偶然助けた令嬢が箱入りすぎて可愛い

REVERSi

第一部:運命の春休み

第一章 : 出会い

0. プロローグ


 「…………えっと、落ち着け、俺。状況を整理するんだ……」


 こちらを見上げる、ガラス玉のように美しく純粋な蒼い双眸。そこには自身の行動が不適切だったという意識は一切なく、当然だと言わんばかりに棒付きの飴玉を口に含んでいる。


 そう、その小さな口に、さっきまで俺が舐めていたサイダー味の白い飴玉を。


 「……あの、どうかしましたか? 随分と驚いていらっしゃるようですが……?」


 小さく首を傾げた麗しの令嬢。光を綺麗に跳ね返す美しい白銀の長髪が揺れ、その穢れを知らない無垢な瞳に疑問を宿した美少女が無表情で俺に尋ねた。


 「えーっと、どうして君はその飴を舐めてるのかな……?」


 「……先ほど『君も食べるか?』と尋ねられたので、毒見済みのこちらを頂きました。初めて口にしましたが、美味しいですね、これ。……あの、それで……何か問題がありましたか?」


 あ、そうか。毒見ね。まあ確かに見ず知らずの人間から手渡されたものを毒見もなしには食べられないよな、うん。言われてみればそう―――――


 じゃねえよっ!


 他人が舐めてた飴なんて普通口に入れたくねえだろっ!?

 しかも俺、男だよ?

 窮地を救ったとはいえ、名前も明かしてないどこぞの馬の骨だよ?


 ……それなのにこの落ち着きぶりは、自分の行動に何の疑問も抱いていない証拠だ。この年にして、この異性への警戒心なさは教育者の神経を疑ってしまう。きっと蝶よ花よと愛でられ、外界から切り離されて育ったに違いない。


 「……えっと、君こそ何か問題があると思わない?」


 「そうですね……。これ、美味しいですけど少し舌が痛いです」


 薄桃色の舌を少しだけ出し、痛いことをアピールするご令嬢。


 な、なにも分かってねえ……。


 「……このお嬢様、箱入りすぎるっ!」


 「……?」


 一つの節目となる高校一年の終業式を終えたこの日。


 偶然出会った美少女はとてつもない箱入り娘でした……。

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