第13話 マグロ職人(バイト)の1日 Pt.1

 マグロ職人(バイト)の朝は早い…


 深夜3時、起床した俺達は眠い目を擦り睡魔と戦いながら支度を瞬く間に済ませ家を後にする。アパートの前にはマグロ爺から譲り受けた原付4台、各自それに跨がり出発する。未だ暗闇が広がる時間、走る車のライトも少ない…


 4時、クジラ市場に到着した俺達はすぐ様着替えると今日も戦いが始まった。

 

 いつも間にか、目の前に置かれるのは”半冷凍マグロ”…今からこいつを解体するのだ。ふと半冷凍マグロの頭に目を移すと凍りついた目玉がこちらを見て来る…朝からよく動くマグロ爺を横目に、俺は何の躊躇もなくノコギリを入れた。冷凍マグロは4等分にされ、自社のトラックへ放り込む。およそ1時間半の間、俺達は無感情のまま解体を続ける。


 7時、マグロの場内配達を開始。これは時間との勝負だ。電動バイクとターレで市場内を駆け巡る。途中で何か轢いた感覚がある時もあるが気にはしない。だって無感情だから。


 9時、配達が落ち着き始めるので市場外に配達するマグロの準備を行う。無感情で。


 10時30分、ハイエースで場外配達へ出発。10~20件程度の取引先を回る。眠くなったらマズいので飯は食わない。体力は持つかって?そりゃ問題ない。なぜなら無感情だから。


 13時、帰社後、無感情で掃除を始める。


 14時、無感情で退社。


 こうして1日が終わる。



マグロ職人(バイト)は忙しい…


 

「…辛い…」*4匹


 現在、家に帰ってきた俺達は心身共に疲れ果て寝っ転がっている。 


 バイトを始めて1週間、俺達は社会の、いや魚介の荒波に揉まれている。運ぶマグロ自体は一尾200kg以上あり、4等分とても50kg前後の重量がある。間違って後ろ足に落としたとしたらなんて想像しただけでゾッとする。しかも相当数を運ぶのだから体が持ちやしない。あとめちゃくちゃ掃除が大変。マグロの油って凄いんだよ。きちんと掃除しないと床が滑る滑る。お陰で何度すっ転んでアザを作った事か…

 

 今思えばサラリーマン時代の方が全然楽だった。ああ、あの時に戻り…たくはないか。 


「…なぁ、これ続けられるか?」

「…分からん」

「自動回復機能作動中、自動回復機能作動中」

「zzzzz」


 帰宅するといつもこんな様子でもう何もする気がしない。だが、何もしないのは勿体ない。


「…今、何時?」

「…分からん」

「ピ、ピ、ピ、ポーン・只今、午後17時」

「zzz」


 カワ島に搭載されている体内時刻システムで時間を知って己を奮い立たせ行動する決意をした。飲みに行こうと。


 こうして俺達は街にくり出した。マグロ爺から前借りしているから手持ちには問題はない。そして本日の飲み屋を品定めするが気持ちがなぜか高ぶらない。


「う〜ん、ここら一帯は行き尽くしたから新鮮味がないなぁ」

「違う地域いくか?」

「デモ徒歩圏内ガイイデス」

「刺激が欲しい」


 ダラダラと歩いているとある看板の前で止まった。


「相席居酒屋か」

「悪くねぇな」

「オンナ!オンナ!」

「行くぞ」


 俺達は相席居酒屋の門を叩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る