記録10 乙女の憧れ純白のドレス

魔族の領地にも梅雨がやってくる。今日も赤い雨が降っていた。

「じめじめしてて気持ち悪い・・・」

クローチェはノートを片手にベッドでゴロゴロする。

「姫様、髪が乱れますよ~」

フィクが軽くたしなめるがクローチェは聞いていない。

「暑苦しいよぉ・・・てか、黒とか気分も下がるんだけど。ね、フィク、なんか明るい色合いの服とかない?」

「うぅん・・・そういえば無いですね」

クローゼットの中は、どれもこれも黒っぽい服ばかりである。

「そういえば、人間の領地ではこの梅雨の頃に結婚すると幸せになるらしいわよ?ジューンブライドって言うらしいわよね。いいよなぁ、人間の領地の花嫁衣装の方が可愛いなぁ。魔族の領地の黒い花嫁衣装とか、つまんない」

クローチェは人間の純白の花嫁衣装の写真を見る。

「そうですかね?私は結構、好きですけど」

「そうだ!せっかくだし、裁縫が得意な臣下に頼んで純白のドレス作ってくれるように頼んでみよう!」

クローチェはベッドから飛び降り部屋を飛び出す。

「ちょ、姫様!お待ちくださいっ!」

フィクも慌てクローチェを追いかけた。



「じゅ、純白のドレス、ですか?」

裁縫が得意な臣下。サキュバスのルナーリアが長い艶やかな前髪の隙間からクローチェのノートに貼り付けられた人間の純白の花嫁衣装の写真とクローチェを交互に見る。

「そう!私、黒っぽい服しかないのよ。でも、梅雨の時期とか暑い夏の時期なんかは明るい色合いの服とか欲しいのよ~」

「な、なるほど・・・」

「ルナーリア様、断っても構いませんからね。と言うか断って下さって結構です。姫様のワガママですから」

クローチェの後ろにいたフィクがルナーリアに断る様に圧をかける。

「ちょっとフィク!ね、ルナーリア!お願い!一生のお願いだから!」

「あ、えっと、その・・・」

「姫様、ルナーリア様に無理を言ってはいけません!さ、帰りますよー」

「え、ちょっとぉ!」

フィクはクローチェをズリズリ引っ張る。

「あのっ!つ、作ります!」

ルナーリアがプルプル小刻みに震えながらそう言った。クローチェがばっとルナーリアの手を取り握る。

「本当!?ありがとう!ルナーリア!!」

「る、ルナーリア様!無理しなくても!」

「む、無理して、ませんっ・・・!作り、たいのです。わ、私が、純白のドレス姿の、ひ、姫様がみたい、のです・・・!」

「ルナーリア!!大好きぃい!」

クローチェはルナーリアをぎゅうぎゅう抱き締める。


そんなわけで、クローチェの衣装作りが始められた。

「ま、まず、どんな型に、し、しましょうか?」

ルナーリアがいくつかのドレスの型を見せる。

「うぅん・・・ルナーリアのおすすめをひとまず聞きたいな」

「そ、そうですね・・・王道なのは、プリンセスラインです。す、スカートのボリュームがあって、ま、まるで、お姫様みたいな衣装で、す。あとは、ベルラインが、プリンセスラインとちょっと、に、にています」

「なるほど~確かに可愛い。ちなみに、ルナーリアの一番のおすすめとかある?」

「わ、私のおすすめは、この、エンパイアライン、です。姫様の普段着る衣装も、よく、この型を、使っていま、す」

「あ、ほんとだ」

クローチェが今、着ている衣装を引っ張り見る。

「ルナーリア様、どうしてこの型がおすすめなのですか?」

フィクがエンパイアラインの型を見ながらルナーリアに聞いた。

ルナーリアがプルプル震えながら言いにくそうにぼそぼそとしゃべる。

「そ、それは・・・む、胸の下に切り替えが、あるので、ば、バストを大きくみ、見せるのです・・・その、姫様は、随分、バストを気にしているので・・・」

一瞬の沈黙。

「くくっあはは!」

フィクがお腹を抱えて笑う。

クローチェは、少し涙目である。

「す、すみませんっ!すみませんっ!姫様っ!すみませんっ!」

ルナーリアが頭をすごい勢いで下げる。

「る、ルナーリア・・・謝らなくていいよ!私のバストの事、考えてくれて、ありがとうぅ・・・感動で涙がとまんにゃいよぉ!エンパイアラインでお願いしましゅぅう」

クローチェが涙をボロボロこぼしながらルナーリアの手を握った。


そんなこんなで型が決まりクローチェやフィクと何度か相談しながら衣装をルナーリアは黙々と作っていった。



「ど、どうでしょう!ひ、姫様!」

ついに完成した!少々ルナーリアの顔がやつれたような気もするが、瞳はキラキラと輝いていた。

「き、綺麗・・・!すごい!どこにも黒色が無い!真っ白!ありがとう、ルナーリア!!」

クローチェはルナーリアに抱きつく。

フィクも興味津々に見ていた。

「すごいですね・・・眩しいですっ」

「姫様、き、着てみてくださいっ!」

クローチェは早速、更衣室に駆け込みフィクに手伝ってもらいながら着替えた。

「じゃじゃあ~ん!どう?似合ってる?」

クローチェがその場でくるっと回る。

ルナーリアは、ほわっとした表情になった。

「や、やっぱり、姫様の黒髪によく似合っていますっ!」

クローチェの黒髪と純白のドレスが互いに引き立てあっている。

「あらあら~姫様、可愛いですわね~」

「ほわわ~姫様、女神様の様です~」

いつの間にかフィク、ルナーリア以外の魔族たちも集まっていた。

「姫様!せっかくだし、ファッションショーとかやったらどうでしょう?」

女性ヴァンパイアがファッションショーを提案する。クローチェの瞳はキラキラである。

「おー!ファッションショー!いいね、やりたいっ!せっかくだし、お母様にも見せたい!」

「それなら早速、他の魔族たちを読んで準備させますわ!」

こうして流れる様に姫様の新しいドレスの発表ファッションショーの開催が決定したのである。


まだ、クローチェたちは知らない。このあと、あんなことになるなんて・・・


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