アイノマ。

御手洗孝

はじまり

 人であることが辛いと感じたことはありませんか?

 何故自分が人であるのだろうと疑問に思ったことはありませんか?

 私はあります。

 

 人でないことが辛いと思ったことはありませんか?

 何故自分が人でないのだろうと疑問に思ったことはありませんか?

 俺はあります。


 種族の違う、まして住む世界も違い、違いと違いを幾ら掛け合わせてもそれは違いにしかならず。

 よって歩みを求めようとしても、それはすれ違うことにしかならず。

 自らが自らであると認めてしまっているゆえに、別のものになることも出来ず。


 ただ、ただ。

 自分がそこに存在しなければ、相手がそこに居なければ、あの時出会わなければと。

 ただ、ただ。

 運命を呪い続けた。


 だが、運命は意外にも味方となって。

 だが、耐えがたい苦痛となって二人の前に現れ出でた。




 頬に当たる風がとても冷たく気持ちよく体をすり抜ける。

 下を見れば、そこには満天の星空にも負けない煌びやかな街が存在し、上を見れば眼下の煌びやかさに負けてしまった真っ暗な空がある。

 月明かりも無い空に向かって伸びる真っ黒な柱の頂点、誰も振り返ることの無いビルの屋上にゆらりと揺れる人影が一つ。

 幾度となくその影はこの時間その場所に存在し、自分には眩しすぎる街並みの輝きをぼんやりと眺めていた。長い髪の毛を冷たい風にさらしながら、空と変わらぬ光の無い瞳で呆けている人影。

 その頭の中にはいつも同じ言葉が巡っている。

「ドウシテ、イツモ、アナタハ」

「ウットウシイ、ソンザイ、イミナシ」

「キモチガワルイ、コノ、ブサイク」

「イッソノコト、シンジャエバ?」

 暗い場所には暗い言葉が良く似合う。

 別に自分が悪いわけではない。

 人当たりが悪いとも思えない。しかし、何時の頃からか、人影の周りには暗い言葉が渦巻くようになっていた。

 じんわりと湧き出てくる黒い液体は、いつのまにか頭の中心を抜け出して体全体に。

 明るい日差しの中に置いていたはずの白い体はいつの間にか暗い影の中で黒く沈んでいく。

 ある人が言った。

「光がそこにあって、それが光であると認識する為には何が必要かわかるかしら?」

 分からない、わからない、ワカラナイ。

 光はそこで輝いているだけで光になる。何をしなくても、必要な物など何もなく、ただそこに居ればいいのだ。

 そして、そんな光を求めれば求めるほど、それは遠ざかり痛い眼差しで自分を見つめる。

 光に何かが必要?

 イイエ、ヒカリニハ、ナニモヒツヨウナイ。

 ヒカリニナリタイ、デモ、ナレナイ。

 ヒツヨウナノハ……?

 モトメテイルノハ……。


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