第5話 観光!砂漠の都市サラーガ

砂漠の小さな都市サラーガ。

ファルセダレイノ大陸の砂漠のど真ん中にあり、さほど大きくない街の面積にもかかわらず、水や食料はもちろんそれを売買する売り場、宿泊所、役所などインフラ整備が整っていた。非常に綺麗な景観の上。美味しい料理や珍しい粗品など置いてある露店が立ち並んでいる。

おまけに街が優秀な警備や魔法使いを雇っているおかげで盗賊や魔物被害がほとんどない。

地獄のように砂漠から嘘のように一変した街に旅人からは砂漠のオアシスと呼ばれていた。


放浪人とサーナはキラリと光る警備の横を難なく通りこの街に足を踏み入れた。

驚くないなや先ほどとうって変わって街は人ごみにあふれている。


「割と賑わってるな」


露店や店に人が多く。店員による客寄せや忙しそうに食材を運んでいる従業員の姿に放浪人は胸をなでおろした。

その言葉にサーナも首を縦に振り頷く。


「そうね。わたしも学園の授業とか観光案内の写真でしかを見たことあるけど実際こうなってたんだ」


観光名所でパンフレットや授業などで町並みを目にしていたのだろうが

実際の賑わいを肌で感じサーナは少々気押されしていた。


「来たのは初めてなのか?」

「まあね。というよりここまで旅をしたのが初めて」


サーナは腕についているジャーバンドを操作し地図を確認し始めた。

表示されている地図には入り組んだ道に事細かい店の名前と青く光る丸いマーク。


「サラーガは、都市から都市へとテレポートできる施設があるはずだから

わたしとシショウはそこからセインエイツに帰るけど。あんたは?」


放浪人は顎に手をやり少し考えそして


「テレポートの施設まで案内してくれ」とサーナに頼んだ。


「ふーん。別にいいけど…じゃあさっさと行きましょ」


その言葉にサーナは頷くと表示されている地図をタップし印をつけ案内通りに向かって歩き出した。


人ごみを避ける道を通ってもどこみても露店と人通りが多い道。

どこもかしこも呼び込み合戦の地!隣の店は親の仇!やられろ潰れろ!しかしそんな言葉を出す事すら無駄だ!客を呼び込み収益を上げて結果を出せ!

そんな内情大人の醜い争いをしているとは裏腹に美味しそうな匂いが立ち込めていた!


「ヘイそこのにーちゃん、ねーちゃん」

「くってーいけよ!くってーいけよ!おいしい熊うさぎの串焼きくっていけよ」

「なにいってるマタドラゴンの鼻汁を使ったコーヒーがうまいに決まってる!」

「フン!わたしの最重虫のアイスは至高だぞ」


我が店に来いと誘導するかのような個性ある客寄せ!そして吸い寄せられるお客様!


「うまそうだ」


無論放浪人も例外ではなく素通りできない状態で口からよだれ滴り落ちていた。


「ちょっとやめてよ。そんな情けない顔で歩くの!食べたきゃ自分で買えばいいじゃない」


その姿をみて思わずサーナは呆れ混じりに文句をいう。


「金がない」


放浪人はズボンのポケットを裏返しにして答えると


流石に「ええ…」とドン引きしたサーナ。わかるー


「あんた放浪じゃなくて浮浪じゃないの」

「グヌヌ」


放浪人情けない。


「というか無一文で記憶もないし砂漠にいるって…あんたよく今まで生きてたわね」

「死にかけていたがな」


無一文で世界で転移させる神様もそうだが

そんな放浪人を哀れに思ったのかサーナはため息をつき懐から真新しい革の財布を取り出した。


「貸しにして上げるわ。絶対後で返しなさいよね!」

「救世主!」


放浪人はサーナからこの世界の通貨をいくつかもらうと迷うことなく露店に向かっていった。


「全くあいつって顔に似合わないことばっかりするわよね。記憶をなくして精神年齢までそぎ落ちたのかしら。わたしは露店に寄らずにさっさと帰りたいのにねシショウ」


ぶつくさ文句を言うサーナだが


「よっ!そこのお似合いのカップルさんこの守りのネックレス買わない」


と店員に声をかけられ


「かかかかカップル。私とあいつが……まっまあせっかくここまで来たんだしここは観光名所。時間も余裕だから少しくらいあいつに付き合ってもいいかな。少しよ少し」


即断でつられて放浪人と共に店にむかうのであった。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


あれから…どれくらいの時がたったのだろうか

露店を堪能中のサーナと放浪人だが気がつけば頭上に上っていたお日様は西の方に傾いていく。東には落ちねえんだよ!

薄暗くなっていく街。あれほど露店や店にごった返していた客波もまばらになり始める。

そんな中、放浪人とサーナはというと


「うおん!うまいうまいぞ!どんどん口に入る!まるで口の中で消化されるみたいだ!」

「これがーデートかぁーふへへー」


……未だに露店を満喫していた。


放浪人はひたすら店側から出された食べ物を脳内実況しながら口に運び

サーナもおだてられはよくわからない商品を買い漁っていた。


そんな二人を見かね痺れを切らせたのかシショウは突然羽をばたつかせた。


「愚か者!愚か者!愚か者!目を覚まさぬか!」

と鳴き声を上げるとサーナの頭を小突き。そしてそのまま翼をはためかせ上空に飛んでいった。


「いた。なによシショウ…」


唐突にきた頭の痛さに我に返ったサーナ。

街の薄暗さに気がつき空を見上げると日が暮れ始めている!

冷や汗をかきながらジャーバンドを操作して表示された時間を確認した……


「し、しまったーーーー!」


目を見開き叫びながらドラマンド串とかいう歪な物を食べている放浪人の首根っこをヒシっと掴むと引きづるように商店街を走りテレポート場まで向かって走っていく。


「俺はまるで犬だな」


ついでとばかりに放浪人はやれやれというポーズをとりながら器用に引きずられていくのであった。


黄色い建物が立ち並ぶ中場違いな神殿のような白い建物。

館内に受付が手前にあり。奥には舞台装置のような段が設けられていた

入り口の横には謎の文字が書き綴られていている。(恐らくテレポート用の呪文)

そうここはサーナが言っていた他の都市に一瞬で送り飛ばしてくれる場所。


二人は共に館内に入ると同時にサーナが窓口テーブルに飛び乗る勢いで声を上げた。


「すいません!セインエイツまで送ってほしいんですけど!」

「本日の営業は終了しましたよ」


間髪入れずに受付嬢がロボットを思わせるテンプレートの言葉と笑顔で言葉を投げ返す。しかしサーナは怯まない。


「ええ!そんなこと言わずにパパっと送ってよ」


受付のテーブルに身を乗り出しながら懇願。その必死さにもちろん受付嬢は困り顔。


「と申されてもテレポートを行う術者がもう帰ってしまいまして」

「そんなー。明日から学校始まるのに」


ガクリとサーナがうなだれた。

そんなサーナを見かねて放浪人も受付のテーブルに腕を置くと


「学生ってのはなんていうか特別っていうだろ。自由に豊かで救われてもいいじゃないか特別待遇ってやつで」


よくわからない言葉で説得にしゃしゃり出た。


「ですからごめんなさい。術者もいませんしどうにもならないんですよ」


無表情だった受付嬢も流石に困り顔を浮かべた。

そんな駄々をこねる二人を見かねてがっしりとした体の警備員が

「もう閉店だ!明日にこい」と放浪人の肩に手を置いた。


放浪人は流れるように警備員の右手を掴みそのままねじりながら背中を押さえつけた!

アームロック!


「がああああああああ!」


警備員は激痛で叫び声!「腕がぁ」と小さな声が聞こえる

その様子に一同騒然!


「それ以上はおやめください」


慌てた受付嬢に声をかけられ放浪人は手を止めた。


「しょうがない。行きましょ」


サーナの言葉に放浪人は頷くと大人しく警備員の手を放した。

「あーいかんなーこれは」と言いながら二人は施設から出って行った。


嵐が過ぎ去ったようにあたりがシン静まりかえる。

警備員は尻もちをつきながら痛んだ腕を押さえその場で啞然とするしかなかった。


(あの女学生の目…止める気なかった!)


受付嬢はあの時見たサーナの冷たい瞳に恐怖した。

施設から出てきたサーナと放浪人。出て早々サーナは乱れ


「あーもうなんなのよ!」


テレポート施設の壁を涙目になりながら蹴りを入れた。


「聞いていいか」


とくにツッコミもなく(こいつにツッコミを期待しない方がいい)放浪人はサーナに訪ねた。

「なによ」と答えながらその場で両膝を抱えうずくまり不貞腐れるサーナ。


「おまえ魔法が得意なんだろ?だったら自分でテレポートすればいいんじゃないか?」

「はぁ!できるわけないじゃない!しかもそれは魔術よ!テレポートって地形や魔術の解読の知識が必要なの。一人で好きに扱えるのはホンの一握り…だから複数の魔術師が作ったここの施設をつかっているんじゃない。これだって専用の世界魔術試験に合格しないとここを使えない…」

「あーわかったわかった。要は出来ないんだな」


わけがわからない言葉(ワード)に放浪人は肩をすくませた。


「本当に?…まぁだからテレポートが可能な町も少ないのあの装置だって魔術の技術が向上して安全性が証明できたからやっといくつか取り付けられたの。

だからこの辺りだとここぐらいしかすぐにセインエイツに戻る手立てが…

あーあ、せっかく治安の悪い町を引き返さずに渡ってきたのに」

「それはご苦労なこって」

「いや、ほとんどあんたにあったせいよ。っていっても意味ないしはぁー」


ぶつぶつとぼやくサーナを放っておき放浪人はあたりを見渡した。

暗がりで人通りも少なくなり露店は店をたたみ家や店の中から淡い明かりが目立ち始めていた。

先ほどと一転冷え切った砂漠の風が吹きすさむ

急激に気温が下がりこのまま野ざらしだと体調を崩すだろう


「とりあえず今日はここで寝るところを探さないとな」


提案しながら宿らしいところを探す気楽な放浪人を見て

しゃがみこんでいるサーナは上目遣いで睨む。


「だれのお金で?」

「そらまぁ。借りで」


泳いだような返答する放浪人に対して

サーナは黙って立ち上がるとポケットの中にある財布を右手で取り乱暴に

左手に向かって逆さにしはじめた。


そこから聞こえるチリンと寂しい音。

左手の上あるのは植物で描かれている10と印された二枚の小さいコイン。


「ここの街は現金以外だめなの。それにわたし、今20ローしか持ってない。学生だからおろせる分は規制されてるし

宿に泊まるには最低100ローは必要なのよ。というかこれわたしが家に帰るお金!」


この世界の通貨は全て共通で


(1ロー、ゴロー、10ロー、ニゴロー、ゴゴロー、100ローとコインがある。因みに金がない奴はノゴローと呼ばれる)


我々の世界で1ロー=約100円価格変動アリ

腕についているジャーバンド内でクレジット式にお金が貯められ決まったところでの換金可能。

放浪人は首をかしげる。


「俺も連れてってくれるんじゃないのか?そのセインエイツってところに」

「あんたねー」


サーナはため息をつきながら頭を抱えた。


「忘れてるかも知れないけどあんたとの付き合いはここまで

わたしがいつからあんたの面倒を見るって錯覚したのよ後は自分で何とかしなさい

あんたがどうなろうと私の人生には一切関係ない!」


ビシッと指さしたサーナ


「なん…だと…」


衝撃…でもない事実に放浪人は愕然とする。


「一緒に露店を楽しんだ仲じゃないのか?」

「たったたたた楽しんでないわよ!勘違いしないでね!あれは装備を整えてたの

決してデートとか思ってないんだからね!」


顔を赤く染めながら否定するサーナの足元には…


「だったらその足元に置いてあるものはなんだ」


サーナの足元にはここで買ったであろう露店のロゴがついている紙袋がいくつもおいてあった。


「あっやば忘れてた!アポート発動」


慌ててジャーバンドを操作してそこから出来てきた光を荷物にあってると

なんということでしょうあれだけ大量にあった荷物が一瞬で消えてしまったではありませんか。


便利な謎機能!


「なんのこと」


わたしはなにも知りません。という顔をして誤魔化すサーナ。


「まったく。ていうかそれで帰れないのか?」

「アポートで生き物は送れないわよ。死体なら遅れるけど」


手からすぐさま鋭いつららを作るとサーナは放浪人ににっこりと笑顔を向けた。

放浪人は押し黙った。

邪悪な笑顔!流石魔女!


「…宿がダメなら野宿か」

「ええやだー」


サーナは放浪人の提案に不服の異議を唱える。


「それに目の前の野獣がいつ襲うかわからないし」

「酷い言われようだな。絶壁……」

「えっ?」

「いやなんでもない」

「とにかく、今日会ったばかりの男と二人きりで野宿だなんて危険極まりないわよ。そう思うよね!シショウってあれ」


サーナは自分肩にシショウがいないことにようやく気が付いたらしい。辺りを見回してシショウを探し出す。


「今ごろ気づいたのか」

「どこからいなくなってるのよ」

「観光の途中から」


サーナはそんなとつぶやくとその場で膝をついた。


「うう…そうなると…あんたの分のテレポート代を貸さなきゃいけなくなるじゃない」

「おい!ちょっとまて…」


ちなみに生き物全てテレポート代は10ロー。いい商売やで

放浪人は、自分<シショウの真実に絶望した。

しみったれた二人の異様な空間に市民もみて見ぬふりをする。

その時である!


「顔を上げんかーーー!この馬鹿どもめ!」


という聞き覚えのある鳴き声?が轟く

放浪人とサーナは顔を上げるとそこには女性がたっておりその腕の上に

翼を広げたシショウが留まっていた。


「「シショウ!」」


なぜか二人は叫んだ!

黒いバーテンのような格好をし銀髪の髪に赤いスカーフ。ブルーの瞳が似合うかなりの美女があらあらという感じで頬に手をやり二人の所に歩いてきた。


「急に呼び出されたので何事かと思ったら、こういうことなんですね」


女性は優しい笑みを浮かべサーナに近づくとシショウが羽をはためかせサーナの肩に飛び移った。


「ウハハ八ハハ」


どうやらシショウのベストポジションらしい


「シショウどこに行ってたのよ」


サーナは嬉しそうにシショウをなでた。


「あのシショウを連れてきてくれてありがとうございます」


女性に頭を下げ感謝の言葉を述べる。


「いえいえ。気になさらないでください」


二人はその女性に笑顔に思わず目を奪われた。


「ふつくしい」

「…っは!」


我に返ったサーナは見とれる放浪人の脇を小突いて我にもどさせる。


「ここで立ち話もなんですからわたしの店に来ませんか?」


女性の提案に二人は顔を見合わせ首を縦に振った。

その後二人はこう語る「まさしく彼女は救世主!」

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