第16話 恥ずかしい朝ごはん


「おはよう」

「……おはようございます」

「朝ごはん」

「……はい」


 状況がよくわからないが、出雲さんに起こされたようだ。

 ここは……合宿場の男子部屋だな……。

 朝食の時間になっているらしい。

 まだぼんやりする。

 

「ねぐせ」

「……はい」


 髪をセットしないとな……。

 目をこする。


「着替え」

「……はい」


 僕は浴衣のままだ。はだけている。

 うーん。眠い。


「勃起」

「……はい」


 朝だから。

 生理現象です。


「……」

「……」


 そして出雲さんは部屋を出ていった。

 まずは顔を洗って……


「うわああああ!」


 出雲さんめっちゃ見てたよ!?

 恥ずかし!

 っていうか、昨日のことを徐々に思い出してきた。

 押し入れで一緒に寝ちゃったんじゃないか?

 なんてこった。一気に目が覚めてきた。

 歯を磨き、急いで着替えて食堂へ。


「おはよう、善院凰ぜんいんおう君」

「おはようございます、部長」

「昨日はお疲れだったな」

「その、部長が運んでくれたんですか?」

「ああ。スキを見て俺がおぶったよ。出雲くんはまなかが運んだ」


 よかった。先生には見つからなかったようだ。


「ありがとうございます」

「なに、むしろ潜入してもらって感謝してるよ」


 そう言って、牛乳を一気飲みした。やだ、イケメン……。


「おはよ、オシテルっち」

「おはよー、テルくん」


 上ケ見先輩とまなか先輩も朝食を取っていた。

 ビュッフェ形式になっているようで、みんなトレイの上の料理が異なる。

 上ケ見先輩はヨーグルトとフルーツ中心の映えるチョイス……なのにぬか漬けもトレイに載せている。絶対本当に好きなのはぬか漬けですよね!? お味噌汁とご飯と納豆も食べればいいのに無理してギャルっぽくしてるのブヒイイイ!

 まなか先輩はパンとコーンスープ。そしてシリアルと牛乳。さらにご飯と味噌汁と焼き鮭を取っていた。単純に量が多すぎィ!? 3人前じゃないですか!

 でもそれぞれバランスよくすでに半分くらい食べ進めているようだ。いやこの場合、バランスよく食べることが本当にバランスがいいのか疑問だ。パン、スープ、シリアル、鮭、ごはん、味噌汁の三角食べを越える六角食べです。

 でもまなか先輩のボディは最高のバランスですからこれでいいんでしょう! よく食べる女子ブヒイイイ!


「……」


 出雲さんは挨拶無し。さっきしたからでしょう。

 僕も料理を取ってこよう。グレープフルーツジュースが美味しそうだったので、トマトケチャップを多めにかけたオムレツとロールパンを二つトレイに載せた。これに焼き鮭やぬか漬けを追加する気にはならないなあ……。

 席に戻って、ジュースを一口飲む。


「……」


 出雲さん? どうしてソーセージを僕に見せつけるんですか?


「ヅモちゃん、ソーセージしか食べてないね。それって……」

「……」


 無言で僕を見る出雲さん……。真顔です……。

 恥ずかしいので目をそらします……。


「え、まさか、さっきオシテルを起こしに行ったときに、ソーセージを見ちゃったからってこと!?」

「……」(こくり)

「ええ―! ウケるー! あはははは!」


 お腹をかかえてヒーヒー笑う、まなか先輩。非常に魅力的ですが、ブヒれません。恥ずかしさが勝つからです。ハズカシイイイイイイイイ!


「ど、どうだったの?」

「びんびん」

「うひゃー! へー! へー! やっぱり朝ってそうなんだ」


 シモネタ大好きの二人は朝から大盛りあがりだ。ちょくちょく僕の顔を見ようとしてくるので、パンに集中する。ふうむ……パンです。ろくに味がしない……。少しも食事に集中など出来ない……。

 そういえば、もう一人の美少女はどう思っているのかな……。


「……」


 上ケ見先輩は顔を真っ赤にして、うつむきながらきゅうりのぬか漬けをポリポリしていた。くうう! 恥ずかしがるギャルブヒイイイ! 僕よりも恥ずかしがってくれていることでなんか救われた気がします。好きです。いえ、ずっと好きでした。


「みんな聞いてくれ。善院凰ぜんいんおう君のおかげで先生のことがよくわかった」


 部長、突然何を?

 まったく空気が読めないのかな……。あ、ひょっとして僕を助けてくれてるんですかね? やだ、イケメン……。コーヒーに結構ミルク入れてるけどイケメンです。


「お酒に酔っていても、いや、酔っているからこそ、わかった。本当に優しい人だということが」


 酔って無くてもわかる気がしますけども。

 むしろ、莉美先生には叱られたいんですけど。


「だから俺はまた告白しようと思う」


 え? 昨日盗撮して魅力に気づきましたって? やだ、この人バカなんじゃないかな……イケメンだけどバカだな……。


「まー最後はそうしたらいいけど、先に二人っきりになった方がいんじゃね?」


 上ケ見先輩の優しすぎるアドバイス。少しもマイナスなことを言わずに上手に誘導している。気遣いが出来て賢いギャル。完璧すぎるぅ! 好きです。大好きです。


「リミセンにはなんて言う? 合法的に二人がイチャイチャしてるところを観察させてくださいって言えないよね」


 言えないよねー。

 そして、まなか先輩と合法的にイチャイチャさせてくださいとも言いたいけど言えない。言えばオッケーしてくれるのでしょうか。いや、妄想するだけで留めておこう……。


「大人の女性のデートを見て勉強させて欲しいとかでよくね?」


 やはり天才か。っていうか、この部活で頭を使ってるのは上ケ見先輩だけなのでは? 「よくね?」とか言い方は軽いけど賢さが凄い。

 出雲さんも考えてはいそうなんだけど、表現されないからな。黙ってソーセージを食べてるだけです。僕は恥ずかしいですが、出雲さんはそれでいいと思います。ブヒヒ。


「うーん、そういうお芝居みたいなことをお願いして、先生の本当の姿を知ることになるのだろうか」


 何マジメに悩んでるんだよ、池澤……。莉美先生とデートできるとかお芝居だとしても最高だろ……代わろうか?


「本当のデートがしたいなら、そのシミュレーションみたいなもんじゃん」


 上ケ見先輩とデートのシミュレーションみたいなもんをしたいですね。いや、駄目だ、ブヒりすぎて死ぬ。でも死因が萌え豚死なら本懐か……。

 

「うん……そんな感じでお願いしてみるよ」


 お願いしてみる勇気はすごいと思います。僕はちょっと鬼気迫る顔になっちゃうだろうな……。

 朝食を終えて、莉美先生のところをみんなで訪れた。

 

「おはようございます、先生。今日は恋愛研究部の活動として、大人の女性である莉美先生とのデートをシミュレーションさせてもらって、それをみんなで観察させてもらえないでしょうか」


 うん、スラスラと言えるのが逆に凄いよね。僕はちょっと無理だな。


「え? う、うーん。デートはちょっと……」


 難色を示す莉美先生。そりゃそうか。


「ちょっとなんですか」


 空気を読めない部長。なんですかじゃないんだよ、困ってるんだよ。聞くなよ。「それ聞いちゃう?」っていう顔してるだろ。そういう顔も素敵です。


「まー、あーしたちだって着いていくわけだし、二人きりってわけじゃないんだから、いいんじゃね? 莉美先生のデートじゃなくてさ、免斗めんとがデートするとしたらどう行動するかを教えてもらうってカンジ?」

「うーん、そういうことなら……」


 説得されたよ、莉美先生が!

 本当に上ケ見先輩だけで成り立ってるなこの部活!

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