第10話- 俺は、ロリコンじゃない。だから、安心してくれ。-

「「え?」」


 可愛らしい声が、俺の声と重なった。


 ――状況、開始


 まず、前方からザーザーとシャワーの音がする。

 高い場所から滴る水滴は位置エネルギーが音のエネルギーに変わっているのと、シャワーのノズルから水が噴き出ている音だ。

 ああ、これが廊下で聞こえた水の音の正体だったわけね。なるほど。

 次に、このむわむわとした白い湯気。

 どうやらこの個室には水蒸気が充満しているらしい。

 臭いはなく……、むしろ良いフローラル香りだ。

 もし、この匂いが有害であれば世の中死者が続出するだろう。


 最後に――


 目の前で体を側面に向けて此方を見ている何者か、だ。

 その瞳はサファイアのような色彩と輝きで満ちている。

 本体は少し小柄な体型で、肌色は生まれたての赤ちゃんのような艷やかさだ。

 空色の見目よい髪はちょうど肩に懸かるか懸からないかくらいのセミロング。

 その濡れた髪の上からは雨が降っているかのように水が流れて体全体に美しいラインを出しているかのように表現されている。


 わずか下に視線をずらすと、若さの象徴である少し膨らんだ胸が目にこびり付く。

 俺よりも僅かに背は低く、柔軟な体つき。

 全体的に柔らかそうなその少女は羞恥と苛立ちを抱いているような感じで顔を歪めて震えている。


 可愛いぞ。可愛いすぎるこの生物。

 女神……。

 女神か……?

 突如、俺の心臓が高鳴りを上げた。


 ――え?


 その少女を見ると心臓が異様にドキドキしているのが分かる。

 一体この気持ちはなんなのだろうか。

 女の子の素っ裸を見て興奮しているのか?

 それとも一目惚れをしたのか、俺には判断出来ない。

 ひとこと言えるのは、世界で一番可愛いと、俺は瞬時に判断した。


「な、な、ななななななななななななななななななななな!!」


 少女は突然「な」を連続で発してきた。

 多分、俺が知らない言語で訴えているのだろう。


 ――状況終了。直ちに撤退せよ。繰り返す。直ちに撤退せよ。


 と、俺の脳内アナウンスが痛いほど響いているが、体は些とも動かせなかった。

 やはり、心臓が破裂しそうな気持ちが心にある。

 色々な条件下で今までにないほどに興奮しているのだろうか。

 突然、今まで噴出していたシャワーが止んだ。

 ぽと、ぽと、と水滴が一粒ずつ落ちている音が微かに響く。


「あーっ、そうだな」


 さて、どう弁解しようか。


「まず、言っておきたい事がある」


 本心とは些か違うが、ここは穏便に済ませるよう興味がないと示しておこう。


「俺は、ロリコンじゃない。だから、安心してくれ。襲いはしない!!」


 完全完璧に決まったと思い、

 俺はちらっと少女の顔を見て様子を確認するが、


「ナ、ナ、ナ、ナナナ、ナナナナナナナナナナナ!!」


 と、またもや不明な言語で俺を威嚇してきた。


「というわけで、失礼――」


 俺は素足さと一歩後退して、ドアを閉めようとした。


「ナんですってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 少女が甲高い声で思いっ切り叫び始め、シャワー室に響き渡った。

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