第40話 両腕を失くしたモンスターテイマーは戦う

 最初右腕と左腕から伸びる透明な両腕を見ていた。

 僕にしか見る事が出来ず。勇者山中は気付いていなかった。

 彼は僕の為に泣いていた。


 泣きながら魔王と戦っていた。


「友達が両腕を失った。彼は僕の為に、僕のためぇぃいいいいい」


 勇者の怒りは何かしらのスキルを発動させるのに十分だったみたいで、

 猛然と怒りのパワーで2本の魔王の槍を弾き飛ばし続ける。

 それでも魔王の攻撃は流麗で様になっていた。

 気合と気合のぶつかり合いが続く中、

 僕はこの透明な腕をどう使うのか、

 それを早く理解したかった。


 空中に浮かぶ生死神であるデスサイズはこちらを見ながら、微笑んでいる。

 ローブの中の素顔が今どうなっているか僕は知る由は無いけど、

 僕は生死神に両腕を差し出しのだから。


 風がゆっくりと吹くと、

 両腕の透明な触手状の腕がひらりひらりとクラゲのように動いていた。


 集中力を上げ続ける。そういうスキルが覚えている訳では無いけど、

 どのような時も集中力とはとても大切な物、

 神速の魔剣と竜魔人の剣が転がっている。

 それを握りしめる様に、触手状の透明な腕には手が付いている。

 ちゃんと5本の指がある。


 風が強くなった。

 岩に透明な腕がぶつかると、

 透明な腕は分裂した。

 これに僕は驚きを隠せず、新しい可能性を閃いていた。

 僕はイメージする、右腕が5本と左腕が5本ある事を、

 すると10本の腕が右肩と左肩から出現しており、5本ずつなのだ。


 ふわりふわりと浮かび上がる中、


 2本の剣を持ち上げる事に成功する。 

 さらに僕は【魔剣召喚】を発動させる。

 8本分の魔剣を召喚する。全ての魔剣を神速の魔剣にする。


 9本の神速の魔剣と1本の竜魔人の剣。

 剣は空中を浮かびながら、上手く操作出来ない、

 もっともっと集中力を極めねばと思う様になって行く。

 どうやったら集中出来るだろうかと考えると、勇者と魔王が互角でやりあっている。

 どちらかというと勇者のほうが劣勢だろう、

 

 僕は周りのモンスター達を数え始める。

 まったくの無意味な行為に見えるが、

 それだけで集中力が上がる。


 上手く10本の透明な手を操作出来る様になると。


「その腕は【魂の手】だ上手くコントロールする姿をこのデスサイズに見せてくれないか?」

「それはもちろんだともデスサイズ」


 生死神のデスサイズの本当の役目が分かった。

 生死とは生きる事と死ぬ事なのだ。

 死ぬ所から生きる為に力を使う、

 僕の両腕を犠牲にする事により、 

 きっと僕は。


「魂も引っこ抜いたのになんで魂の手なんだ?」

「両腕から奪った魂と肉体、お前が今使っている魂は助けた魂だ。お前の為に魂を提供してくれたんだ」

「なるほど、助けたとは誰を?」

「お前が前世、それかもっと前の時、現在進行形でも直接関わりが無くても助ける事がある。それのお礼だと思った方がいいだろう」


「そう言う事なら納得出来るぜ」

「なら、いけ、それがお前の戦いだろう?」


「おう」


 僕は走り出す。

 俺様となりて、俺様は10本の腕を上手くコントロールしながら、

 周りでは120億、今ではだいぶ減っただろうけど、奴等が戦っている。

 ミリーシャ王国の人々が国から出て逃げて行ってくれる事を願っている。


 僕は俺様はゆっくりと一歩ずつ、歩幅を少しにしながら、

 心に戦う魂を込めて、どすんどすんとそのような音を発する事のない両足だけど、

 僕は俺様はただ真っ直ぐに突き進み、

 勇者が吹き飛ばされ、岩に激突する。

 岩を次から次へと崩壊させながら、後ろにいなくなる。

 俺様は両腕を失くした状態で、ただ立っていた。


「お前をここから動かずに倒して見せる」

「たわけをおおおおお」


 魔王は走り出す。

 その時瞬足の刃が9本飛来する。

 もはや視認出来る物ではない、

 魔王は斬撃の軌道を少しずらす程度しか出来ず、

 全身を斬り刻まれる。


「う、そだろ、剣が浮いているぞ」


「お主には見えぬか、僕の、俺様の熱い魂が」


 魔王は無駄口を叩くのを止めたようで、こちらをじっくりと観察しているが。


「その隙すら与えぬ」


 透明の両腕のリーチはどのくらいまでか試した事は無い、

 だが結構な距離を伸ばせる事に気付いていた僕は縦横無尽に剣を叩きつける。

 魔王は槍で弾いては弾きまくるのだが、

 神速の魔剣が9本もあるという異常事態に、魔王は対処しきれないようで、

 土の粉塵が煙のように舞いあがる中、

 土煙の中で平気そうに立っている魔王がいる。

 だが全身は血まみれになりながら、

 呼吸も荒く、血を失いすぎたのか視線も虚ろであった。

 それでも奴は、後ろを向いて、モンスターを吸収し始める。

 モンスターとの距離も結構あるが、

 吸収するのに問題はないみたいで、

 次から次へとモンスター達が魔王の両手へと吸収される。

 


 あっという間に体の傷を回復させた魔王、

 衣服までも回復している所を見て、僕は驚きを隠せず。

 回復したての魔王はこちらに走ってくる。

 それと吸収するのは2度目だが、1階に比べて沢山のモンスターを吸収する事に気付いた。

 つまり魔王をぼこぼこにすればするほど、奴は仲間を吸収する。

 そうすれば敵の数も減らす事が出来る。


 いくら勇者山中でも僕でも俺様でも億を超える敵には太刀打ち出来ない、

 今魔王戦に集中している事もあるが、

 仲間達が戦っているのはとても大変な戦場なのだ。


「しゃらくせえええええいいい」


 魔王は突撃してくる。

 その足並みに迷いは無い、

 まっすぐに2本の槍を構えて突撃してくる。

 そして2本の槍が真っすぐに僕に飛来する時、俺様が動いた。


 俺様は竜魔人の剣を扱う、

 これは接近戦ように使う剣で、

 竜魔人の圧倒的パワーで、

 魔王の2本の槍をぐるりと回転させて弾いてしまう、

 ぐるりと体がひねられた形になった魔王は、

 後ろに飛ばされながら、

 

 

 俺様の神速の魔剣の攻撃にさらされる。

 空中でぐねりとねじれて飛ばされていても、

 ちゃんと2本の槍でガードして見せる所が魔王が強いとされる所なのだろう、

 また魔王は忠誠を誓っている魔族とモンスター達を片端から吸収していく。

また再び再戦を始める。


 その度に魔王の必至な攻撃、

 それを弾き続け、また致命傷を負わせる俺様と僕。


 何度も何度もそれを繰り返すうちに、

 モンスターの数は10万くらいになっていた。

 魔王は戦闘で僕を倒す事を夢中になっている。

 勇者は僕が疲れたら交代するように後ろで待機している。


 今の遠隔操作の攻撃では勇者がいるとコントロールが難しいのだ。

 9本の神速の魔剣と1本の竜魔人の剣が勇者に止めを刺しては話にならないからだ。


 そしてついにその時が来た。


 モンスターは残り1000体を切ろうとしていたのだから。

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