第二章(4)以洋、(主に食材に)怒りをぶつける
悩みながら帰宅した
「僕につきまとうなって言ってるだろ! 話があるなら言えってば。これ以上コソコソすんな!」
室内は静まり返っている。幽霊の姿も現れない。怒りのあまり、
「今日のおかずは随分……材料が細かく刻んであるんだね」
「……細かいところによく気付くね」
食後の皿洗いの時も、
ガチャガチャと食器のぶつかり合う音が聞こえてくるのに、ビニール手袋を買ってきて
皿洗いを終えて台所から出てきた
「昨日のDVD、まだある?」
「うん、あるけど……まだ見たいの?」
幾分呆気に取られて
「見たい。見るよ」
子供のようなふくれっ面で、どすんとソファに腰を下ろした
――――……ざっと二十分後、
実際には映画が始まって五分も経たずに
ソファの上、わざと寝そべるような姿勢を取ることで、
今夜は
そろそろと手を伸ばして、さっきソファに引っ掛けていたジャケットを掴み取り、
流れているのは
主人公は、どこか落ちぶれた風情を漂わせている刑事。それでも一人で大勢の市民の命を救い、最後には離婚した妻も不仲だった娘もみんなこの主人公の元に戻ってくる……。
こんな話と主人公で第四作目まで撮れるというのが
派手なアクションシーンが多い割に、うまくまとまっているいい脚本の映画ではあった。しかしこういったやたらと大げさに主人公を活躍させるタイプの作品は、
とはいえ、所詮は映画だ。
エンドマークに辿り着いたディスクを取り出してケースにしまい、イジェクトボタンを押してトレイを引っ込めたところで、
「起きたの?」
「うん……あれ? 僕、また寝てた……?
慌てて
「彼は結局、娘を助け出せたのかな……」
溜め息を吐いた
「君はそもそも、その女の子が誘拐されるシーンにも辿り着いてないよ」
何かの呪いでも掛かっているかのように三日間連続でこの映画をラストまで見られなかった
「……いいや……寝よ……」
「
やがてぼうっとした顔のまま立ち上がって部屋へ戻ろうとした
「怖いなら今夜も寝においで。今夜は何もしないから」
きょとんとしていた
もごもごと答えるや否やすたこらと部屋に逃げていってしまった
DVDケースを片付け、リビングの電気を消してシャワーを浴びにいく。部屋に戻った後、三十分間待ってみたが
三日目になるともうそんなに怖くなくなったのかも知れない。そう思って
何かがぶつかったような音だ。
瞬時に目を開け、
しばらく経ってみてもそれ以上は何も聞こえてこない。それでも安心できず、立ち上がって
なんの反応もない。
何か聞こえてこないか更に待ってみた後、少し考えて
苦笑しながら
「
ぶるぶると
この子は、本当に俺に迷惑を掛けたくないんだ……。本当に……。
溜め息を吐いた
ベッドの上に
「言っただろ? もう何もしないから、怖かったら寝においでって」
「うん……」
上掛けから半分だけ顔を出した
「そんなに怯えてるのに、なんで俺のところに来ないかな? 俺の方が幽霊より怖い?」
「ならつまり、俺に迷惑を掛けるんじゃないかと心配だったってことだよね」
上掛けからほんの少しだけ覗いた
「君に迷惑を掛けられるのが嫌なら、そもそも一緒に住もうなんて言わないさ」
僅かに口調を和らげてそう言いながら、そっと
すっぽりと
体温の高い
「なんでそんなに怖がってるの? どんな幽霊相手だって怯えることなんてこれまでなかっただろ? その幽霊、君に危害を加えてきたの?」
頬にキスを落としてからそう訊ねると、
「なら、なんで怖いの?」
長い沈黙の後、
「前は……ずっと怖かったんだよ。
それに……死んだ時の彼の顔が、頭の中から離れない……。
そこまでは
「君と話そうとしない幽霊か。なら、君の方から話し掛けてはみたの?」
少し考えてみただけでも、その方が事態は好転しそうな気がする。
「うん……。明日、僕の方から話し掛けてみる……」
「俺は単に疑問に思っただけだよ。……俺は君たちの関わってる世界のことはよくわからないし、何のアドバイスもできない。でも、君が本当にそんなに怖いなら、別にそんなことしなくても」
その言葉には
「試してみる。あの人たちを助けたいっていうのは、僕がもう決めたことなんだ。僕のすぐ傍に……落ちてきたんだから、何かそういう縁があったのかも知れないし……」
ただし、どう考えてみてもそれがいい縁だとは思えないが。
「とにかく……まずはもう一度話し掛けてみるのが一番だよ……」
顔を顰めながらもそう口にし、
――――……苦笑しながら
どうやら今夜も自分は眠れそうにないらしい。
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