第5話

シュトュルはレイディエ殿下にエスコートされ、こじんまりとした喫茶店に入る。

世間話を少しする内に紅茶とケーキが運ばれる。

シュトュルは、ポーカーフェイスを保つのに必死だった。なぜなら…

シュトュルは、甘い、お菓子、特にケーキが苦手なのである。なので、普段はスコーンやベイクドチーズケーキなどを食べていた。そういえば、甘いお菓子が苦手だと、レイディエ殿下に言った事ないなと、シュトュルは過去を振り返っていた。

「そのケーキ、きっと君も気に入ると思うよ」

そうレイディエ殿下は笑顔で言うと、食べ始める。

(残しちゃダメ。残しちゃ…ダメ。殿下がいる前だもの。大丈夫よ、シュトュル。口直しの紅茶あるし、いける)

そう、覚悟を決め、ケーキを一口食べる。

そして、驚いた。

(甘ったるくない…!?中に、ベリーが入ってる?ベリー特有の甘酸っぱさが美味しい…ホイップクリームも美味しく感じる!)

中に入っているベリーのジャムがライトに照らされキラキラと輝く。

シュトュルは、一口、また一口と食べる手を止めれなかった。

「美味しい…」

思わず、そう言葉がこぼれた。ふと気がつけば、レイディエ殿下が嬉しそうな顔でこちらを見ていた。

(しまった…!一人で、黙々と食べちゃってた。今、ここには殿下も居るんだった!)


「気に入ってもらえたかな?」

「と、とても。とても美味しい…です」「良かった!甘いお菓子、あんまり得意じゃないのかなって思ったけど、自分では、どのぐらい甘さ控えめの方がいいかわからないから…気に入ってもらえたなら良かった…!」

そう言ってレイディエ殿下は、ほっとした顔になる。

「ど、どうして…どうして、私が甘いお菓子が好きではないと?」

「え、もしかして、甘いお菓子、苦手じゃない?あ、甘いお菓子の方が良かったか!?てっきり、君と一緒にお茶するとき、いつも甘いお菓子を選ばないから、好きではないかと思ったんだが…」

レイディエ殿下は、不安そうな顔をする。シュトュルは慌て答える。

「いえ!レイディエ殿下の言う通りです!私、甘い、お菓子、苦手なのです…今、いただいたケーキ、本当に美味しかったです」「そ、そうだったのか…すまない、取り乱してしまって…それに、君が甘いお菓子、苦手だって、すぐに気づけなくてすまなかった」「そ、そんな…い、言わなかった私が、悪いのですから…」

シュトュルは思わずうつむく。恥ずかしくて、それ以上に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

(殿下は、私の事ちゃんと見てたのね。なのに、私は、殿下の事ちゃんと見てなかった…王族の機嫌を損ねるわけにはいかないとか、殿下とどのように接すればいいのか、考え疲れたとか…最低ね、私…)

シュトュルは痛む胸に手を当てる。

「シュトュル…?」

レイディエ殿下が不安そうな声でシュトュルの名前を呼ぶ。

シュトュルは謝ろうと、顔をあげようとした瞬間…

ギシギシッ!

シュトュルの全身に縄で絞められた様な痛みがはしる。

そして、自由が奪われていく。

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