻撃する。初めは危なかったが、慣れてくると対応がし安くなる。


「クソが、こうなりゃ正々堂々と勝負だー!」


「覚悟しろ!」


 二人の男が同時に物陰から飛び出す。二対一で何が正々堂々だ。


「神剣術・二連円鉄斬り(峰打ち)!」


「「ぐはぁっ!」」


 俺は飛び出して来た二人を気絶させると、三人分のクリスタルを奪い、自分の腰に付けた。


「はあ、お腹空いたな……」


 俺は魚を捕るべく、川へ入っていった。

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