第5話 ダンジョン攻略へ

「よし、次だな」


 俺はまた小石を広い、俺に気づいていないゴブリンに向かって投げつけた。

 当然ゴブリンは、俺の存在に気付きこちらに向かって走ってくる。

 ここは細い一本道。後ろには誰もいない。


 そして前からゴブリンが現れる。


「グガァァァァッ!」


 敵意満々といった感じで、叫びながらダガーを振り被りながら突進してくる。

 俺は恐れずに、そのダガーを《キラーナイフ》で受けた。


「ギッ!? ギギギギギィッ!」


 ゴブリンが必死な形相でダガーに力を入れて押し潰そうとしてくるが……。


 ……あれ? こんなもんなのか?


 まるで小さな子供を相手にしているみたいに弱い。

 恐らくこれが《パーフェクトリング》の恩恵なのだろう。


 これなら十分に行けるっ!


 俺は力任せにダガーを弾き飛ばし、ゴブリンの小さな頭に蹴りをくれてやった。

 ゴブリンはよだれを撒き散らしながら壁に激突して座り込む。

 そんなゴブリンに、俺はすかさず接近してナイフを振り被る。


「……終わりだ」


 ナイフを一閃し、ゴブリンの首を切り裂いてやった。

 あっさりと首と胴体が離れ離れになり、切断部分から青色の血液が噴出する。

 返り血を浴びてしまうが、特別酸性で服が解けたり皮膚が火傷を負ったりはない。


「……ふぅ~。……殺せたな」


 同情の余地はないし、殺す必要もあったから後悔などはしていない。

 あるとするなら「やってしまった感」であろうか。


 これでも恐らく続けていけば慣れてくるのだろうが、やはり良い気分ではない。

 俺はしばらく動かなくなったゴブリンを見ていると、そのまま光の粒子となって消失したのである。


「なるほど。討伐したら消えるってことか」


 俺は《ボックス》を開いて、あることを確かめてみる。


「……やっぱりあったか」


 そこには《ゴブリンの牙》、《刃毀れのダガー》がそれぞれ収納されていた。


 実は〝SHOP〟にもモンスターの素材というカテゴリーがあったのだ。そこには《ゴブリンの牙》というものもあった。

 そしてあるということは、どこかで入手することができるということである。


 ならば討伐すれば、こうして手にすることができるのではと踏んで確かめたのだ。

 特に必要もないのですぐに売却しておく。


「これでいろいろ確かめられたな。あとは……ダンジョンについて、か」


 ダンジョン化とは口にしているものの、本当にダンジョンと化しているのかは不明だ。

 それを確かめておきたい。

 俺は再び惨劇の家へと戻り、今度は玄関から庭へと移っていく。できるだけ遺体は見ないように。


 すると縁側に通じる居間に、先ほど見た奴か、ゴブリンが一体いた。

 隠れて周りを見回しても、どうやら奴しかいない。


「……おい」

「ギギ? ギィィィィッ!」


 声をかけて俺に気づくと、すぐに馬鹿正直に突っ込んでくる。どうも知能は低いようだ。

 同じようにダガーを受け止め、そこから受け流して相手の体勢を崩す。

 よろめいたゴブリンの背中へと回り、背後から胸に向けてナイフを突き刺した。


「グギィィィィィィッ!?」


 苦しそうな断末魔の叫びを上げながら、そのまま前のめりに倒れていき消失した。


 ――これで二体。


 あとどの程度の数のモンスターがいるのか。

 かなり弱いゴブリンがいるので、そうランクの高いモンスターがいるとは思えない。


 まあ、あくまでもRPGらしいお決まりならば、だが。


 俺はそのまま居間へと上がり耳を済ませる。

 音がするので向かってみると、そこはキッチンであり、シンクのところにはゼリー状の物体がウネウネと動き回っていた。


 すぐに《鑑定鏡》で確認し、対象がスライムだということが判明。


 やっぱいるんだな……スライム。


 ランクもゴブリンと同じで、弱点は身体の中央にある赤い核らしい。

 今度は俺が真っ直ぐ突っ込んで、そのまま油断しているスライムの核をナイフで突き刺した。

 スライムはそのまま溶けるようにシンクに流れていき消失する。


「これで三体」


 一階にはもう音がしない。あとは二階……か。


 動いている足音が聞こえるので間違いないだろう。それともまだ住人が生きているのか。

 できるだけ足音を立てずにゆっくりと階段を上っていく。

 上り切ると、三つの部屋があることが分かった。

 廊下には誰もいない。どうやらどこかの部屋内に何者かがいるようだ。


 だが次の瞬間、ギシギシッ階段下の廊下を歩く足音が聞こえた。

 確認してみると、そこにはゴブリンが一体彷徨っていたのである。


 ……嘘だろ? さっきまで誰の気配もなかったぞ?

 少なくとも一階部分のマップは全部埋めたつもりだ。外からやってきたのか……?


 ……いや、ここはダンジョンだ。放置していれば、またモンスターがリスポーンする可能性だってある。

 つまりこのままの状態を維持すれば、倒した分だけまた生まれてくるというわけだ。


 とりあえず良い情報はゲットできたな。あとは……。

 どうやってこのダンジョンを攻略するのか、だが。


 俺は先に音のしない部屋を調べていく。するとそこは子供部屋だったのか、思わず俺は叫び声を上げそうになるのを、口元を手で押さえて我慢した。

 部屋中は血に塗れ、そこかしこに肉片が飛び散っている。


 その中には子供らしき小さな足と手が窺えた。それに大人の女性らしい腕も……。

 恐らくだが母親とその子供なのだろう。ゴブリンに殺され、身体のほとんどを食われたということだ。


 惨いな……。


 だが間違いなく、ダンジョン化してしまった建物内で起きている出来事だ。

 そう、俺が通っていた高校でも。


 俺は他に何も無いようなので、そっと扉を閉じた。

 もう一つの扉も、さっきみたいな光景があるかと覚悟をして開けてみる。


 すると――カチッ。


 何かスイッチを押したような音がしたと思ったら、突き当たりの壁に小さな穴が開いて、そこから矢が飛んできた。


「おわっ!?」


 思わず声を出してしまったが、素早く身を屈めることができて矢は回避できた。


 ――しまった!?


 声を出したせいで、もう一つの扉を開けてこちらへ出てくるかもしれない。

 俺は咄嗟に部屋の中に入って扉を閉め息を潜める。


 …………どうやら誰も近づいてこないようだ。




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