第19話 4日目 朝 私たちは前に進む

 3日目の夜。七瀬は平一の事を考えていた。

 (まず間違いなく本田さんは人狼。狂人である可能性も0ではないが、可能性としては低い。そしてもし、田中彩賀が人狼であるなら、この夜は誰も死ぬ事無くゲームは市民側の勝利で終わる……)

 早く終わらせたい、七瀬はただそれだけを願うばかりだった。



 ――翌日――

 無惨な姿になったのは佐藤良夫だった。

 「……そうか、佐藤くんが……」

 じゅんやは気を落としていた。

 「佐藤さん、頑張ったね」

と美里は呟いた。

 「このまま全員しんじゃうの?」

 「…それは分からない……」

 「もうイヤぁ……」

沙耶は泣き崩れてしまった。

 「沙耶さん…」

七瀬は背中をさすってあげることしか出来ず、もどかしくて仕方なかった。

 しばらく泣いていた沙耶はなんとか涙も止まり、

 「ごめんなさい、もう大丈夫……」

と言って立ち上がった。

 その直後、追い打ちをかけるかのようにテレビがつく。

 


――佐藤良夫様が無惨な姿で発見されました。残り7名です――



 「…アイツ、絶対許さないんだから!」

と沙耶は真っ暗になった画面に向かって言い放った。

 「人狼は、まだいるのね」

と唯が目を伏せた。

 七瀬にはもうかける言葉がみつからなかったが、女性は思ったよりも強いらしい。悲しみと恐怖をを振り払うように、作っていた食事をテーブルに並べ始めた。

 なんともない訳ではない。辛さと怖さで一杯のはずだが、それでも前に進む為には、生きるためには悲しんでばかりもいられなかった。

 そんな決心を改めて一番最初にしたのはどうやら沙耶のようだった。

 


 食事が終わり一息ついている時、沙耶が隣に座り聞いてきた。

 「彼女さん、どんな人なの?」

 「どんなって、普通だよ」

 「普通って?」

 「会社員やって、料理もそこそこで…」

 「オシャレ?」

 「どうかな。普通だと思うけど」

 「何それ。ホントに彼女ぉ??」

 「まぁ一応」

 「一応って……さぞ彼女さん大変でしょうねー」

と上を仰いでクスクス笑った。

 「でも最近分からないんだ」

 「何が??」

 「向こうがホントに俺を好きなのか、俺もアイツの事好きなのか」

 「うーんそれはあたしには分からないけど」

 「なんか正直冷めてきてるんだ。そもそも最初から好きだったのか」

 「じゃあ別れちゃえば良いじゃん、ここにはもっともーっと良い女が何人もいるよ?」

と周りを見渡す。

 「そうだね、近くにいられるだけでも贅沢だよ男たちは」

 「そうでしょーこんな上玉にはなかなかお目にかかれませんぜ社長?」

と言いながらニッとした。

 「何キャラだよー」

と七瀬も釣られて笑った。

 「あっあたし、メイク直してくる!さっき拭き取っちゃったから」

 「別にいんじゃない?スッピンでも変わらないじゃん」

と七瀬は何気なく言った。

 「…あのね、素でそんな事言わないでくれる?そういうトコ」

 (どういうトコ?)

そう言うとそのまま沙耶はどこかへ行ってしまった。


 そしてそれと入れ違いに順也がやって来た。

 「女は強いね、本音は怖くて仕方ないはずなのに。早く終わらせたいよ」

 「そうですね。でも命がかかってる以上、皆それぞれの役を全力でやるしかないなんて……」

 「今日で決まればいんだけどな」

 「そうですね」

 「お互い死にたくないな」

 「えぇ。出来れば……誰も」

 「それはもう無理だ」

 「そうです…ね……」

 「こんな事言うのも変かもしれないが、とにかく頑張ろう」

 「はい……」

七瀬を励ますと順也はその場を離れて行った。


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