覚悟を決めて突っ込む



 一対七。こちらは俺だけ。相手は七体(ボス付き)だ。


 どう考えても普通に戦えば勝てない。


 だから普通ではない戦いをすることにした。


 と言うか、今この方法以外でエイリアンを撃退する方法が思い付かない。失敗したときのリスクは大きいけど、リターンはある。




「彩雲、発進!!」




 まずは彩雲を一機発進させる。


 一時間遅れて、もう一機の彩雲を発進させる。


 彩雲の視界を繋ぎながら、俺はこの八つの島で一番敵に近い小島に身を隠した。


 現実の空母と俺の違いはサイズだ。


 本来なら移動できないところに、俺は留まる事が出来る。






「見つけた! 烈風、流星、発進!!」




 烈風と流星合計三十八機が飛び立つ。


 彩雲は敵を発見した後、敵と付かず離れずの距離を飛ばすことにした。


 下手に近づくと敵の攻撃が飛んでくる。


 だから、ひたすら避けに徹する。




 敵を発見してどれくらい時間が経っただろうか、段々と敵が苛立っているのが分かる。


 このまま、烈風と流星が合流できるまで何事もなければと思っていた。




 そして、二機目の彩雲と合流した直後だった。


 彩雲の視界に入っていた人型のエイリアンがこちらへ手を向けた。


 猛烈に嫌な予感がして、俺は反射的に二機の彩雲を急旋回させた。


 次の瞬間、俺の視界が光に包まれた。




「あぶなっ?!」




 今回は警戒していたお陰で、人型の敵の攻撃をどうにか回避できた。


 けど、今の攻撃で分かった。


 あの光の正体が、アレはレーザーだ!




 レーザーは回避不可能、けど、撃たれる前にその場所に居なければ回避できる。


 みたいなことを漫画で読んだことがある。


 いや、事実かどうか知らないけど、回避できた、運良く……。




俺は第二射を警戒して、彩雲を二手に分かれさせた。


 だが、敵はレーザー攻撃をしてこない。




どう言うことだ? そう思いながら、俺は烈風と流星が合流するまで彩雲を回避優先で動かした。


 そして、烈風と流星がこちらへ向かっている敵艦隊を捉えた。ここからが勝負だ。俺は一度深呼吸をして、服の袖を強めに噛んだ。舌を噛まないようにするためだ。


これから受けるダメージを考慮しての行動だった。






▲▽▲▽






 彼女は人間のいう重巡洋艦の上で自分達の周りを飛んでいる敵の偵察機を苛立った様子で眺めていた。




 先ほど二機の偵察機が自分の切り札であるレーザー攻撃の射線に重なったので、迷わず攻撃した。




 このレーザー攻撃は彼女にとって切り札だ。


 エネルギーを多量に消費するこの攻撃は何度も撃てるものではない。では、何故彼女は先ほど撃ったのか? 彼女は偵察機を見逃した結果、死んだ姉妹を知っているからだ。




 情報が無ければ自分への危険になる。彼女は経験則でそれを知っていた。


 だから偵察機は真っ先に撃墜する。


 その後、残骸を回収してその偵察機がどのようなものか知る。




 だが、今周囲を飛んでいる偵察機を見て、無理な迎撃は控えることにした。エネルギーの消費を控えるためだ。それに敵は回避能力に優れていることが分かったからだ。今まで必中だった自分の攻撃を避けた敵への無理な攻撃は消耗が重なるだけだと分かったからだ。




同時に敵は自分が進んでいる方面に存在することを彼女は確信した。


 彼女はそのまま、偵察機が飛んできた方角へ進んでいく。




 昨日自分を襲ってきた敵と、今自分達の周りを飛んでいる敵は違う奴らだと分かっている。


 理由は偵察機のペイントだ。部隊番号という物を彼女は学んでいた。


 翼などに書かれるそれが、新しく発見した偵察機には描かれていない。彼女は部隊を群れのようなものだと思っていた。機体にペイントがないのは、群れに属していない。




 ならば、敵は単独だろう。これは自分にとっては好都合だ。と彼女は考えた。




 早く、新しいおもちゃが欲しいと思った時だった。


 前衛を任せていた駆逐艦から、敵が来たと声が届いた。


 人間の言語の様なものではない。


 テレパシーの様なものだった。




 姉妹達のなかで上位に入る眼で彼女は自分達に近づいてくる敵を確認する。


 それは、初めて見る艦載機だった。




 ニタリと彼女の口元が歪んだ。


 新しいオモチャだ。そう思った。




 全ての敵が一斉に上昇をし始めた。


 急降下爆撃。彼女はそれを見たことがある。


 だから、冷静に迎撃を開始した。


 人類の船などを参考にした火器で敵の艦載機を各艦に迎撃させる。数機に攻撃が当たり、火を噴きながら落ちていく。




 彼女の経験ではこの後、敵の艦載機が落としてくる爆弾を避けるだけだった。


 少なくても、自分が今乗っている艦は間違いなく回避できると確信していた。


 なぜなら、自分の眼で距離を測り回避を指示できるからだ。


 多少損害は出るが、問題なかった。小さいのは補充は出来る。




 小さな艦は彼女の経験上、艦載機の爆弾が当たれば高い確率で沈むだろう、けれど問題ない。


 今自分が乗っている艦と二隻の中くらいの艦があれば十分だ。


 彼女はこの時まで余裕だった。けれど、その余裕は直ぐに消えた。






 彼女は自分が乗っている艦に回避を詳しく指示を出した。


 そろそろ爆弾を落とす。そう確信して。




 だが艦載機は爆弾を落とさなかった。


 この時、彼女は初めて人類のように呆気に取られた。敵がなにをしようとしているのかを理解できず。数秒後に敵が何をしようとしているのか察して叫んだ。






 迎撃された数機の艦載機と偵察機の二機以外の全ての敵艦載機が、急降下で上昇した速度を更に上げてそのまま自分達に突っ込んできた。




 彼女は反射的に乗っていた艦から飛び降りる。


 姉妹達の中で非力な彼女ではあるが、それでも咄嗟の少しの助走と両足にそれなりのダメージと引き換えに五十メートル以上先へ飛んだ。




 遅れて数秒後、彼女の背後で五回の衝突音と大小五回の爆発が起こり。




『――!?!?!?!?!?』




 爆風で吹き飛ばされながら、後方を振り返ると彼女の視界に入ったのは、最初から他の艦載機の最後尾で彼女を狙い、回避することを予想して速度を落としながら縦一列に並んだ彼女へ突っ込んできた烈風二機と流星三機が彼女を襲った。




 烈風二機は彼女を見つけると横並びになり九十九式二号20mm機銃四型×2、三式13mm固定機銃×2を各機、速度を落としながら彼女に的確に叩き込んだ。


 彼女は肉体を激しく削られながら、人類とは違う甲高い悲鳴を上げながら海面へ叩きつけられた。




 海面に浮き、どうにか立ち上がろうとした彼女の目に次に飛び込んできたのは三機の流星だった。


 真っ直ぐと確かな殺意を乗せながら、こちらへと猛スピードで突っ込んでくる。




 それが分かった瞬間、再び彼女は叫んだ。


 殆ど反射的に身を守る為、本来なら行なわないレーザーによる攻撃を両手で行なった。


 咄嗟の発射で威力は不十分、しかも多量に体力が消費されるのが彼女は分かった。




 三機の流星は彼女が両腕をこちらへ向けた瞬間、回避運動を取った。


 三機の内一機が撃墜された。一機は片翼を失いながらも直進、彼女の左足付近に着水爆発。


 彼女の左足へダメージを与えながら、視界を奪う。




 よろめいた彼女の目に飛び込んできたのは三機目の無傷の流星だった。


 体勢を崩し、迎撃が間に合わない。






 逃げられない! それを理解した瞬間、彼女は流星を通して、艦載機を操っている戦女子に憎しみの籠った怒りの咆哮上げた。






▼△▼△






俺の予想した通りだった。




「――ゴホッ」




喉の奥から溢れ出てくる赤い液体で俺は激しく咽て、呼吸困難になる。




艦載機のダメージは艦載機と俺が繋がっている深さや時間に比例する。


特に最後の人形への神風は効いた。




「帰ろう、とし……かずの所に」




綾雲と生き残りの烈風の視界を自分と繋げて、エイリアンの様子を見る。


エイリアン艦隊は火を吹き海に沈んでいく。


人形は……ぐちゃぐちゃになり沈んでいく。




俺は綾雲と烈風から視界を切り、朦朧とする意識で、俊和も元へ向かった。




次、目覚めたら直ぐに綾雲を飛ばして本土へ。




そこで、プツリと俺の意識は途絶えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る