第21話 髪が落ちている

 僕は長野県の観光地で飲食店をやっています。近くに別荘が沢山立っていて東京や名古屋から来たお客さんがお店に来ます。これはある別荘の持ち主、厳密にはその息子のTさんから聞いたお話です。


 その別荘は綺麗で結構大きいにも関わらず、破格の値段だったと言います。木の匂いがするロッジ風の建物に、大きなベランダがあって、そこでバーべキュウをするのが贅沢なんだとTさんは言っていました。


 基本的には親の持ち物なんですが親が使わないときによく友人と、その別荘に遊びに来ていました。その時も友人を一人、別荘に招待していました。


「この別荘凄く良いんだけど、ちょっと妙なことがあるんだよな」Tさんが話すには一人で別荘にいると、もう一人誰かいるような物音がすると言うんです。階段を登るような音に加え黒っぽい影の様な人影が横切ったり、誰もいないはずの二階から足音が聞こえたりすると言うのです。


 友人と二人で飲み明かし、次の日に別荘を掃除している時にそれを見つけました。二階の部屋に数本の長い髪の毛が落ちていたのです。


 今別荘に居る自分も友人も短髪だし、前回別荘を使い終わった後に一度クリーニングが入っているので、そんな所に髪の毛が落ちているわけがないのです。


「これは何かある、今日二階で寝てみないか?」とTさんが友人を誘うと、友人は気味悪がり乗り気じゃありませんでした。


 仕方なくTさんはその日一人で二階で寝てみることにしました。何かあったらすぐ携帯へ電話しろと友人は言いました。


 二階の部屋に布団を敷き、横になってその何かが現れるのを待ちました。時間が過ぎましたが何も起きません、しばらくするとTさんも眠くなってウトウトとし始てしまいます。


 いつ電灯を切ったのか記憶がありませんが、いつの間にか部屋は真っ暗になって辺りはしんと静まりかえっていました。その静寂の中に何か音がします。ギシギシギシと天井の辺りから何かが軋む様な音がするんです。


 そして、ハラ……ハラ……と何かが落ちてきます。髪の毛だ……とTさんは思いました。何かが顔の前を横切る……足です。目を見開き天井を見上げると、ギシギシギシと音を立てながら、女の首吊り死体がぶら下がっているのです。


 うわっと悲鳴を上げそうになりますが、声が出ません、死体の目がこちらを向いて目が合いました。ぞぞっと怖気が背筋を走ります。


 そうだ、電話だっ! とTさんは枕元の携帯を取り友人に電話を掛けようとして、コールして……。


 ドスンッ! と女の身体が落ちてきました。見上げると首が……ちぎれた首がケタケタと笑い声をあげたところで、Tさんは意識を失いました。


 気が付けば友人に揺り起こされて目を覚ましたところでした。半泣きになりながら友人に事情を話しました。「これはまずいだろ」と友人は言います。


 彼が指さす先を見ると、布団の上に無数の髪の毛が落ちていたのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る