第5話 男の正体

「君が、嵐君だね。」


見知らぬ男性が話しかける。


「あ、ハイ。」


ダイゴやケンに片付けを任せて、テツは男性から名刺を受け取った。


【高崎ツインズ スカウト担当 鷲田 一】


「はじめまして、鷲田 一(わしだ はじめ)と言うものです。」


高崎ツインズ?確かJ2のチームだよな?

その、スカウト??


「は、はあ。」


なんと返して良いのか、状況が全くつかめない。


「突然で申し訳ない。率直に言おう、うちのチームの一員になる気はないかい?最初は下部組織になるが、トップチームに上がるチャンスもこれから次第だが、あると思う。将来性がかなりあると見ている。」


鷲田と名乗った男は、自分よりだいぶ年下であろう15歳の少年の目をまっすぐ見て、はっきりと伝えた。

本気で伝えてくれてる。そう感じるには十分なほど言葉には力があった。


「すまん、すまん!」


クラブのコーチが走ってこちらへ向かってきた。


「すみません、先に伝えてしまいました。」


「いやいや、テツ、そーゆーことらしいわ。」


おいおい、大人達よ、言葉が足りない。

つまりは、俺をスカウトに来たってこと?で、間違いはなさそうだ。


「急でびっくりしたと思うが、悪い話ではないぞ。すごいことたぞ。親御さんと相談してだな。それに鷲田さんはな、俺の大学の時の監督の……」


コーチが何か一生懸命話していたが、正直細かいことは頭に全然入ってこなかった。


「嫌じゃなければ、来月の練習会に参加して欲しい。こちらとしては強く推薦したいと思っている。連絡待ってる。」


鷲田さんは最後にこう話した。そして、両手で握手を交わし、コーチとこっちに頭を下げて帰って行った。





「ス、スカウト!?」


ダイゴとケンには正直に伝えた。二人とも驚きを隠せずにいた。


「行くの?どーすんの?すげーな。ツインズかー、J1上がるだろ今年。プロになるのか?行くだろ、普通。羨ましい!俺なら即答で行く!」


ダイゴは目を輝かせ、言葉をまくし立てる。


「すごい!本当にすごいことだと思う!うん。おめでとうテツ君!あ、おめでとうはおかしいのかな。」


普段は落ち着いているタイプのケンも、同じく興奮している。


「さすがに、すぐにプロって訳ではないみたいだし、まだ学校だって半年あるしなー、卒業まで。それに、親もなんて言うか。」


ご存じの通り、テツはバスケ部だ。バスケットボールと言うスポーツに出会って以来、ずっとハマりっぱなしだ。バスケが大好きだ。好きなスポーツの一位は揺るがない。

しかしながら、当初は「助っ人」として頼まれたサッカーも、引退してからはクラブでの練習や試合に時間を多く使い、キーパーがとてもおもしろいと感じていた。駆け引きやポジショニングなど、とても奥が深い。バスケと似ている部分や全然違った部分に、言葉とは裏腹に、そこそこ本気でハマっていた。


「んー、どっちにしろ、帰ったら親に話さないとな。」


少し、めんどくさそうに、小さく呟いた。


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