第3話-奇妙な森-

 奇妙な森の中は、見たところ滑走路並に長かった。

 夕日に照らされている森の中は綺麗という感想の他にも不気味という感想も出てくる。

 まるで、俺らをこの中に誘い込むよう誘惑しているようだ。

 セミの泣き声と葉っぱ同士が擦れる音だけの世界。


 ――ミーンミンミン

 ――サワ、サワ、サワサワサワ


 葉の色は緑色。夏の真っ只中のイメージ色。子供の頃は夏が来るたびに虫取りに励んでいたものだ。これが茶色になると秋、葉がなくなると冬。そして、咲き始めれば春と人々は感じるのだろう。


 ジャリ、ジャリ、ジャリ――


 俺らは静かに足を揃えて更に奥へ進んでいく。


「ところで健二。何でこの森の中に入りたくなったんだ? ここって危ないで有名だろ?」


「そうだね。危険で有名だ。でも、ちょっと気になることがいくつかあってね。それを確認しに来た」


「ふーん。それで、何か分かったのか?」


「どうだろう。何も確認出来てないかもね……」


 軽く会話をしつつも俺たちは森の中を歩き続ける。何分くらい経過したのだろうか。足が疲れてきたかもしれない。


「ちょっと歩き疲れたわ。そろそろ戻ろうぜ。そういえば、今日は藤崎とは帰宅しなくて良かったのか? いつも一緒に帰ってるけど」


「大丈夫だと思うよ。藤崎さんには煌と一緒に遊んでくるって言ってあるし。それに彼女は意外と社交性があるしね」


「幼馴染いいなぁ。俺も欲しかったわ」


 今日お弁当作ってきたんだけど、食べる? べっ別にあんたのために作ったわけじゃないんだからねっ!? って言われたいぜ。幼馴染に、うん。


「僕はそんないいって思ったことはないよ? 許嫁ってわけでもあるまいし」


 日が完全に隠れてきたのか、だんだんと森の中が暗くなってきた。昆虫の鳴き声も少しずつ遠ざかり、聞こえなくなってきた。

 健二が歩きながら俺に目を移す。


「今日は暗くなるのいつもより早いね。そろそろ戻らないと色々と危険かも」


「でも、何も確認出来てないんだろ?」


「そうなんだけど……」


 それにしても、健二の言う通り今日は暗くなるのが早い。夕日が沈んでもある程度は余韻を残すかのような明るさが続くはずなんだけど。今は真っ暗に近い状態だ。

 何かがおかしい気がする。

 そして、いつの間にか違和感が本物になっていた。セミの泣き声も風の音も聞こえず辺りは無音な状態になっている。普通考えられないぞ。


「煌……やっぱりここはヤバイ気がする」


 実は健二は最初から気づいていたのだろうか。この説明出来ない異常な状態に。


「ああ、俺には霊感は無いがなんとなく危険な香りがするぞ」


 霊感がある健二は直接幽霊と話は出来ないが危険かどうかは瞬時に判断できる程度の霊感はあるらしい。俺は幽霊なんて信じないけど、この状況はいわゆる「私の知らない世界」ってやつだろう。小学生のころに映画の学校の階段で見た。

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