二章

1話 俺が欲しい物

「ジーク、セツ達の事を頼んだぞ。」

「ええ、任せてください。」


 俺達は旅の支度を整え、アンジに見送られていた。俺の武器を作るために優秀な鍛冶師の村であるアナンの村へ向かうため、俺達は旅の支度を整えて出発しようとしていた。

 既に冬に入っており、深い雪が積もって当たり一面銀世界だ。

 そのため俺達の服装はいつもより分厚くてフードにファーのついた毛皮装備になっていた。

 足には金属製の長穴形状のかんじきが括りつけられている。


 金属製の鎧類は置いていく。金属を身に着けているとその冷たさから体温を奪われてしまうためだ。

 また、大型の獣は冬の間は冬眠に入るため、危険が少ないので必要ないというのもある。


 普通は雪が積もるような冬は村同士の往来が少なくなると思うが、この世界では危険な獣がいるため、むしろ冬のほうが往来が多くなるらしい。

 雪が積もっている事に関しては、この世界の住人は女でも大地の加護を宿しているため、地球の人間より遥かに強靭だ。そのため雪が腰まで積もっていてもダンプカーのようにかき分けて歩いてしまうため問題ないのだ。


「では行ってきます。」

「ミナト。」

「なんですか?」


 俺達が出発しようとした時、アンジに呼び止められた。


「俺がお前に自分のための武器を作るのを認めたという事は、お前を村の正式な一員として認めるということだ。」

「俺の事を……」


「お前がもし村の一員になるという事を受け入れるなら武器を持って村に帰ってこい。その時は戦士の試練を受けてもらう。だがもしお前がそれを良しとしないのであればそのまま何処へなりともいけばいい。」

「……アンジさん俺は本当に感謝してるんです。なにもできない俺に飯食わせてくれた上に訓練つけてくれて。

 だから俺は絶対に帰ってきます。その時は戦士の試練を受けさせてください。」


「そうか……なら楽しみにしている。行ってこい。」

「はい!行ってきます!」


 200人にも満たない小さな村だ。わざわざ無駄飯食らいを養う余裕なんて無いはずだ。

 そんな中、身元不明で何も知らない怪しさしかない俺を受け入れてくれた。

 俺はそんなこの村の一員になりたいと思うようになるのに時間はかからなかった。


 俺はアンジの言葉に俄然やる気を出して足を踏み出した。

 旅のメンバーはジーク、セツ、セリア、シオ、俺の5人だ。

 雪は腰の辺りまで積もっていてかんじきをつけていても膝くらいまで沈んでしまう。

 一列になって進む、そうすると先頭の人が雪を崩して踏み固めた後を歩く事が出来るので、後ろの人が楽になるからだ。

 そうやって先頭を交代しながら体力を温存する。

 この程度の雪の抵抗は大地の加護を得た俺には何でもないが、それでも多少は体力を奪われるし、わざわざ歩きにくいところを進む意味もない。


 特に問題もなく順調に旅は進み、6時間ほど歩くと一日目の野営地に到着した。アナンの村まで徒歩で5日かかる。

 その途中の3日目には町に立ち寄る予定で、大人びているとはいえまだ若い3人娘はそれを楽しみについてきたようである。

 他にも村の若い女達がついてきたがっていたが、体を鍛えていない狩猟衆以外の畑などを生業としている女には大地の加護が狩猟衆ほど宿らないため、この雪道を俺達のペースでついてくるのは難しい。なので狩猟衆の中でも最も若いこの3人娘が優先され、いつものメンバー+引率のジークというメンバーになった。


 皮のテントの設営と雪を竈にして火を起こす。食糧は十分な量を持ってきているので後は休むだけだ。


「ミナトもいよいよ戦士の試練を受けるのか。これは僕が子供を産む日も近そうだ。」

「子供?!」


 たき火を囲んで丸太の上に座ってくつろいでいるとシオがとんでもない事を言い出した。


「雪解けしたら私たちの家を建ててもらわないといけませんねぇ。ミナトさん早く強くなってくださいねぇ。」

「順序飛ばしすぎてませんか?!」


 続けてセリアが当たり前のように一緒に住む家を建てると言いだす。俺の人生設計が勝手に決められている。

 そうなのだ。この二人は赤い猩々との戦い以来露骨にアピールしてくるようになった。美人のお姉さんに言い寄られて嬉しくない訳がないが、セツの事が気にかかったため泣く泣くアプローチをかわしていた。

 だがこの世界の女は男に厳しいが、これと決めた男には積極的になるようで俺は狩りの標的のように外堀を埋められていた。

 ちなみにセツはというと無言で俺の隣を陣取っている。


 この二人の誘惑にまだ陥落していないのは俺がセツの事が好きだからというのもあるが、どうもセツがこの二人をブロックしているようで、俺への二人のアプローチが緩まりなんとか気を保てている。

 セツが二人をブロックする理由は不明だ。

 嫉妬してくれているのか?!と思ったがハーレムが当たり前のこの世界で果たして嫉妬するのか?

 それに怪我が癒えた頃、セツと模擬戦をしたのだが俺は惨敗した。

 その時にセツが言った言葉が


「まだまだ弱い。」


 と評価されたためわからなくなった。だが以前のように俺の事を嫌そうな表情では見ないし、話しかけたら普通に会話するため嫌われてはいないはずだ。

 腕力だけなら俺の方が既に強いが、戦闘技術はまだまだセツやシオの方が上で、魔法ありならセリアにも負ける。

 とにかくその時にセツの心を射止めるために強くなる事を心に決めた。


「このままいくと3人はミナトの所に行く事になりそうだね。少し寂しい気はするけど仕方がない。」

「えっと…俺が3人と結婚するかは置いといて、寂しいというと3人とジークさんはやっぱり仲が良かったんですか?」

「そうだね。やっぱり歳が比較的近い事もあってよく面倒を見ていたよ。3人の悪戯には手を焼かされたもんさ。」


 どうやら3人の兄のような存在だったようだ。3人が悪戯をするような時期があったかと思うとその時の事に俄然興味が湧いてくる。俺はジークさんにその時の事を聞こうとする。だがシオの衝撃的な言葉にそんな好奇心は消え去る。


「確かに寂しい気はするね。ミナトが来るまでは僕たちはジークの嫁になるんだとばっかり思ってたから。」

「え?」

「そうですねぇ。でももしミナトさんが戦士の試練を乗り越えたらの話ですから、ジークさんのお嫁さんになるのはまだ可能性はありますよぉ。」

「……。」


 ジークと二人の発言にえ?という間抜けな言葉しかでない。ちなみにセツは我関せずと無言を貫いている。


「あの…ジークさんと3人は婚約関係にあったんですか?」

「そうだね。戦士の中では一番僕が若いし、3人もそろそろ結婚する歳だからね。近々そうなっていたと思うよ。」

「ジークでも悪くはないんだけど、やっぱり歳が近い方がいいからミナトが来てくれて良かったよ。」

「ジークさんはお兄さんって感じがしますから丁度可愛い子が来てくれて嬉しいですぅ。」


 衝撃だった。どうやら二人は俺に惚れた訳ではなく丁度いい相手だから結婚するという感覚らしい。それも俺が戦士の試練に失敗すればジークに乗り換える程度の感覚。

 なんだろうこのやるせなさは。俺はうぬぼれていたのかもしれない。俺なんかにこんな美少女が本気で惚れてくれるはずがなかった。

 やっぱりここは異世界だ。根本的な恋愛感覚が俺とは全然違う。

 セリアとシオはまだいい。彼女達のアプローチを本気にして正直満更でもなかったが、本気で好きになっていた訳ではない。

 問題はセツだ。セツもジークと婚約関係にあったそうだ。彼女も二人と同様軽い気持ちなのだろうか?いや、セツはそもそも俺と結婚するなんてことは言っていない。

 セツはどう思っているんだろう。セツは相変わらず無言を貫いている。

 

 俺はセツの事が好きだ。それは間違いない。

 彼女は無愛想ではあるが、気配りが上手な所、厳しいけど的確に駄目な所を教えてくれる所、命を他人のために捨てる覚悟のある所、一度しかみたことないけどすごく優しく笑う所。最初は一目ぼれで一度は幻滅したけど知れば知るほど好きになっていく。

 周りの空気でもしかしたらこのまま結婚できるのか?と浮かれていた。だけど俺はこのまま流されているようでは駄目なようだ。


 なぜなら俺は……セツの心が欲しいから。

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