第三話 出会い 放浪人とサーナ

「あんたなんなの」


寒雷の魔女は目の前で浴びるように自分の水を飲む主人公に問いかけた。


「ふぅ……でなんだ」


手を止めて怪訝な顔をする主人公に

「あれ」といいながら寒雷の魔女は少し離れた場所を指さす。

そこには先ほど寒雷の魔女に絡んでいたゴリダルとヒョロガリの二人が仰向けになりながら重なり倒れていた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


少し前

主人公が鳥を追いかけ三人のもとに近づくとさっきの寒雷の魔女同様、流れるようにゴリダルとヒョロガリに絡まれた。


「おいおい兄ちゃんよ。ここを通りたくば」

「ヒヒヒ俺たちに通行料払わないとな」


寒雷の魔女に絡んできた時よりかなりどすの効いた声で主人公と対峙した。


「……」


主人公は立ち止まるとだんまりしながらただひたすらある場所をじっと見ていた。

寒雷の魔女……いや肩に乗っている鳥を完全に狙っている。


「いやぁーテヘヘ」


しかしそんなことつゆ知らず目が合った寒雷の魔女は自分に対して熱い視線を送ってると勘違いしちょっと照れた。

無視されていることにヒョロガリがムッとして男の目の前にナイフを突きつけ滲みよってきた。


「おいおい兄ちゃんよーこのナイフが見えねえのかぁー。命が欲しかったら人が優しく言っているうちにさっさということ聞いた方がいいぜー」


主人公はやっと気づきヒョロガリたちを睨みつけた。


「おまえら食糧持ってるか?」


聞かれるとヒョロガリは、一瞬キョトンとするも顔を上げ大笑いした。


「ヒャヒャヒャヒャ。おもしれえなーお前威勢がいいぜ」


しかし急に真顔になりナイフを懐から大量に出した。


「だがしつけをしねえとなぁ。自分の立場もわからねえ動物みたいな奴はよー。痛い目みないとわかんないみたいだなぁ」


器用に指で挟んだナイフを固くにぎりしめ手を振り上げ主人公にとびかかってきた!


「危ない」


寒雷の魔女は慌てて主人公を助けようとするも間に合わない!

ヒョロのナイフが主人公めがけて振り下ろされた!


「やったか!?」


手ごたえあり!ヒョロが確信するもそれは大きく間違っている

……男はナイフを全て器用に指でナイフを止めていた!


----ジャパニーズ白刃取り!---


「なっなんだおまえ!何故俺のナイフを…」


ヒョロは足を踏ん張りナイフを押し男を刺そうと奮闘するもナイフの先は指からピクリとも動かない。それどころかナイフがひび割れ


「フン!」っと主人公が手を握るとナイフは粉々に砕けた!


「にゃ、にゃにぃ!……がばぁ!」


ヒョロが驚く暇はなくヒョロの頭部が主人公の指にガッシリつかまれる!


「質問に答えろ。持ってるか持ってないのか聞いている」

「イデデ!……てってめえ俺達に逆らってタダで…いてててて」


ブレーンクローが見事に決まりヒョロは苦悶の表情を浮かべ苦しみ始めた。


「もってる!もってる!ていうかこんな砂漠で普通、持ってない奴いるわけないだろ!そんな奴いたらもう超馬鹿だ!クソ馬鹿だ!」

「……ならば!力ずくで貴様らから奪うまで!」


主人公はヒョロを頭上より高く放り投げると

左拳を強く握りしめ腕を振り体重をのせた一撃でヒョロの顔面を殴った!


「どひひぃぃ」


鼻血を流しながらゴリダルの足元まで吹っ飛ぶと仰向けになりながら気絶した。

ゴリダルはヒョロの姿をみて主人公を睨みつけた。


「てめえ、まさかモンクとかいう能力持っている奴か?っちまさか奴らの一味か?それともエリートどもか?」

「あ?何をわけわからないことを言っている!文句だと?お前文句あるのか!」

「よくわかったな。へへ俺様も元モンクだ!かつてチャンプになった経験がある負けるはずかねえ」

「どうやら腕に自信があるようだな。文句は内容だがお前を倒す!」


主人公とゴリダルの会話を聞きながら寒雷の魔女はこう思う、話かみあってなくないっと

ゴリダルは両手にメリケンを深く入れ太い腕を振り上げながら彼めがけて突撃してきた!


「うおお喰らえ!岩を砕く時速200キロのパンチ!」


確かにやばいパンチ!しかしそんな言葉を気にせず主人公は腕を引き身を屈め足で砂漠の砂に深くめり込みながら足を深く踏み込んだ!


「はああああああ!」


気合と共に地面を強く蹴った。

瞬間!主人公はあっという間に腕を大きく振り上げているゴリダルの懐に入った!


「な!なあにいいい!」

「もらった!」


主人公の拳がゴリダルの腹部を殴りあげた!拳はゴリダルの腹部に深くめり込みゴリゴリの巨体持ち上げる。

目を見開きゴリダル。


「なんて…スピードそして…パワァー……俺の体を片手で持ち上げるなんて」


寒雷の魔女はフーンとその場に立ち止まり感心した。


「やるわね。動きも速いしどっかの兵士とかなのかしら?」

「フフフフフ!これが奴の数年の修行の成果」


耳元から聞こえた突然の声に寒雷の魔女が驚いて鳥の方を見るも鳥はシレっとした態度でそっぽを向いた。


「今この鳥しゃべったような…」


疑問をかき消すようにドオンという豪音と振動に驚いた寒雷の魔女は慌てて目を向けると砂ぼこりが舞い上がる中でヒョロの上にゴリダルが重くのしかかるように倒れていた。ヒョロにとってはこれがとどめ。砂があるだけマシだと。

主人公は、ふぅっと息を整えるとフラフラとした足取りで寒雷の魔女に近づいてきた。


「もしかしてこいつらの次は今度はわたし!」


寒雷の魔女は慌てて剣を構え身構えるも男は目の前で倒れこんだ。


「えっちょっと?……え……え」


突然のことで驚き倒れた男を見下ろすと男は這いつくばりながら

寒雷の魔女に近づきながらこういった。


「み、水」


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


それから仕方なく成り行きで現在に至る。

寒雷の魔女の説明を聞いても主人公は首をかしげるばかり


「よく覚えてない」

「よく覚えてないってあんたあれだけ激しい戦いをしといて」

「それよりもうなくなったんだが」


カラになったコップをワザと逆さにして水を催促する。

寒雷の魔女はため息をついて水筒を取り出し再び水をコップに追加した。


「助かる」


軽く礼をして再び水を口に運ぶ主人公その姿に寒雷の魔女はジッと観察。

少し長い黒い髪に茶色い瞳、黒いTシャツに半袖のデニムのシャツに黒いジーンズ。

暑苦しさこの上ない格好。


「なんだか見慣れない風貌ね。色々とこの辺りの人間じゃないのかしら?」


それより寒雷の魔女が真っ先に目がついた所があるそれは


(顔はいいわね…)


好みだったみたいだ。ハッとなった魔女は首を振り

色々気になるけど今はかまっている場合じゃない、と考え立ち上がった。


「まぁ水は恵んで上げたしもういいでしょ。じゃわたし行くから」


そう言い荷物を肩にかけ主人公に背を向け足を進めた。

クールに立ち去った寒雷の魔女だが……主人公が彼女の後ろを付いてくる。

ある程度無視した彼女だが同じ歩行速度。止まると止まる感じにまるで餌をもらった子犬がついてくるかのように、あまりの情けなさに寒雷の魔女は我慢できなくなり


「なに」っと不機嫌そうに振り返った。


「お前この後どうするんだ?」

「どうするって…街に行くのよ。あんたもそうなんでしょ」


街…主人公は少し考えた。考えなくてもわかるが多分ここで寒雷の魔女と別れたら頭の悪いこいつでは間違いなく死ぬだろう。


「ああ。街に行こうとしているんだが道がわからないんだ。ついていっていいか」


その発言に寒雷の魔女はドン引きした。


「ええ……あんた迷子だったの」

「……うるさい」


主人公は舌打ちをして顔を背ける。


「うーん」


寒雷の魔女は顎に手を当てて考えた。本当にこの男と行動を共にしてよいのかと

とりあえず今すこしあったばっかりだが自分に対して被害をくわえるつもりはないとわかる…と思う。純粋に街まで案内して欲しいと単純な目をしている。何も考えてなさそうだ。

チラリと主人公の横で仰向けに倒れているぼんくらを見た。

この先ああいった盗賊が出てくるとも限らない。それにこの砂漠道を一人で歩いていくのも少しだけ心細さがあった。

寒雷の魔女はため息をつき


「わかったわよ。別について来たかったら勝手にすればいいじゃない」


そう言うと再び歩きはじめたが……流石にひたひたと後ろを歩くのは情けないと

すぐさま振り向いた。


「というかついてくるなら後ろじゃなくて隣に歩いてよ。流石に気味悪いから」

「わかった」


主人公は頷くと寒雷の魔女のすぐ隣まで近づいた。


「ちょっと近い!もう少し離れてよ」


寒雷の魔女は手を伸ばし主人公を押しやる文句を言われしかめっ面をする主人公だが大人しく少し間を開けた。


「そういえばあんた名前なんて言うの。あっわたしはサーナ、サーナ・ナチェスよ

ここらじゃ自慢じゃないけど寒雷の魔女と呼ばれているわ」


サーナはドヤ顔しながら自慢混じり自己紹介をした。


「俺は……」


主人公もすぐさま名前を答えようとするも口ごもった。


「俺の名前……なんだ」


と自分の名すら思い出せない主人公。

いつまでも答えない主人公にサーナはやきもきした。


「なによ。こっちが教えたのにあんたは教えないわけ」

「いや、そうじゃない。なんて言うか名が出てこないんだ」

「名が出てこないってどういうことよ…まさか砂漠の熱であんた記憶喪失になったの?」

「まあそんな感じだ」


主人公は空を見上げしばらく黙りこむ。どうせなら神に名をつけてもらえばよかったと

真剣な顔で悩む姿にサーナは頭を掻いた。


「本当覚えてないみたいね。じゃあ私が適当につけようかな」


とつぶやいたとき鳥は突然羽をばたつかせ

「放浪人!放浪人!放浪人だ貴様は」と鳴いた。(鳴いた?)


放浪人っという名にサーナは

「ほうろうじん……放浪人…」と連呼しながら主人公をジッと見て頷いた。


「そうねあんたのことは今日から放浪人って呼ぶわ」


おめでとう。主人公の名前は放浪人になった。テレテッテテー。

すかさず意義を申し立てる放浪人


「なんだと!なんだその変な名は!俺の名前は……。……。……」


すぐさまその名を払拭しようと適当に名を上げようとするも思いつかなかった。

その姿にサーナはニコリと笑う。


「全然覚えてないじゃない。だったら私ので決定ね。鳥ちゃんもそう言ってたし」


おめでとうこれで正式に放浪人となった。


「ちょっまてよ!」


すかさずカリスマ感ただようちょっまてよ発言するも


「何?放浪人」


改めて言われる自分の名に言い返せない!


「ウヌゥ」


放浪人は唸り声をあげるも諦め顔に手を置いた。認めた!認めたのだ!

自分の名が放浪人でいいと!

サーナはしたり顔。


「じゃあ改めてよろしくね放浪人」


放浪人はため息をつくと「ああ」と短く返事を返した。


「ところでその鳥くれないか」

「ダメこれは今日から私のペットよ」


サーナと放浪人は長く舗装された砂漠の道を歩んでいく

道の先にある街を目指しながら

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