幕間 冒険者達の一日 スプラッタ視点

俺の名前はスプラッタ。

北の辺境都市『アウィル』という観光と鍛治で賑わっている街の、一般家庭の長男。

俺と幼馴染み合計三人で結成した『北の風ブライトネス』というパーティーリーダーを務め、次の木枯しの季節が来れば、二十代に突入しついに成年を迎えることになる。

そろそろ身を固めていきたいと思い始める、ギリギリ青年と呼ばれる範囲の男だ。


この『北の風ブライトネス』は少し特徴的で、全員が『キルレア魔剣法学園』という学校の卒業生だ。


アウィルという街の性質上、人が大量に毎年やってくる。

そうなると、街の安全を確保する必要性が高いこの街では、冒険者などの安全を確保する仕事は、結構大事な仕事の部類に入るのだ。


なのでそのように仕事に着くには、18歳を超えているか、もしくはこの学校を卒業して、一般的な剣または魔法の技術と魔物に対する知識をつけて卒業する必要がある。


そこで俺たちはなんとか、在校生の半分ほどしか用意されていない卒業資格をもぎ取り、冒険者としてなんとか活動している。



今は俺らのパーティーに、最近村の近くで増えている襲撃の原因解明という内容の指名依頼が来たので、その村に向けて歩いているところだ。


そこは大体徒歩で一週間ほどの時間がかかる距離に位置する村で、定期的にアウィルともう一つの街に魔石を輸送してくれる近辺では珍しい、魔石を掘り起こすことができる魔鉱山まこうざんを持っている。


だからこそ、行くことは遠いので少し面倒臭いが、冒険者ギルドとしては、それを無視するのは街の産業の一つを潰すことになるので到底無理なことなんだ。


あまり人気はなく、難易度も少し高いため、暇をしていた俺たちに回ってきた次第である。

する事は決めない主義なので、予定が被ったりなどの不都合は何も起こらないが、ただただ面倒くさかった。


馬車を使ってそこにいくことも考えたのだが、半月に一度だけ来るそれを使うならまだ歩きの方が結局はそちらの方が早い。

しかし、五日歩いてから思ったのだが今になって馬車を使った方が良かったと、 しみじみ思う。


鉱山があるっていうのに、その周辺に山がないわけがないよな。

平原や少しの丘が連続で来るぐらいならまだいいが、山ほどの高低差ある道が徐々に自分たちの体力を削っていって足がパンパンだ。

装備って移動するのに結構負担になるんだよ。慣れればどうって事はないが。


帰りこそは絶対に馬車を使おう、そうしよう。



今は太陽が沈み出す時間帯で、陽光が入道雲に隠れ、山の麓に流れている小川を見つけたので、そこで今日は野宿することにした。


川辺の少し見晴らしの良い場所で焚火たきびをする。そこに、腰につけたマジックポーチから、鍋や鉄板などを取り出し、鍋に水を入れていきて、鉄板に一口の大きさに切った肉を置いて加熱する。


「ふわぁぁぁ……ねえスー、ご飯まだ?」


陽が沈み出したころから眠気が襲い始めかけていたセルナが、目を擦って物が焼ける匂いを嗅いで催促する。スーっていうのは俺のあだ名だ。


「今焼き始めたばっかだから少し待っとけ。本当に相変わらず食い意地が張ってるよな、お前はたまに立場を変わってくれ」


「むう。女の子に食い意地が張ってるとか言ったらダメなんだぞ。私は本能に従っているだけ。そして私の仕事は食べること」


頬を膨らませ怒ってくるこいつのふくらんだ袋を指で押して潰す。

空気が抜けないように強く塞いで耐えていたが、耐えきれなくなったのか、空気が抜ける音が響いた。

それに不満そうな表情をするが、どうでも良かったのか、無表情に返って自分の膝を枕がわりにうとうとし始めた。


自由奔放な彼女は俺たち三人組の中で唯一年下で、才能だけはピカイチだ。

『キルレア魔剣法学園』の生徒会長を、二期生に入ってから卒業するまで、他の者を寄せ付けないその剣技で、その座をもぎ取っていた。


肩の長さまで切った薄い金色の髪に朱色の小さなリボンを付け、目と同色の赤の瞳を閉じ、すうすうと寝息を立てている彼女は、人形みたいでとても可愛い。

普段は、あまり懐かない猫のように、誰に対してもクールビューティ系で、表情も感情もあまり出さないタイプなのだが、近頃、何かと俺の隣に居ようとし続ける。理由はよくわかっていない。


しかし、学校時代からこちらが視線を向けると、幸せそうに小さくニコッとしながら、付いて来ようとするのは、小動物みたいで少し可愛いので、何かとドジなとこもある彼女を、普通は迷惑なことでも、少しだけなら許してしまいそうだ。


そして、ここにはいないもう一人の幼馴染みである『ハウネ』は、今近くにある小川で全員の水分補給をしている。


青色の伸ばした髪でポニーテールを作り、泣きぼくろが特徴的な彼女は、引っ込み思案なところがあり、人前ではよく自分の背に隠れている。

人見知りなところもあるのだろう。そして、三人の中で一番生まれるのが早く、身長が低い。


その性格と相まって、小動物のように見える彼女だが、はっきりとするべきところでは年長者としてしっかり者の一面を見せることが大半だ。


そして、その容姿から想像がつかないだろうが、冒険者として活動していて気づいたことがある。

それは、俺たちが野宿する際によく起こり、食料などを調達する必要性がある時などが大半だ。


普段は絶対にそんな事はしないのだが、満月に近い時にたまにどこかにふらっと姿を消して、どこからか引っ張ってきたのかわからないほどの、獲物を引きずってくることがある。


毎回血塗れになって帰ってくるので、そのたび自分たちは肝を冷やして過ごしていたものだ。

それ以降は、街のすぐ外で待って彼女の帰りを待っているようにしている。

そして慣れた手付きで門番などを言いくるめる。


そのお陰なのか分からないが、最近は何も言わずに通してくれる。ありがたい。

…気は休まらないが。



すると砂利の擦れる音が大きくなってきた。帰ってきたらしい。

そのまま肉の焼ける匂いを嗅いで足元にあった丁度いい岩の上に座る。


「いい匂い。ごめんね、水分補填に少し手間取っちゃった」


「こちらこそありがとうな、今晩は肉だけど何か足したほうがいいか?それだったら探してくるけど」


「ううん、別に良いよ。今日は早く寝たい気分なんだ、なんか今日はそわそわしちゃってて。

スーも今日は早く寝なよ、足痛いって言ってたでしょ?」


「…そうだな、そうするよ。おーい起きろ」


「ふんにゃ?できた?」


「そうだ、できたからさっさと座れ。だが食べるまでに寝袋置いといてくれよ」


「仕方ないなぁ、じゃあ食べた後にスーがアカスリしている間にやっとく」


「わかった」


そう言って一人ずつ同じ分だけそれぞれよそっていき、ほくほく顔で二人はそれを食べ始める。

さて、俺も食べるとするか。



そうして腹を満たした後は、寝袋に入る前に川辺の光が届かないところまで鍋を持っていき、お湯と、アカスリ使って体の垢をとる。そして戻っていったら、簡易的な天幕を張って、先に寝袋に入らしてもらった。


この一連の流れが、俺たちの冒険者としての1日になる。


まあ、この後も寝ぼけたセルナが寝袋に入ってきたり、いきなり遠くで何かの破裂音が響いたりして、全然寝れなかったのだが。




——————


後書き


すみません、本編はまた今度です!


少し息抜きをさせていただきたいので、次のお話は少し遅くなります!


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