第2話 不運は密かに重なった

俺は鈴木。

高校二年の帰宅部所属。

そして、自他共に認める凡人だ。


中学生を卒業した時点で気がついた。

俺には才能がない。

だが、名前を覚えてもらえないほど地味じゃない。

容姿も運動も勉強もオール普通。

人並み以上の物がなく、人並み以下の物もない人間だ。


凡人の自覚。

それが一つ目の不運だった。。


今日は高校二年生の始業式の日。

入学してから一年が立つため、新鮮味のない通学路を歩く。


  タタタッ

「おっはよー!!」

ポンッと肩に華奢な手が触れる。

  タタタッ

  

「おはよー」

顔を上げると、走り去ってく美女の後ろ姿が10mほど先に見えた。

「足速すぎ…」

栗色のフワリとしたロン毛が甘い香りを振りまきながら揺れている。

高校一年の時の学級委員長。天沢さんだ。


賢くて、誰にでも優しい人。

そして、学校一の美女。

俺の好きな人だ。

無論告白したい。凄く付き合いたい。

でも、俺の手が届く存在じゃない。。


せめて…

「いつの日か俺から挨拶して颯爽と走り去ってみたいな。」

小さいようで大きい目標を呟く。


「鈴木…その目標無意味すぎ。。」

「ん!?」

驚いて後ろを振り返ると、銀髪ショートカットの女が俺のことを、

大きな吊り目で見ていた。


「美幸!いるなら声くらいかけてくれよ!!」

「あんたに声かけたって、話すことなんてないじゃん」

「…まーそうだね」


この少し無愛想だが、スタイル、顔共に美しい。

眉目秀麗な女性は美幸という。俺の幼なじみだ。

実家が隣で同い年のため、幼少の頃からの付き合いである。


「鈴木さ。一人暮らしなれた??」

「一年もやってると嫌でも慣れたよ。美幸は?」

「ちょっと寂し…やっぱ、実家の方が楽かな!」

「ハハッ!それは言えてる!」


「。。。」

「。。。」


本当にする会話がない。

しりとりでもしようかな。


前は会話がなくても別に気まずくはなかったんだけどな。。


中学の頃は家が隣で、部屋も向かい合わせだったので、お互いの生活を嫌でも把握していたし、クラスも同じだったため、一緒にいる時間がとにかく長かった。

その結果、話をしなくてもお互いの事を深く知っていた。


しかし、高校から二人とも少し離れたところで一人暮らしを始め、クラスまで違うため、相手が何を考えているのか少しわからなくなる。


「美幸!バスケの調子は…」

「鈴木!明日から一緒に…」


「みーーーゆきっ!!!」

「おはよ!!」

「みゆき寝癖付いてるよ~?」


同じバスケ部の子かな。

一瞬にしてみゆきは女の子達に囲まれた。


「相変わらず男女共に人気があるやつだな~」


結局一人で、今日から一年間通う、新しい教室に着く。

「おはよー。すすぎ」

見飽きた顔だ。

一年の時もコイツが前の席だったな。

周りの顔ぶれも変わらない。

クラス替えがない学校だと初めて知った…


「栗田おはよ。あと、俺の名前、濁点の位置違うぞ」

「今年もクラスメイト変わんねーのな。。

 これは今年もやる気出ねーぜ。」

「お前のやる気はクラスメイトに関係なく枯れ果ててるだろ。」

「いやいや!俺だってみゆきちゃんと同じクラスだったら、なんとか卒業できるぜ!?」

「クラス替えないから確実にお前卒業できないな」

「だな!ははは!」


相変わらず内容のない栗田との会話は、

何も新鮮味のない学校生活の始まりに感じた。


バンッ!!

ツカツカツカツカ!


「おはよう!一年に引き続き、佐野がこのクラスの担任となります。」


大人の濃い色香に面食らう。

ここを見てくださいと盛り上がった胸部。

クリスマスのディナーのメインディッシュのような腰つき。

息を呑むほど主張の強いボディだ。

この主張の強さ故に、一年たった今でも佐野先生の顔を見たことがない。


「では、私は先に体育館に向かいます。

 時間になったら学級委員長に従って始業式に来てください」


ツカツカツカツカ!

バンッ!!


また顔を見れなかった。。

先生が去った後は天沢さんを眺める。

これが俺の習慣だ。


「どうしようもない女好きだな俺は。。。」


凡庸で一人暮らしで、周りに美女がいて、

無類の女好き。


二つ、三つと不運は重なっていった。。



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