第23話 父さんは当然カッコイイ

 そう言えばこの学園、父さんも通っていたけれど、叔父である大樹兄さんもここに通っていたという。

 立花家は裕福ではないから、大樹兄さんは実力で入ったのでしょうね。


 と、今まで思っていたのだけれど、最近になって私は色々と思う所が出て来た。


 普通私達の歳だと、両親の出自等は両親に言われるまま信じると思うし、疑う事さえないと思う。


 最初の違和感は、母さんの母校が有名なお嬢様学校だったと言う事。

 勿論そんな事はとうに知っていたけれど、高校受験になって初めて、その母さんの学校がどんな所なのかという事を具体的に知った。


 幼馴染が一緒に受験しようと言ってきた時に、私は父さんの母校に入るのを昔から決めていたけど、興味本位で調べてみた。


 女子高である母さんの母校の事は、調べるべくもないから当然、結月は知らないけれどね。


 母さんの母校は、お嬢様学校というのは間違いがないけど、それは半端なお金持ちが通う高校では無さそう。


 全国から有名企業の御令嬢達が集まってくるし、国のお偉いさん達の御令嬢も通っているそう。


 そんな将来の国の重要人物が集まる、この街にあるこの学園も、当然繋がりを作っておこうという親の思惑によって、ご子息が集められるという訳。


 例に漏れず、幼馴染で私を誘ってくれた子も、有名企業の御令嬢。

 何故そんな子が幼馴染なのかというと、それは両親の繋がり。


 勿論父さんが優秀なのは良く知っているけれど、趣味でやっていると言う小さな会社の経営者が、そんな大物と知り合う機会なんてそうはないと思う。


 何かを私達に隠していると思わずにはいられない。けれどそれは、私達の為を思ってだというのは聞かなくても分かっているわ。


 それが何なのか、凡そは検討がついている。


 母さんの旧姓は『タチバナ』。

 大樹兄さんの家に行けば、『立花』の表札がある。


 この街で『タチバナ』と言えば、誰もが『橘家』を思い浮かべる。

 この街で創業した、今や国を代表するような大企業。


 恐らく父さんも母さんも、私達にはそれ程真剣に隠す気は無いのかもしれない。


 今はネットで企業情報を検索すれば、役員の名前位は出てくるし、簡単に調べられるとは思うけれど、私は調べない事に決めた。


 父さんと母さんがそうした方がいいと判断したのなら、いつか話してくれるまで待った方がいいと思うから。


 そして、何を何故隠したいのかと言う事も、最近分かってきた。


 それが目の前にいる―――


「美月さん、君を食事に招待したいんだけど、今度の土曜日、空けておいてね。」


 こんな人間になって欲しくないからよね。

 放課後、私のクラスにいきなり現れ、私の机の前に立って、話した事どころか、見たことも無い男が言い放ってきた。

 上履きの色で、辛うじて先輩だとわかる程度。


 彩葉や撫子は面白そうな顔をして見ているけど、それは他のクラスメイトとは違う意味での興味だと思う。


 はぁ。

 本当に、溜息しか出ないわ。


 社会的、経済的強者の家に産まれた子供が、全てそうだとは言わないけれど、こういった誘われ方をする事が後を絶たない。


 自分中心で話をして、自分が誘えば断るはずは無いという感情が丸見え。


 決定事項のように言われると流石に頭にくるわ。


「嫌よ。」


「うん。じゃあ、迎えは……今なんて言った?」


「嫌だと言ったのよ、先輩?私は貴方と食事をする時間があるなら、父さんと食事をするわ。」


 ハッキリと断ると、大体同じ表情をする。

 目を大きく見開いて、信じられない物を見るような目で私を見る。


 そして、まるで私が我儘を言っているかのような、仕方の無い子供を見るような顔で、溜息をつく。


「美月さん、僕の事知っているよね?少し調べさせて貰ったんだけど、君の家も会社を経営しているようだね?」


 まるで諭すような物言いに、ウンザリとする。

 一体これで何人目かしら?


「先輩の事は何方か分からないけれど、家の会社?それがどうしたの?」


「し、知らない?そ、そんな筈は…君にはまだ難しいのかな?ほら、僕との繋がりは、君の家の為にもなるんだ。君の家の会社は吹けば飛ぶような会社なんだから、僕との繋がりは両親も喉から手が出るほど欲している筈だよ?」


 怒りがフツフツと湧いてくる。

 父さんの会社を、吹けば飛ぶと?


 嫌な笑みを浮かべ、見下すような態度を取る男に、私は敢えて笑顔で答える。


「分かりました。それでは父に確認してみますね?」


「あ〜、うん。どうぞ?」


 勝ち誇った様な表情で許可を出す男の前で、私はスマホを取り出し、最愛の父さんにメッセージを送った。


 こんな人にこんな事を言われているけれど、父さんは繋がりが欲しいの?と。


 直ぐに返事は帰ってきた。


「フッ…フフフッ。」


 帰ってきた返事を見て笑いだした私を、男は訝しげに眺めながら口を開いた。


「どうだい?分かっただろ?」


 父さんが繋がりが欲しいと返事を送ってきたとでも思っているのでしょうね。


「ええ、分かったわ。」


 私がスマホの画面を見せると、男は真っ赤な顔をして踵を返した。


「後悔するぞ!」


 そんな捨て台詞をはいて、男はその場を去って行く。


 去った男の事なんてどうでもいいし、そんな事よりも私は父さんからの返事を見て、もう一度笑った。


「美月、どうしたの?美月のお父さんなんだって?」


 さっき迄、私と男の様子を面白そうに見ていた彩葉と撫子が私の席まで来て、父さんの返事に興味を持った。


 二人に画面を見せると、大笑いした。

 父さんからの返事はこう。


【そんな馬鹿息子育てる事しか出来ない親の会社に繋がりなんているか。つーか、学生の付き合いに親の事を持出すバカとは付き合わなくて宜しい。クソ喰らえとでも言っておけばいい。何かあっても父さんが守ってやるぞ!】


「ヤバいねぇ!美月のお父さんに惚れそう!」


「はわわ!カッコイイね!」


 二人の賞賛に、私は先程の不快な気分が晴れていく。


「当然よ。父さんは誰よりもカッコイイわ。彩葉、父さんに惚れても無駄よ?フフッ。」



 私達は三人で少し話した後席を立つと、教室の入口に、中学からのお友達が来ている事に気がついた。


「あ、クイー…、じゃなくて、美月ちゃん!彩葉!」


 私達に手を振ってきたのは、少し茶色の髪でセミロングのくせっ毛が目元を隠している女の子。

 確かクラスは七組の、風真かざましのぶ


「あぁ、忍。色々分かった?」


 忍の元に私達三人は集まり、彩葉が声をかけた。


 彩葉が聞いたのは例の件ね。


 入学してまだ一週間も経っていないけれど、私は色々と嫌がらせのような物を受けている。

 下駄箱もそうだし、廊下ですれ違う時にぶつかって来そうになったり、人が多い場所で特定されないように、それでいて聞こえるように悪口を言ったり、まぁレベルの低い事ばかり。


 私の事だから、私が何とかしようと思っていたのだけれど、お友達が協力をしてくれるというので、今回はお願いをしてみた。


「分かったよ。色々とね。ここじゃ、なんだから、カフェる?」


 ニカッと笑いながら私達を見回す忍に、私達三人はお互いに頷きあい、その提案に賛成をした。


「「「カフェる〜!」」」

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