召喚士、努力で最強への可能性を知る

 ライトの眼前には、リューナと名乗る少女が立っていた。

 身長は小柄なライトと同じくらいだろうか。

 美しく整った顔に、武人然とした眼光を宿らせている。

 纏っているのは、見たことのないブルーメタリック素材の鎧。

 背には大きなマント。


召喚者プレイヤー、ケガをしていますね」


「プレイヤー……? 独特な言い回しだな……」


「薬草を使います」


 リューナは亜麻色のポニーテールをなびかせながら屈み、ライトに身体を寄せた。

 その髪から良い匂いがフワリと漂う。


「や、薬草? そんな効果の遅い物を使うより、今は――えっ?」


 リューナは腰に付けている布の袋から薬草を取りだした。

 それをライトの傷に押し当てると、瞬時に回復した。

 傷痕すら残っていない。

 ただの薬草ではありえない効果だ。


「プレイヤーは下がっていてください」


 リューナは盾と剣を構えながら、ゴブリンの集団に向かって行った。


「ら、ライトさん! わたし、召喚獣って初めて見ましたよ! イズマイール王国の最大戦力、歴史あるエリート職業の召喚士だけが喚び出せる存在! すっごい強いんですよね!」


 見ていたエイヤは大興奮だ。

 普通の召喚獣なら、ゴブリン程度なら一瞬で倒すくらいは簡単だろう。

 しかし、意外にも――


「よ、弱い……」


 思わずライトは言葉を漏らしてしまった。

 なぜかリューナが苦戦していたからだ。

 致命傷こそ喰らわないが、傷だらけになり、転び、必死に避けていた。

 ゴブリンを攻撃しても、強そうな剣の見た目に反してなかなか倒しきれない。


「もしかして、俺が落ちこぼれ召喚士だから――……ん? これは?」


 ライトは目の前に透明なウィンドウが浮かんでいることに気が付いた。

 最初は錯覚かと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 そこにはこう書かれていた。


 ステータス

 名前:リューナ・スカイロード

 職業:竜の勇者Lv1

 HP:15

 MP:0

 ちから:1

 みのまもり:2

 すばやさ:2

 きようさ:1

 かしこさ:1

 うんのよさ:4

 スキル【努力:経験値5倍】【布の袋:容量無限】


「ステータス……は何となくわかるな」


 書かれていることから察すると、どうやらリューナの身体能力だと推測できた。

 HPというのはたぶん、体力のことだろう。

 その証拠に、リューナが攻撃を受けると同じタイミングで減っていた。


 しかし、まったくわからない言葉があった。


「Lv……? 経験値……? こんな言葉、この世界にはないぞ」


「う、うわわっ!? こっちに来ました!?」


 援護射撃をしていたエイヤの元へ、敵対心ヘイトを高められたゴブリンが走ってきた。

 リューナは未だ一匹もゴブリンを倒せずにいる。


『ギャギャギャーッ!!』


「させるかよ!」


 傷が治ったばかりのライトだが、ナイフを片手にゴブリンへ飛びかかる。

 昔から鍛えていたので、そのままゴブリンを横薙ぎ。

 急所である喉元を斬り割き、一撃で倒すことに成功した。

 エイヤがペコリと頭を下げた。


「あ、ありがとうございます……ライトさん。何か普通に強くないですか?」


「オヤジに比べるとまだまだ。俺が知る一流の召喚士たちは、近接戦もそつなくこなすからな。……ん?」


 ――リューナはレベルが2に上がった――

 ライトの目の前のウインドウに、そう表示された。

 リューナのステータスが更新される。


 ステータス

 名前:リューナ・スカイロード

 職業:竜の勇者Lv1→2

 HP:15→18

 MP:0

 ちから:1→3

 みのまもり:2→5

 すばやさ:2→3

 きようさ:1

 かしこさ:1

 うんのよさ:4→6

 スキル【努力:経験値5倍】【布の袋:容量無限】


「……強くなっている?」


 それを確かめるためにリューナの方に視線を向けると、たしかに動きが良くなっている。

 攻撃を躱し、盾で防ぎ、剣を数発打ちこんでゴブリンを斃していた。


 ――リューナはレベルが3に上がった――

 リューナのステータスを確認すると、さらに数値が上がっていた。


「これは……敵を倒すと、その分だけ強くなる召喚獣だと!? ありえない……」


 ――リューナはレベルが4に上がった――

 さらに軽快な動きで、ゴブリンを斃していく。


 ――リューナはレベルが5に上がった――

 最初の最弱の勇者とは印象が変わり、普通の冒険者……いや、それ以上の強さになってきている。


「頑張れば強くなる……努力すれば報われる竜の勇者……」


 ライトは胸が熱くなった。

 いくら努力してもダメだと思っていた自分が、努力すればするだけレベルが上がって強くなっていく勇者を召喚できたのだ。

 これほど自分に相応しい召喚相手はいない。

 感動すら覚える。


「どんどんレベルが上がっていく! 強くなっていく!」


 ――リューナはレベルが6に上がった――

 ――リューナは【初級雷魔法:ゴロピカ】を覚えた――


「す、すごいぞ……魔法まで覚えた!」


「天の力を思い知れ――【ゴロピカ】!」


 リューナが手を突き出すと、空から雷が落ちた。

 それを数発放つと周囲のゴブリンは全滅していた。

 ――リューナはレベルが10に上がった――


「強いな……魔法の名前はちょっとダサいけど」


「ダサい……?」


 ライトは、ようやく口を開いたリューナに睨まれてしまった。

 どうやら、魔法の名前のことは言わない方がいいらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る