第23話 再会!!

「いや~俺分かっちまったんだわ!ライブの極意ってもんをよ!君達には分かる!?」

「知りたい?!知りたいだろ!それはな客との本気の殺し合いをするって事なんだよ!」

「殺ルカ殺ラレルカ、ソレダケ!」

「俺達の完全優勝だった。そして後々言われる事は”キルエムオールはまじでヤバい”これに尽きる」


 昼間のスタジオペンギンのレストスペースにて意気揚々とその様に話す我らキルエムオール。俺達は誰に話かけているかと言うとスタジオ練習に訪れていた3ピースバンドのニワトリ高校生にだ。ニワトリ高校生達は俯きながら大変に迷惑そうな表情で俺達から発せられる酒臭さに顔を何度も顰めていたが、そんな事もお構いなし。俺達は溢れ出すこの感情を話したくて堪らなかった。


”ライブ童貞を捨ててしまった!俺達は大義をなした!”


 そう感じざるを得ない。童貞とは辞書による所では性交渉が未だない男性を指す。しかしながら近年”〇〇○童貞”の様に童貞と言う言葉が応用される事が多くなった。様々な分野において未だ経験が無い動物に対して使用される。今回の様にライブ童貞の様に(*正式にはコンサート童貞の方が意味合いが正しいと思いますが)

 

 皆さんもご経験があるかと思われますが何かを初体験をして何かを失った瞬間は世界が広がり輝き”この感動を早く誰かに伝えたい!”と思うようになるはず。我々はその感覚に陥っていてそれが著しく出てしまっていると言う事なのです。

 

 かれこれサンドバッグを延々と殴りつける様に40分はニワトリ高校生達に論じていたのだが、実はこのニワトリ高校生達、全国高校生バンド選手権の優勝バンドであり翌月メジャーデビューするらしいのを後に知りました。


 さて先日の初ライブはと言うとG○アリンばりにカワ谷が暴れ気に食わない客に襲い掛かりライブハウスはス○ブラ化したが全曲はやり切る事は叶った。カワ谷はフロアで客にボコボコにされていると思えばステージに戻りマイクを握り歌い叫ぶ。体力が回復した所で再びフロアに飛び出して先程ボコボコにされた奴に襲い掛かるのを何度も繰り返した。帰ってくる度に血だらけになっていったが最終的にはフロアに沈んだカワ谷を担ぎ退場する事で我らの初ライブの幕が引いた。

 

 何とか5バンド全てが終了、その後、観客参加の打ち上げがあったのだがキルエムオールは企画主の反感をモロに買い打上げの参加禁止を叩きつけられた。せっかく出てやったのにこんな仕打ちあるかよ。まぁ、車で来たから酒なんか飲めないし、ハナから他バンドやら客なんてもんは殺害対象だから馴れ合うつもりはなかったからちょうど良いわ!なんて当時は思いながら本当は4匹ちょっと寂しいのも事実であった。


 そんな感じで俺達はライブの味を占めてしまいこうして今ニワトリ高校生に論じているのだ。そんな状況をゴスリス姉ちゃんは白けた表情でこちらを見ている。そんな時出入り口が開きベルが鳴った。


「こんちわー、あ、使徒バンド先輩」

「ん?おお!カエル原君じゃあないか!」

「この前はお疲れさんした。打ち上げ出れなかったのは残念でしたけど」

「お疲れサンバ!お疲れサンバ!まぁ俺達には馴れ合いなんて必要ないって事よ!」

「ははは、流石っすね。けどファーストインパクトヤバかったんで演者からも観客からも話題になってましたよ。ま、ならんとおかしいですけどね。SNSでも本当に少しですけど書き込みありましたし」

「わははは!そうか!そうか!どれどれ」


 そうしてカエル原君が差し出して来たスマホの画面を俺達は覗き込んだ。


『キルエムオールってバンド、曲はなんかどっかで聞いたことのある様なもんばっかだったな』

『キルエムールだっけか?最初はゴミみたいなもの演奏だったけど、突然エンジンかかって暴走して客ボコボコにし始めてア○トサイダーの会場みたいになったのはマジ笑った』

『キルエムオール、とにかく魚臭かった。魚介系メタルコア』


 そこにあったのは称賛とは程遠くはないが批判とも言えない文章が連なっていた。かくかくしかじかの書き込みが十数件ほどあった。俺達が思い望んでいたのは”とにかく残虐!” とか ”聴いているだけで殺されそう!” とか ”格好いい。痺れた” とかだった。なのにそんな物は一切なく ”ア◯トサイダー” とか ”魚介” のワードが目立った。


「…ア○トサイダー…魚介…」*4匹

「まぁ最初はこんなもんですよ!これからっすね!」

「…因みにカエル原君は俺らのバンドどう思った?」

「いや~勢いは最高っすね!勢いは!」

「……」*4匹

「そんな落ち込まないで下さいよ。それより今日はちょっとお話しがありましてね」

「ぬぬ?」


 俺達がカエル原君の話に耳を貸すのを確認するや否やサンドバッグ状態のニワトリ高校達はここぞと言うタイミングでこの場から消えた。

 そして俺達はカエル原君先導の下、スタジオ"ペンギン"を後にして電車を乗り継ぎ、繁華街のとあるバーにたどり着いた。


 アニマルバー"ヤギ"


 既に20時を過ぎていて夜に包まれる中、暗い路地の一角、店前の看板のネオンが妖しく点灯している。その看板をただ見つめる我らキルエムオール。ま、まさか本当にブリブリになってしまうんじゃないか?そう思った。

 そうこう思っているとカエル原君はその扉を開け放った。


 「ささ、行きますよー」


 店内に立ち入ると狭く薄暗い空間があり、モクモクと煙が漂っている。カウンター後の棚に多くの瓶が並ぶ中、タカのバーテンが酒を作っている。壁沿いに設けられたソファーにはガタイの良いゴリラが大股開きで座り酒を飲んでいた。

 カエル原君の後を追い不安に駆られながらズンズンと進んで行くと奥のソファーに1頭、煙に包まれる動物が座っていた。


「ヤギ沼さん、連れてきましたよー」

「おお、お疲れさん」


 そこには葉巻きを吸う、中年のヤギがいた。葉巻きがとってもクセー。この状況に少し震える我らキルエムオール。


「先輩達、一回あってますけど改めてヤギ沼さんです」

「え?だれ?」

「やだなぁ〜、先日やったライブハウスのオーナーさんですよ。このバーのオーナーさんでもあります」

「…お前ら、暴れてくれたよな。よく覚えているよ」

「そ、その節は大変申し訳ございませんでした!…ただ今は一つだけ言わせて下さい…僕は絶対にやりません!!」

「母ちゃんが泣くから!!」

「ノードラッグ!ノーライフ!」

「逆だろ」


 その俺達の魂の叫びにカエル原君とヤギ沼さんはキョトンとしたがすぐに2匹は吹き出した。


「あっははは!何言ってるんですか、違いますよー。今日ヤギ沼さんの所に来て貰ったのは次のライブについて話があるからって事らしいんですよ」

「え、そうなの?」


 打って変わってキョトンになった俺達に対して2匹は大笑いしている。ウゼーな、ぶん殴りたい。

 笑いが収まった所でヤギ沼さんは葉巻きをひと吸い、モクモクと煙を吐き出して話しかけてきた。


「先日はお疲れさん、お前ら演奏はクソだったがスピリットを感じた。特にボーカルのお前。お前は良いボクサーになれるかもしれん」

「ほ、ほんとか!?」


 カワ谷は目をキラキラと輝かせる。いや、褒められる所違うだろ。


「まぁ、冗談はこれくらいにして、キルエムオールって言ったかお前ら?さっきも行ったがお前らの演奏、スピリットを感じる。暴虐性もあって刺激もある。要は気にいった。それでだ、またウチのライブハウスでメタル企画があるんだが出てみないか?」

「な、なにー!?」*4匹


 それを聞いた俺達は元気に興奮した!また魂の解放出来ると思うと胸が躍る!しかし、懸念点はある。それを問いただそうではないか。


「主催者は?」

「カバ山じゃない」

「観客の動物は殴って良いのか?」

「そこは自己責任だ」

「女ハ一杯来マスカ?」

「問題ない」

「お茶は出るか?」

「?…伊○衛門でいいか?」

「乗った!」*4匹


 こうして、次のライブ出演が決まり俺達は喜び浮かれポンチになっている!再び魂の解放が出来るのだ!


「それで今日はそのメタル企画の主催者も呼んでいるから紹介してやる。もうそろそろ来ると思うが」


 そんなこんなの話をしている店のドアが開いた。その方向を見ると長身で髪の長い動物がおり、こっちに近寄ってくるではないか。何の種族だかまだ分からないが目の前にその姿を見た時に俺達に電気が走る!


「あああああ!!!!!お前は!!!バトルメタル!!!!」


 再会!!バトルメタル!!

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