1ー12.5

「……そういえば」

 ジャバジャバと水の弾ける音の中、彩音が短く呟いた。

 カッコーン……と響きそうな雰囲気だが、当然こんな普通の部屋で風呂桶の音がするわけもなく。

 気付けば11時前になっていた。

 簡易湯船で身体を休める彩音が、僕の背中側にいる。もし僕が自由に動くと、彼女の裸体を拝むことになってしまう。互いの信頼の下、僕はベッドで壁側に向いて本を読んでいる。

 ちょいと振り返れば、男にとっての夢世界が広がるだろうが、それは瞬時に悪夢へと変貌する。己の理性に強く言い聞かせ、壁を向いたまま返事をする。

「どうした?」

「ねぇ、康平は私が小さくなった理由、何だと思う?」

 突然の質問に言葉を失う。何せ、あまり深く考えていなかったから。

 加えて、夜11時にベッドで横になっているせいか、思考能力が低下しつつある。眠いわけじゃないが、普段通りの頭の回転はできない。

 ……テキトーに答えておこう。いつかちゃんと考えればいい。



「薬じゃない?」

「へ?」

「毒薬。それ飲まされて身体が小さくなったんだよ。あれって遊園地だったっけ?」

「ゆ、遊園地?毒薬?」

「んで知り合いの博士のところに行って、偽名を獲得。これからは名探偵として活躍するのです」

「……何言ってるの?」

 ——そうか、彩音はあの国民的探偵マンガを知らないのか。どうりでツッコミが来ないわけだ。

「ボケ失敗だな」

「ちょ、やっぱボケたの!?こっちは割と真剣なのにぃ!」

「あんま叫ぶなよ、リビングにいる母さんと茉由に聞こえるぞ?」

「誰のせいよ!」


 やっと届いたツッコミは、期待通りの金切り声だった。




※※※




「ねえ、お母さん」

「ん?どうしたの、茉由?」

「ひょっとしたら私の聞き間違いかもしれないけど……」






「今日の昼――お兄ちゃん、部屋で誰かと喋ってた」

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