召喚士、気晴らしで無双する

「……はぁ」


 ライトはひどく落ち込んでいた。

 好感度システムの攻略のために仕方なく女装したのだが、小柄で女顔というのはコンプレックスだった。

 本当なら戦うときに見栄えがいいブルーノのような強そうな顔立ちと、屈強な体格が欲しかった。

 そういうわけで嫌々女装していたのだが、途中から何か乗り気になってきてしまって、このフロアの攻略後にふと気が付いて自己嫌悪に陥っているのだ。


「何で俺は女装を……」


「プレイヤー、とても可愛かったですよ!」


 なぜか目をキラキラ輝かせるリューナ。

 それと、レオーとブルーノも複雑そうな顔をしながらも頷いていた。

 ライトは気が付いてないのだが実際、世界レベルで可愛かったので仕方がない。


「よし、気を取り直して先に進もう。たしか、ここから二階に上がって、その先の三階の王の間にオータム・バグズが待っているんだよな」


 レオーから聞いていた間取りを思い出す。

 このパーティー会場を出て奥に行ったところに階段があって、そこから二階へ移動するのだ。

 その間には大量の首無し兵士が待ち構えているらしく、注意が必要とのこと。

 このレオーの情報がなかったら、ライトたちは好感度システムで強化する前に首無し兵士たちと戦って苦戦することになっていただろう。


「ああ、もう一人のオレ様は三階の王の間で待ち続けてくれる」


「随分と優しい奴なんだな。それともオレたちじゃ相手にならないってスルーされているのか?」


 ブルーノが憎々しげに言うが、レオーはそれに有無を言わさず答えた。


「そうではない。むしろ幻想英雄の召喚士としての資格があるライトに対しては、なるべく対等に戦わなければならないという制約のようなものがある」


「制約……?」


「ゲームというのは、最初から勝ち目がない側がいたら成立しないからな。システムに頼るのと同時に、システムに縛られるということだ」


「わかったような、わからないような……」


「例としては、まだゲームシステムを知らなかったライトに対して、コロシアムで好感度システムによる強化を使ったところ――」


 ライトは思い出していた。

 リューナのドラゴンキラーを防いだオータム・バグズが、急にダメージ以外で苦しみだしていたことを。

 あのときの力は圧倒的すぎて、たしかに勝率は0%に感じられた。


「もしかして、オータム・バグズは俺たちにも勝ち目が出るように好感度システムを使わせている……?」


「それもあるが、まぁ……勇気ある者と対等に戦おうとする、くだらないプライドでも蘇ってしまったのかもな」


 そうレオーは自虐的に言った。

 たしかに、システムの縛りだけで言えば1%でも勝ち目が出る程度に調整して、その瞬間にライトへ不意打ちでもして倒すのが効率的だ。

 なぜかそれをしない。


「王の立場とか、真実の愛を求めるとか……本当にもう一人のオレ様は面倒な奴だ」


「へぇ」


 レオーの歯がゆそうな表情は珍しく、ライトはついついジーッと見つめてしまう。

 オータム・バグズと表裏一体の存在なので、もどかしいのだろうか?


「な、なんだ……。ほら、この部屋を出て二階に通じる階段へ向かうぞ」


「了解、小さな獅子王」


 ニッと笑うと、ライトは扉を開けて部屋の外に出た。

 外には首無し兵士が一体、待ち構えていた。


『ギギ……ギ……』


 錆びた鎧が擦れる不快な音がする。

 普通の人間なら怖じ気づいてしまうのだろうが、ライトは冷静すぎる表情で指示を出した。


「リューナ、攻撃だ」


「待っていました、プレイヤー……!」


 扉から飛び出たリューナは剣を構え、縦方向に一閃。

 一刀両断にされた首無し兵士は、左右真っ二つになってガシャンと崩れ落ちる。

 どうやら鎧だけで中身は入っていないようだ。


「なるほど。以前なら一撃では倒せなかったのに……こうも簡単に。これが好感度システムの力なんですね……。私のレベルシステムと組み合わさり、とてつもない威力になっています」


「ふふん。まぁ、オレ様とキチンとした契約をしていないから、しばらくの間だけだろうな」


 革の袋の中から顔を出したレオーは機嫌の良さそうな表情に戻っていたので、どうやら好感度システムの強さには満足しているらしい。

 それを横目に、気合いの入っているライトが前に出た。


「このまま階段まで、すべての敵を倒していくぞ。俺に続け――!」


「はい、プレイヤー……って、なんでプレイヤーが先頭なんですか!?」


「俺は今、とある理由ですごくモヤモヤしているので殴ってストレス解消をしたい」


「……あ~」


 女装のことだろうな~、と察した。


「どうぞ……」


「うおおおお!」


 ライトは普段見せないような雄叫びをあげながら、集まってきた首無し兵士たちに突撃していった。

 スキルも何も使わず、ただストレスを乗せただけの拳を振り上げる。


「どりゃああ!!」


 信じられないことに、好感度システムで強化された拳は金属の鎧でさえぶち抜いていった。

 拳の方には傷一つ付いていない。


「ライト姫……すごいな……」


「猛々しいプレイヤーもステキですね」


 ライトは次々と敵を殴り倒していく。


「死ねええええぇぇぇ!!」


 普段言わないような過激なことを口走っている。


「……ど、どうやら少しストレスを溜めすぎていたようですね」


 ちょっと引き気味のリューナだったが、ブルーノがいないことに気が付いた。

 よく見るとライトの横で一緒に敵を殴っていた。


「チクショウ! オレだって女の子の気持ちくらいわからぁ!」


「こちらも選択肢で失敗したことを根に持っているようですね」


 リューナとしては普通に納得できる好感度の上げ方ばかりだったので、不機嫌な二人には首を傾げるばかりだった。


「「うおおおお!」」


 童貞の二人が雄叫びをあげながら殴り続けていたら、いつの間にか敵は全滅していた。

 驚くべき殲滅力である。

 しかし、ストレス発散して冷静になったライトとブルーノにとって、この階のことは黒歴史となった。

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