24.疾走

 辺りはもう暗くなっていた。

 

 俺は脱力して、壁にもたれて座っていた。項垂れて、膝の間に頭が入るほど深く上体を丸めていた。


 自分は一体何をしていたのだろう?この歪んだ記憶そのもののような世界の中で、自分が見つけたものといえば…

 無力感と疲労が、身体中を支配していた。


 だがその時、目の前を桃色の物体が横切って行った。一瞬の出来事だったが、この目ははっきりとそれを捉えた。


 間違いない、あのうさぎだ。


 瞬間、俺は立ち上がっていた。今更あれを追ったところで、また見たくもない現実がより明らかになるだけかもしれない。


 けれど。それでも。真実を見つけたかった。彼女と自分の間に何があったのか、どうしてあのような結末になってしまったのか、知りたかった。


 そして何より、


 どうしても、もう一度彼女に会いたかった。リズに、そして、りずに。


 彼女の笑顔を、取り戻したかった。もう一度、彼女に笑いかけて欲しかった。


 重力に負けそうになる身体に鞭打って、俺はもつれそうになる足を全力で進めていった。

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