第38話 ネタはどうでもいいときにこそ通じると嬉しい

「「「「おお~~~~~」」」」


 禅、ユノ、マユラ、メルトは輝かしく変貌を遂げたルルを見て思わず感嘆な声を上げる。

 田舎育ちの芋臭い感じが抜けていなかったルルはマユラお墨付きの店で見事に美少女へと生まれ変わった。


 いつもより1.2倍ほど目が大きくパッチリしていて、柔らかな桃色をした頬が幼さを演じさせるが、鼻筋を強調させるようなメイクによってしっかりと大人であることも証明している。

 もとより素材が良かったのもあるので、これは十分にルルの成果と言えるだろう。


 そんなルルのメイク一つで数倍に可愛くなった姿を見て、禅は思わずつぶやく。


「化粧とはよく言ったものだな。正しく“化けた”ような感じだ」


「それはそうですよ。誰しも行為を寄せる相手にはよく見られたいものです。そのためには自分を少しでも良く見せるための努力はいくらしたって構わないんですよ。そのためなら、女性はいくらだって化けますよ。

 それにさっきと見比べればどっちがいいかわかりますよね?」


「断然こっちの方がいいな。田舎から出てきましたよー感が見事に抜けきってる。メイクってすごいんだな」


「メイクはすごいんだよ。方向性は違うけど、メイクでまるで傷を負ったようなものを描けるひともいるんだからね」


「そんなことが!? それを知っていれば、わざわざ自分の腕を傷つけて傷ついた風を装うこともしなくてよかったわけか......くっ」


 一人の暗殺者だけ全く違う意味で後悔しているのを横目に、禅は「こっちでも特殊メイクはもうあるんだな~」としみじみ思った。

 と、そこで禅はこれまで全く触れてこなかった話題に触れた。


「そういえば、あの子は一体誰に対して猛アタックするつもりでいるんだ?」


「ほら、最近こっちにやって来たパーティの一人がいるじゃないですか。確か『青鎧の王子』っていう異名で呼ばれてる人」


「あ~、ラック君ね。はいはい、あ~あの子だったのね。確かに、妬ましいほどのイケメンで非の打ち所がないのがまた憎らしいよな」


「そうです、ラックさんで......す.......あれ? ゼンさん、どうして知ってるんですか?」


 ユノは思わず流れで知ってる風を装いそうになったが、実際のところまだ顔も名前も把握していない。

 それはマユラもメルトも同じはずであったのに、どうしてか禅だけがそのことを知っている。

 これはおかしい。何か裏がある。嘘をついているのか。もしくわ知ったかをして適当にでっち上げた名前か。

 しかし、ここで嘘をつく必要がない。いや、別に必要がなくても付くタイプじゃなかろうか?

 う~~~む、どっちだ。どっちなんだ!?


「う~~~~~~~む......ダウト!」


「散々迷った挙句に最終的にそっちになるのな。あれ? 俺ってそんな信用ない?」


「ゼンさんはお酒とギャンブルに対しての信用は皆無ですから、まあその他のことに対しても信じられないことは多くありそうなので」


「だけど、ここで俺が嘘をついてなんのメリットがあるんだ?」


「何もないですね」


「それじゃあ、信じてくれてよくない?」


「よくなくないです」


「いや、よくなくなくない?」


「いいえ、よくなくなくなくないですよ」


「いやいや、よくなくなくなく―――――」


「うるさい。結局どうでもいいことで張り合ってるな」


 禅とユノに向かってイライラしたメルトが懐から取り出した試験管のようなガラス管を二人の口に押し付けた。

 その瞬間、二人は口の中でカサカサと何やら蠢く感覚に卒倒。そのまま後ろにバタンキュー。

 その様子を見ていたルルが淡淡と反応を示すが、メルトは「大丈夫だから心配しないで」となだめる。

 すると、同じくその様子を見ていたマユラが尋ねる。


「それってもしかして、私が前に渡したカサカサスライムちゃん?」


「そう、触ると少しだけ硬質かしてカサカサした感触になるスライム。それを二人の口の中に入れてやった。

 私が中身が見えないように押し込んだからきっと昆虫とかを口の中に入れられたと勘違いしたんだろうね。そして、未知に恐怖する嫌悪感に耐え切れずに気絶したってところ。まあ、すぐに復活するだろうけど」


 そう言いつつ、メルトは「店で寝るな」と無茶苦茶な言葉で禅を蹴り起こした。

 そして、禅は立ち上がるが若干顔が青ざめている。恐らく口の中に入った昆虫を飲み込んでしまったと勘違いしているのだろう。


 しかし、メルトにはそんなこと関係ない。禅が目覚めて起き上がっても、しばらく蹴り続けた。


「痛っ!? なにすんだ!?」


「顔が悪そうだったから、顔を蹴って赤くしようとした」


「それただ痛みで肌が赤く反応しちゃってるだけだから! 全然復活してないし、むしろ気持ち悪さとフュージョンしてる感じだから! このままだとタイ〇ントとネメ〇スが合体して襲ってきちゃうから!」


「何わけわからないこと言ってるの?」


「あー! そうだった! このネタはユノにしか通じないんだった! おい、ユノ! 起きろ!」


「ん~むにゃむにゃ、もう食べられないですよ.......かゆい.......けど、美味い。かゆい......美味い......かゆ......美味い......かゆうま」


「奇跡的にネタが通じた......!」


 それは全く突っ込みとして成立していないネタであるが、それでも同じジャンルのネタで通じたことが禅には地味に嬉しかった。

 その一方で、卒倒したまま器用に眠るという荒業を見せたユノは現在おなかをぼりぼりかいていたりする。


 しかし、全くもって話が通じないメルトには関係なく、メルトは禅に質問した。


「そういえば、さっき青鎧の~の話をしてたけど、少し聞かせてもらうけどいい?」


「えらくやる気じゃないか」


「別に。ただ妬ましい女は後で厄介だから、ここでキッチリ白黒つけてほしいだけ。だから、ルルのためにもその情報を教えて」


「わかったよ。とりあえず、場所を移そう」


 そう言って、禅はユノを小脇に抱えると店を後にした。

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