第21話-目を覚ましたらお説教されていた

……う、うぅ…ん? ここは? 頭いってぇ…


 俺が目を覚ましたのは、甲高い説教が響く学園長室。

気絶した後、学園長直々のふっかふかソファーで布団を掛けて寝ていた。

どうやら俺は頭部を勢い良く殴打したらしい。


 あの食堂で行われたフィーネとリープの大決闘は、俺が気絶した後にすぐ止んで近くにいた救急処理を得意としているクラスβの生徒が、いち早く俺の容態を診察して応急処置を行ったとのことだ。その後は責任者として、まだ挨拶もしていないクラス担任が学園長へ始末書を提出する形になったとか。


「全く貴様らは! 何度説教すれば理解できる! これで何度目だ――」


「まぁまぁフリード教官。もうええやろ。彼女たちも反省しているようだし。フリーレンとライトニング、これからも学園生活を楽しむとええよ」


 学園長だけは「主人公だし死ぬことはなかろう」と謎の余裕を見せていたらしい。


 今その二人は、担任の先生に厳しいお説教を何十分もされている。

転校初日で帰らぬ人になってしまう可能性が高く、全教職員がパニックを起こしていたようだ。異世界の使者が一日目で亡くなられると色々世間体にまずいとのことで。


「学園長! 彼女たちは何度も何度も問題を起こしています! 学園の噴水を破壊したり、ベンチを粉々にしたり、学生練の一部の窓ガラスを粉砕したりと! そして、今回は食堂殺人未遂事件。危うく死者が出るところでしたのよ! もう反省などの領域を超えています!」


「異世界の使者だけに死者になると。ほうほう。フリード教官、説教の一部にギャグを混ぜるとは、なかなかやるのう」


「学園長、ふざけている場合ではありません! これはメルベイユ学園一大事の事件になろうとしていたのですよ!」


「まぁそうカリカリするでない。怒声を上げて額に皺を寄せてばかりでは寄ってくる男も寄って来ないぞ。三〇歳で結婚出来てないのも、その辺りが理由ではないのかね?」


「学園長……私は生徒指導の教官ですが、どうやらこの部屋にもう一人指導しなければならない人がいるみたいのようですね――」


 今朝から思っていたけど、 この学園長、なんかおかしくね?


「あきらさん、本当に大丈夫ですの? 大きなたんこぶができていますわ」


  ソファーに寝そべっている俺のすぐ横には、椅子に腰掛けているリープ。

  その顔色は良いとは呼べず、本当に反省しているかのような表情だ。

  今朝食堂で昼食を摂っていた時よりもずっと暗い。


「ありがようなリープ。まあ、このくらい問題ないな。少しズキズキするけど」


 だが、実際は前後の記憶が消えていないのが奇跡とでもいえるくらいの衝撃だった。 たんこぶが大きくなっていても不思議ではない。


「今、おまじない致しますわ」


 そう言って、リープが俺のたんこぶに小さな手をそっと乗せて深呼吸をした。


いたい、いたいの、飛んでけ~エレクトロヒーリング


 ――そのおまじないは知っている


 痛がっている幼児をなだめすかすために唱えるおまじないだ。

 しかし、そのほとんどがプラシーボ効果で大きくなった中学生に効くことはない。

 

「いたいの飛んでいった?」


 この世界では、そのおまじないは魔法の一部とされるのだろうか――


「本当に飛んでいったぞ……」


 ――完全に痛みはなくなった。


「よかったですわ」


 リープは微笑み、こがね色のふわりとした髪をとぐように触る。


「リープ。そのおまじないはどこで知ったの?」


「そうですわね。昔、誰かさんに教えてもらったような気がしますが……」


「そのおまじないは多分、俺の世界でも伝わっているものだ」


「えっそうでしたの! あきらさんもおまじないできますの?」


「おまじないはできるけど、本当に痛みが引くことはないんだ。ただ、そういう気分になるだけが、本来感じる効果なんだよ。だから、リープ。ありがとな」


「いえ! とんでもございませんわ!」


 恥ずかしそうに頬を染め、左右に小さな頭を振ってふわふわしている髪も一緒に揺れた。


「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」


 と、鋭く熱い視線を感じる。

 その視線を感じるの方向へ首を傾けると、


「ふんっ!」 と、お怒りのフィーネが立っていた。


 何か逆鱗に触れたことでもしたか?


「フリード教官。名案を思いついたぞ。クラスΩでは特殊な生徒ばかり集まっておる。そこで、罰として彼らをチームとして組ませてはどうだろうか。クラスΩは残念ながら団結力がほぼ皆無。ソリストを好む生徒たち故、フリード教官も頭を抱えておったろう。彼らがチームを組むことでクラスに遍満し、さぞ指導がしやすくなるであろう。精霊法に基づけば彼らも組まざる負えない」


 担任だと思われるフリード先生と学園長のいざこざは一段落まとまり、生徒に課せる罰を思案しているらしい。

 どうやら俺が転入するクラスは問題児や特殊な生徒が多いようだ。

 異世界の使者である俺は特殊なので、クラスΩに転入することになったとか。


「学園長にしてはまともな案ですね。その案を採用致します」


「えーーーーーっ!」「イヤですわそんなの!」


 フィーネとリープ、二人の甲高い音声が室内に響き渡った。


「あきらはともかく、何でリープとも組まないといけないのよ!」


「あきらさんとはぜひともよろしくしたいですが、フィーネとはイヤですわ!」


 先生は二人を睨みつけ、オーラを限界まで高め威圧した。


「二人共! 我儘はよしなさい! これでも多めに見ているのですよ。チームを組むのと、二度と人に顔を見せられなくなるほど残虐な刑罰、選ばせてあげます」

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