不死の少女と世界の果てで

一条 遼

1話目

「いたぞー!あそこだ!あの人影を捕まえろ!

追え!絶対に逃がすな!」


暗い森の中

低い声が響き渡る


その声の後に続くように

数人の男たちが人影を追う


手に松明を持ち辺りを照らしながら

ひたすらに追いかける


かれこれ2日

人影たる人物は彼らから追いかけ回されている


捕まれば殺されるより酷い目に合う


逃げるしかない人影は

肺が苦しかろうが

足の腱が切れようが

走らなければならなかった


「クソっ…まだ捕まらねぇか!」


「いい加減疲れたんだよ!」


「あぁ!チッ、出て来いやクソが!」


追いかける男たちが次々に

愚痴をこぼす


それでも止まらず前へ前へ


しかし、限界というものは

命がかかっている時でさえ

理不尽にも突然やってくる


茂みのなかへ何とか入ってすぐ


ドサッ、その場に倒れ込む音

その音と共に意識までもが

暗く深い闇の中へと落ちかける


「どうか…見つからないように……」


荒い呼吸と共に願いを零した


足は酷く痛み皮は擦り切れ

血が滲む、心臓はうるさくなり続け

ただひたすらに酸素を回す


薄れゆく意識の中願った願い


その願いはあっさりと打ち砕かれる


「はは…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ………ふぅ、

あははははははは!」


突如暗い森に響く低い笑い声


「おい!ここだここにいるぞ!

とうとう力つきやがった!

アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

このガキがぁ!散々手こずらせやがってよぉ!

だがっ!これでっ!も同然だぁ!」


「おいおい、全く動かねぇぞ

こいつまさか死んでねぇだろうな?」


「まさか、こいつがなんてことは

有り得ない、何をしても死なねぇんだからよ

だから、安心して道具にできる」


「しっかり手足を鎖で繋いでおけ

その後念には念を入れて眠らせとけ」


「わぁってるよ大将、そこんとこは抜かりねぇよ」


と、次々に男たちが喋り始める


さっきまで殺伐としていた彼らに

その面影はなく


何かとの戦いに勝てると

確信をし、笑みが零れていた


その時には既に人影の意識はなく

闇の中を彷徨うだけとなっていた


男たちも相当疲れていたのか

人影の意識がないことを確認し

鉄の鎖で手足を縛り

逃げた罰と称し腹を蹴飛ばし

顔を殴りと、彼らの気のままに乱暴に転がし


そのままそこで休みを取った


--------------------


すぐに夜が明け光が指す


登りゆく朝日に照らされて

男たちは目を覚ます


目を覚ました彼らは

帰国しようと

支度をし、捕まえたものを

誰が運ぶか決めようとしていた


そのタイミングで人影は目を覚ます


覚ましてすぐ身体中に

途方も無い痛みが走る


足だけでなく

顔や腹から痛みが出ているのを知り

自分はあの後暴行を加えられたのだと察した


度重なる緊張と疲労から

逃げ出そうにも逃げ出せなかった


(このまま道具として国に連れていかれ

一生争いの種にされるのだな…)


(もう大人しくしていよう)


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!)


(私さえ大人しくしていれば)


(行きたくない、戻りたくない!)


(道具として使われてさえいたら…)


色々な声がした


全て同じ人物から発せられた

心からの拒絶と諦め


その2つと向き合えず

ただ泣いていた


諦める声があったのだが

諦めるのは嫌だった


この状況を何とかできる力もなく

ただ理不尽に押さえつけられ

抗えす、勝てず、永遠と打ち砕かれ続けた願い


現実に情けなどなかった


「おい、そろそろ行くぞ

支度は終わってるだろう?

早く戻らねば宝の持ち腐れになるぞ。」


「はいはい、わかってますよ隊長様〜」


「おら、大人しくしてろよ?」


1人に抱えられ

走ってきたであろう道を遡っていく


ジリジリと来た場所へ近づくにつれて

呼吸は荒く、悲しさ悔しさは倍に

恐怖は何十倍にもなって

襲いかかってくる


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)



いくら思っても助けなんて来るはずもない


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)



お願いだから助けて


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌

嫌…嫌……嫌………?嫌っテなンだッけッ?)


もう。いいか。

何もかも。どうでもいいよね。

ワタシがなニもシなケレバイインダヨネ。

ナニもかんがエナケレバツラクナイヨね。

かなしくないよね。イタクナイヨネ。

コワクナイヨネ。そうだよね。


アァ。そうだ。ソウダヨネ。

ソウシヨウ。ソウスレバ。みんなしあわせだよね。


-------------------------------------------------------------------


そこでプツンと何かが切れた


それと同時に

下へ下へ落ちていった


意識の話ではなく体の方が


物理的に下へ下へ


下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ

下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ下へ


次の瞬間水の中へ沈んで流された


意識も感情も心も体も


全て水の中へ



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