第11話 恋の爆発

大音量で流れるAVを無言で止める。


「…」

「…」


予想していなかった衝撃的な出来事に、

お互い気まずくて声をかけられない。


音のない時間が続く。

本当に上の階の人がタップダンサーの夫婦だったらいいのにと思う。


「鈴木って、ああいうの好きなんだ。。」


静寂を破ったのは、タップダンサーではなく美幸だった。


「い、いや、栗田に見ろって言われたもんだからさ!」

すまん。栗田。

でも、こういう時に頼れる奴こそ親友なんだよな。たぶん、きっと。


「そうなんだ。じゃあ、鈴木の趣味じゃないんだ。」

「競泳水着なんて興味ないよ!!」


本当はこのAVの監督、女優、音響スタッフまで覚えている。

自分の高校の校歌も覚えてないのに不思議なものだ。


「じゃ、じゃあ、どんなのが好きなの?」

「さ、さーな。。」

「言えないほどのものなの?」

「…聞いてどうすんだよ。。俺の趣味なんか。」

「…」

「もしかして、美幸がしてく…」

「それは!鈴木の答えによる!!」

「え?俺の答え?」

「そうよ!一ヶ月も待たせたじゃない。もうお願い。答えて。」


や、やばい。何の話かわからない。。

恐らく俺の記憶がない、シグマ初登校の日の話をしているんだろうが、

わからない。記憶がないせいで、なんて答えたらいいのかわからない。

だが、なんの話だっけ?って聞いたら、怒られることはわかる。。


「こ、コシ餡…」

「なによそれ。」


よし、これでツブ餡派かコシ餡派かの質問ではないことがわかった。

次は、歯磨き粉何使ってるの?の質問だった場合の答えを言おう。

こうして一つ一つの可能性を潰していこう。


「やっぱり、鈴木にはその気がないのかもしれないけど。私の気持ちは変わらない。一ヶ月前言ったとおり、もう我慢できないくらい!鈴木のことが好…」


ドッガーーーーーーーーーーーーーーン!!!!

バキバキメキ!!

「きゃーーーーーーーーーー!!!」

ズババババババババババ!!


突然俺の部屋の襖が爆発した。


「…」

「…」


「「えっええーーーぇぇええーーー!!!」」


俺も美幸も驚愕した。


テロの多い国ですら、襖が爆発することはないだろう。

いや、それはテロの多い国に襖がないからだけど。

ってことは、襖が多い国はテロが少ないってことか!!!


無意味な理を解き明かしてしまうほど、気が動転した。

美幸も目を丸くして硬直している。


だが、このまま状況を飲み込めず、立ち尽くしていても仕方がないので、

外れて倒れかけている襖の中を勇気を出して美幸と覗き込む。

もしかしたら、テロではなくドラ○もんの仕業かも知れない。


「なんなのこれ!?どうなってるの!?!?」


襖の中には、パニックになって立ち伏せる下着姿の天沢さんがいた。


「おいおい、襖がどこでもドアになっちゃったよ。」

「いや、壁が崩れて隣の部屋と繋がったのよ!?…てか、何見てんの!!」

「え!?鈴木くんに美幸ちゃん!?え!?」


慌てふためく卑猥な格好の天使ちゃん。

常日頃、露出の少ない服を着ている為、日焼けのない真っ白な肌が眩しい。

豊満なボディではないが、女性を感じさせる華奢な身体は、女や子供を守りたいと思う男の本能をくすぐる。

そして、天女の水浴びを覗いてしまったかのような背徳感と高揚感。

俺の股ぐらの起立を止めることはできなかった。


そんな一生に一度拝めるかどうかの情景を、美幸の柔らかだが力強い指で阻まれる。


「天沢さん!落ち着いて!とりあえず、服を着て!」

「バカ!! 美幸! 的確な指示を出すな!

 天沢さん!邪悪な人間界の下着なんて振りほどいて、天へ羽ばたくんだ!!」

「おのれは卑猥な宗教団体か!!」

「くっそー!!離せ美幸ーー!!」


10分後。


「やぁ、天沢さん。これは大変なことになりましたな~。ふふふ」

「そうね。まさか鈴木くんの部屋の襖が爆発して、私の部屋と繋がっちゃうなんてね~。」

「そもそも、なんで爆発したんだろ。」

「たぶん異常現象かなにかだろ。」

「いや、異常すぎでしょ。」


今俺にとって、襖が爆発したことなんてどうでもいい。

なぜなら、俺の部屋の隣に恋焦がれている人が住んでいたからだ。

しかも、二人を分かつ壁が壊れて、お互いの生活が丸見えになった。

これは否が応でも、俺と天沢さんの距離が縮まるだろう。

精神的にも物理的にも。いや、物理なんてもんじゃない。

肉体的に距離が。。ゲスゲスゲス


「う~ん。そういえば、壊れた壁からシグマさんが走り去っていったような~。」

「え?シグマ…さんが?」

「え…」


シグマが壊れた壁から出てきた!?

美幸が来たとき、俺の部屋の窓から外に出たんじゃなかったのか!?

壊れた壁からシグマが出てきたのが真実なら、シグマはずっと外に出たフリをして、襖の中で息を潜めていたってことだ。。

そして、なぜか壁を壊して出て行った。。

外の空気でも吸いたくなったのかな。

まぁ、それはさておき。


「とりあえず、これで生活するしかないですね~。天沢さん!ゲスゲスゲス!」

「そんなのダメに決まってるじゃない。」

「ダメ?ダルメシアンの略語か?」

「ノー!天沢さんが鈴木みたいな獣と一緒に生活できるわけない!」

「ダルメシアンだって獣だけど一緒に住めるぜ?」

「変態のダルメシアンとは住めないわよ!ねー?天沢さん?」


「そ、その、私。鈴木くんなら。いいよ?」

「…」

「へ?」

「信用してるから大丈夫だよ?」


どうやら、襖にいたのは性欲を満たすロボットじゃなく、

願いを叶えてくれる猫型ロボットだったようだ。


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