TS兵器擬人化転生 航空母艦 信濃(美少女)になった俺

アイビー

目覚め




 波音が聞こえる。ザザァッ、ザザァッという子供のころから好きな音が。


 身体が冷たい、さっきから何か、身体が軽くなったり重くなったりを繰り返している。




「くっ、ふぁっ~」




 あくびが出た。朝か……と目を開けて周りを見渡す。




「は?」




俺は昨日、確かに家のベッドで眠ったはずだ。


なのに、俺の周りは砂浜だった。


 青い空、少し強めの日差し。近くにある林には植物が青々している。


 いや、眠る前は季節が冬だ。


寒い寒いと言いながら、家に帰りたい布団で寝たはず。


 俺は昨日のことを思いだそうとして、更に重大なことに気づいてしまう。




「俺、誰だ?」




 記憶がある。日本人の隠れオタクとして生きていた記憶が。


 けれど、家族のことも友達のことも、自分の名前と顔さえも思い出せない。


 まるでモザイクが掛かっているかのように、何一つ思い出せない。




「ていうか、声が可愛くないか?」




 俺は自分の身体を確認しようとして直ぐに固まる。


 なぜ、直ぐにコレの違和感に気づかなかった?


 爆乳だった。俺の視界に入ったのは、服を着ていても分かるくらいの形の良い、爆乳がデーン! とあった。




「お、おおっ」




 両手で下から爆乳を持ちあげようとして、




「重っ!!」




 い……けど、思ってたよりは重くない。試しに身体を動かしてみる。座っていても、立ち上がっても、俺に付いている爆乳は重さをほとんど感じなかった。




 それと俺が今着ている服は、何というか巫女服……ではないな。


 あぁ、神楽舞で着るような服だ!


 けど、何でこんな恰好で? いや、そもそも性別が変わっている? 何で?




「意味が分からねぇ」




 しばらく、あれやこれやと考えていたけれど、結局答えなんて出るわけもなく。


 俺は頭を切り替えることにした。




「もしかして、これは異世界転生ってやつか?」




 となると、俺は身体が女になったけれど、もしかしたら。という想いでとりあえず定番でこう言ってみた。




「ステータス! なーんてな。――って出るのかよ!?」




 俺の目の前に現れた半透明のウインドウ。大きさはまな板くらいの大きさで。


 少なくても、ここが俺の住んでいた世界という可能性は低くなった。




「どうなってんだ?」




まあ、いい。まずは自分のステータスを確認しないと。そう思って、俺は目の前に浮いているウインドウを確認する。






レアリティ UR


名前 航空母艦 信濃




能力ランク




 砲撃 D 対空 A 雷撃 D 航空 B 装甲 S 機動性 C






「………………」






 拝啓、前世のお母様へ。転生した俺はどうやら人間ではない様です。




 いや、ちょっと待てや! レアリティって何だよ! ソシャゲかよ!? それに航空母艦信濃ってなんだ?!




あ、確か信濃って大和型戦艦の三番艦になるはずの船で、途中で空母に改造されて、すったもんだあって、結局未完成? で、二次大戦後期にアメリカの攻撃を避けるために、別の港に移動中にアメリカの潜水艦の魚雷で十日で沈んだ船だよな。




 もしかして、俺は兵器の擬人化美少女になってしまったのか……?


 そう思っていると、頭の中でピコーンと電子音が鳴ったと思うと。




 何故か俺の目の前に、チュートリアルというウインドウが表示された。




 そこに書かれていたのは、艤装展開のやり方と書かれていて、デフォルメされた美少女が「


武装展開」と叫ぶと艤装が展開されて擬人化美少女になるアニメーションがリピート再生されてる。




 突然現れたチュートリアルのウィンドウを不審に思いながらも、俺は試してみることにした。


すー、はー、と数回深呼吸を行い、呼吸を整えて俺は「武装展開!」と叫ぶ。




 すると次の瞬間、俺の身体は光に包まれた。あまりの眩しさに俺は目をつぶったが、光は一瞬だけだった。目を開けてみると身に付けていた衣服の上に機械的な、パーツ。つまり武装を身に付けていた。まず、頭には艦橋と煙突が一体化したようなサークレット?




 背中には空母の後ろを切り落とした様な物と六本のアーム。アームの先には高角砲や機銃などの対空兵器が付いていて、両腰と脛と膝に緑色の装甲が付いていて靴はちょっと厚底ブーツのようで踵には小さなスクリューが付いている。


 そして、俺の右腕には大型の対物ライフルの上に飛行甲板を付けた様な緑色の対物ライフルの様な物を俺は待っていた。




 武装に触れようとしたら、六本のアームが微かな駆動音をならしながら動いた。


どうやらこのアームは俺の意思で動かせるらしい。ギュィンギュィンとアームが、滑らかに動く。




「あー、夢であってほしいけれど、夢っぽくないなぁ」




 どうするかなぁ。と思っていると前方の林の茂みからガサガサと音がして、俺は咄嗟に身構える。




 何が出てくるか分からない、使い方が分からないが俺は手に持っていたライフルっぽい飛行甲板とアームを林に向けた、すると。




「え?」


「っ」




 林の茂みから出てきたのは、中学生くらいの日に焼けた肌をした、ちょっとやんちゃなそうな顔立ちの少年だった。少年は俺を見ると驚いた表情でビタッと動きを止め、俺達は見つめ合う。




「「…………」」




 お互いに固まる。向こうは本当に驚いた表情で。俺はなんて声をかけたら良いのか分からない。俺がどうしよう。と考えていたのだが。




「あ、アンタは」


「は、はい」


「もしかして、戦女子か?」


「え?」




 聞き慣れない単語に、俺は思わず首を傾げてしまった。






▼△▼△▼△






「なるほど……ね」




 あの後、俺は少年。名前は跡部俊和あとべ としかずの家にお邪魔した。


 俊和の住んでいる家は、かなり年季の入った木造建築の家だった。




 俊和の家はこの島で一番高い所にあり、そこから今俺が居る島がある程度見渡せた。


 この八風島は大小八つの島で一つとしていたらしい。


 ここに、俊和以外の島民が居た時は、な。




「人型のエイリアンの襲来、ガールクリスタル。そして取り残された……か」


「うん……」




 三十年前、この世界。地球に九つの隕石が突然落ちてきた。


 そして、その隕石から九体の人の形をしたエイリアンと配下と思われる形のないエイリアンが大量に出現。


 人類は一年で先進国と言える国以外は壊滅的被害を受けた。


 比較的、被害が少なかったのはアメリカ、ロシア、日本、イギリス、フランス、イタリアだったそうだ。




 日本は北海道と東北地方がエイリアンの勢力圏になってしまった。




 エイリアンが襲来して二年が立った時、東北地方からエイリアンの軍勢が大攻勢を仕掛けてきた。


 圧倒的物量と戦闘力を持つエイリアン達を前に、自衛隊は劣勢。このまま首都圏まで攻め込まれる。誰しもが絶望に囚われた。




 だが、ここで奇跡が起きた。


 避難している一人の青年が、偶然宝石の様な石を拾い、それを持ったまま避難中にエイリアンに襲われた。その時だ、青年が縋る気持ちで願ったのだ。


 エイリアンを倒してくれるヒーローを。




 そして、後に戦女子ウォー・ガールと呼ばれる過去の兵器を擬人化した美少女達がこの世界に生まれ。


 青年が拾ったエイリアンがもたらしたエネルギー結晶は、Gガールクリスタルと呼ばれるようになった。




 で、それから人類の反撃が始まり、どうにか余裕を取り戻してきたタイミングで、戦場から遠いこの島にも疎開するように日本政府から通達が来た。


 それが約十年前、俊和は当時六歳くらいだったらしい。


 過疎化が進んだこの島の唯一の子供で、回りの優しい大人達に囲まれて、大切にされていた俊和ら幸せだったようだ。




 けれど、それも一瞬で消し飛んだ。




 はぐれ、と呼ばれるエイリアンにこの島は襲撃され。疎開する船も沈められてしまった。


 偶然が重なり生き残ったのは俊和と俊和の祖母だけだった。


 俊和が生きてこられたのは、生き残った祖母のお陰だろう。


 その祖母も去年の冬に亡くなったそうだ。




「……なぁ、姉ちゃん」


「ん、なんだ?」


「救助、じゃないんだよな?」


「え、ああ、そうだ。すまない」


「ううん、もう諦めていたから。けど、戦女子って、本当に人間みたいだな」


「ああ、自分でもびっくりしている」


「びっくりって、何でだよ自分の身体だぞ」


「正直、何も覚えていないからな」




 俺の言葉に、首を傾げる俊和。


 ここへ来る途中、俺は救助隊なのか? と聞かれた。


 だが、俺は違うと答えた。俊和にじゃあ、なのんだ? と聞かれたので、俺は少し困ったが。素直に信じてもらえるわけないと思いながら「この世界に生まれたばかりなんだよ」とだけ答えたら、戦女子か? と聞かれてポカーンとなったよ。




「じゃあ、姉ちゃんは直ぐに本土に行けるってわけじゃないんだな?」


「ああ、と言うか、聞いた限りだと海を走れるみたいだけど、練習もなしにそれをするつもりはないぞ? それに、俊和もここへ置いていくわけにはいかない」


「そ、そっか」




 置いて行かないと伝えると、俊和は嬉しそうに笑った。


 やはり、寂しかったのだろうな。政府に見捨てられて十年。


 救助ではなかったけど、話しが出来る者と会えたのだから。




「あ、そうだ。婆ちゃんの部屋使ってくれよ」


「いいのか?」


「うん、寝るところ必要だろう?」


「正直、助かるよ。それと知っている限りでいい。この世界のことを教えてくれ」


「うん、分かったよ」




 こうして、何故か兵器擬人化美少女になった俺の生活が始まった。



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