第13話 拒絶の森

放浪人は、空腹と喉の渇きに耐えながらを歩み続け数日。

過酷な砂漠道を越え、森の入り口にたどり着いていた。

壁のように何本も高い木がそびえ立ち地面には木の根や草木が足場のやり場を潰す。

おまけに木の枝と葉のせいで太陽は遮断され常に薄暗く奥が見えないほどの暗闇が続いている。森の奥から聞こえる獣のうめき声。時折ギラギラと光る何かが横切っていく。何者の侵入をも許さない拒絶の森。

生存本能でここに入ったら二度と生きては出られない。と感じる者が多い。

このような険しい森を入ろうせず少しばかり遠いが回り道を選択する者もいる。むしろそれが普通だという。


そんないかにもやばそうな拒絶の森にも臆することなく放浪人は足を踏み入れた。


「歩きにくいな」


突き出た根っこに足を置くとミシミシと根っこ悲鳴をあげる。


『クライアバル王国まで続く森、通称『拒絶の森』と呼ばれています。

ここからは、クライアバル王国の領地となります。特徴的なのは、この森の植物です。草や根、葉の成長が格段に早く草木や根を刈り取ろうとも数日後には元の状態に戻ります。

そのせいで森を伐採してクライアバル王国とサラーガを繋ぐ道計画が断念されました。

恐ろしいのは植物だけではなく狂暴で魔物や毒性の強い獣が多く生息。

これが俗に言う大自然の恐ろしさということですかね』


ログの淡々とした説明を聞きながら放浪人は森の先の方に目を向けると奇声のような鳴き声

重々しい地響きがこの森の過酷さを物語っていた。


「ふん。面白そうな魔物がいるのは間違いなさそうだ」

「危険な魔物や木々があるという情報が多く、森を避ける者が多いいみたいです

そのせいで未達成な退治クエストが数多く残っています。

腕に自信があるマスターにとってこの森はうってつけの場所かと思いますが」

「それはありがたい。ここであらかた稼がせてもらう」


その心は恐怖よりも楽しみに近いのだろう。

ログの音声を聞き終わると放浪人はニヤリと笑いながら指の関節をならし迷わず森を進む。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


しばらく放浪人は大きな木の根の上を渡り

目を刺し潰す配置をした木の枝をかわしつつ前へ進んでいく

面倒で危険な根の上を伝い少し歩くと切り開かれている足場にたどり着いた。


雑草が生え小虫が足元で動き回り少しぬかるんだ土。

ブーツに泥をつけながら歩いていると

突然ログが点滅した。


「少し聞いてもよろしいですか」


ログの問いに立ち止まらず「なんだ」と放浪人は腕をあげ返事を返した。


「先ほど盗賊から奪った食料の残りを何故置いてきたのですか?」


放浪人は少し考え「慈悲ってやつかな」と応えた。


「慈悲ですか」


理解してない様子のログに放浪人が続けざまに口を開く


「いくらなんでも砂漠で水と食料がないと死ぬだろ」


するとログはボロック団の情報を表示し始めると記されている情報を一通り読み上げた。


「このようにボロック団は仲間意識が強いので仲間に助けられる可能性がありますが」

「そうみたいだな。だったら全部持ってくるんだったか…まっ今さら嘆いてもしょうがない」


特に気にする様子もなく森を進む放浪人に対してログは「理解不能」と表示した。


森の中はかなり入り組み

ときおり木の根が足の踏み場がなくなりその都度ぬかるんだ土に足を踏み込み

ブーツを泥まみれにして歩いて行く。

見たことのない虫や小動物が木の枝や根のまわりにちょろちょと徘徊。

時折木々を震わせるほどの生き物の奇声の中森を進んでいくと

突然放浪人は立ち止まった。


「あれは……」


放浪人がつぶやき見た光景。それは先ほどまで火がついていたかのように焼き焦げた草木。

その隣にはシカに似た生き物の死体が無残にも横たわっていた。

死体は内臓がぎ取られ節々の肉から骨が貫いている。


放浪人は足早に死体に近寄り確認するとログが反応を示した。


「この生き物はホーンムリグです。草木を主食にしている生物です」

「だったような物だがな。先ほどまで何かがこれを食していたのだろう」


肉と骨の所々に鋭い歯形が深く食い込み、むしり取った跡が残っている。


「嚙み後から肉食の大型の魔物で間違いないと思います」

「ということは、早速討伐クエストだな」


死体から少し離れた草木が焦げ木々がなぎ倒されて道になっていた。

まるで大型生き物が通ったかのように


大きな木が乱暴に折れ曲がり、その中には根ごと引き抜かれた木が横に倒れていた。

放浪人は、大型生物が通った道を見て見るとそれはどこまでも続いていた。

しかしその光景は長くは持ちそうにない何故なら


「足跡が消えかけている」


草木は生き物の痕跡を消すように少しずつ根や葉を新しく伸ばしていた。

その証拠に先ほど目についた焼き焦げた植物の上からもう木のツルが覆いかぶさり消えかけていた。


「ん?なんだ。この液体が付いている所だけ変わっていないぞ」


放浪人の見た個所には木のツルが伸びておらず逆にジュクジュク音を立てながら木を侵食し始めていた。


「マスター気をつけてください。先ほどの死体と木々には同じような成分の毒が付着しております

これは恐らく毒針を吐く魔物の可能性があると予想されます」

「なにか狩ろうとしたのか?食事中に」

「わかりません。ですので気を付けてください」


ログの忠告に頷くと放浪人は辺りを警戒しながら足跡の方まで少し歩き地面や木を観察し始めた。

するとログが反応をしめす


「マスター。あの木の所に血痕があります」

「血痕?」


ライトに照らされた場所に放浪人が目をやると毒がついている木のすぐ近くの木に血痕が付着していた。


「これか。他にも人間の手の跡がついてるな」

「確認します」


するとログが謎の光を照射し手の跡と血痕を分析し始めた。


「この手の跡と血痕を予想するに人間だと思います」


物の数秒で答えが出た。


「あと木についていた液体から毒の成分認証確認。成分を見るにオオクモトカゲの可能性が95%」


もちろんこの世界にきたばかりの放浪人にとって初めての耳にする生き物の名前だが

丁寧にクモとトカゲというワードと足跡を見て大体の姿が想像できた。

「足が多いわけだ…」とつぶやいた。

やはりというか地面に深くめり込んだ足跡いくつも奥の森まで続いていた。


「もしかしたら俺以外にも人間がいるということか」

「この感じだと襲われているかもしれませんね」

「まだ微かだが向こうの方で音が鳴った。もしかしたらまだ間に合うかもしれん」


放浪人は足跡を追って切り開かれている森の道を突き進んだ。

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