第19話 地元の幽霊タクシー

 幽霊タクシーと呼ばれる怪談の一群がある。皆さんもどこかで聞いたことがあるだろう。この話、全国津々浦々に類話が存在する。もちろん僕の地元長野県でも。


 僕の叔父さんはタクシーの運転手をしている。その叔父さんから聞いた話である。体験者は叔父さんの同僚だそうだ。


 ある雨の日の事、駅前のタクシー乗り場で、女性の一人客を乗せた。国道沿いの山道の辺りが行先だと言う。


 女は長い黒髪で雨の中傘もさしておらず、髪は濡れているようだった。どうも顔立ちが記憶できない妙な顔であったが、醜くはなくむしろ綺麗な顔立ちの様に見えたという。


 後部座席に座った女をルームミラーでチラチラ見ながら、運転手さんは色々と話しかけてみるが、女は軽く頷くだけで返事をしない。


 まあ良いかと思いながら市街地を抜け山道へ入っていく、この国道をそのまま抜ければ隣の市の市街地へ出るが、女は山道を登った先へ行きたいと呟いた。


 この先って何があったかな? なぜか思い出せない。そのまま山道を登り続けると、そこそこに大きな建物に行きついた。


「着きましたよ」と言って後部座席を見ると女がいない。「えっ!?」と思わず声を上げた。


 車を停止させ後部座席を見る、うっすらとシートが濡れているだけでやはり女はいない。茫然と辺りを見回すと、そこは火葬場だった。


 このタクシーが誰も乗せずにドアを開け閉めして走っていくところを叔父さんは見たという。その話をすると運転手さんは大そう怯えたそうである。


「いや……本当に乗せたんだって」と運転手さんは言っていたそうだ。

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