第十六話 火災 [シャニ視点]


ミレイが街に着き騎士たちに説明をしている頃、二人はミレイから説明を受け、比較的街の近くにある焼夷爆弾から、捜索、無力化をしているが、一向にその量が減らない為に、焦っていた。


よくある話では、昔の地球で使われていた、火縄銃等で使われる火薬が、湿気で効力がやられるらしいが、この世界で科学技術がどれだけ進歩しているか、そして爆薬自体が、同じ素材で出来ているかどうかの保証はない。


一応、初級水魔法で湿らしたは良いが、念のため、土中から取り出した点火剤、それの延長線上にあった爆弾本体を束にし、先程健斗が隠れていた丘になっている所の麓に、それを埋めるようグレイに言った。焼夷爆弾で、水に濡らしたので、もし暴発はしたとしても、威力自体は低いと願いながら...


「健斗、早く...!」


また一つ見つけては、濡らす作業をずっと続けている。その度に、応援を呼びに行っているだろう

ミレイが来るまでに、目の前の焼夷爆弾が起爆しないかの不安が襲ってくる。


心臓を酷く鳴らしながら、また一つ、手元の爆弾を水魔法で湿らしていく。


「...ジッ...シュー...」

「なに!?」


地面にそっと置こうとした時に、物が焼けるような音を出した、手元の爆弾を慌てて手から離し、地面に落ちたそれを見てみると、少し焦げ、すぐに消火されたような跡が見える。


「幸運ロール70以下成功...58...成功...」


嫌な予感がしたシャニは、その奥の森を見てみると、小さい火が所々で発生しているのが、シャニの視界に入った


「...まさか...もう始まったの...」


すると、遠くの空で鳥が、曇り空の夜に飛び立って羽音を大きく鳴らすのと共に、多種多用の獣声が森中に徐々に大きく響き始める


「グオォォォォ...」

「———ッ!」


そこには目を赤くし、興奮状態で、怯えているような目をした二メートル越えの、グリズリーがいた


「...ひっ」


熊に背中を向けて逃げるのは、悪手だと知っている、だがそれに反して体がこの場から背中をむけ、全力で逃げようと指が痙攣し、動き出すが、腰が竦んで上手く動かない。不運なのか幸運なのか。


「先輩!」

「グオォォォォォ!!」


少しずつ後退りしていると、いきなり横から、自分を呼ぶ声とともに、先程のフードの男たちから奪ったスコップが飛来し、その首元に深く突き刺さる。

血がそこから吹き出し、雄叫びと共に近くに跳躍してきたグレイが、押し込む。


すると、最初は苦しそうにしていただけのグリズリーが、ピクピクと痙攣をし始め、最後には微動だにしなくなった。


「SAN値減少、0/1D2..55以下成功...49、成功...」


「先輩!大丈夫でしたか?」

「うん、ぁ、ありがとう」


いまだに恐怖でうまく声が出ない。掠れたような声になったが、それを聞いてグレイは少し強張っている肩を少し下ろし、火が本格的に燃え始めた森を見る。


「こっからどうすればいいんだろう...」

「取り敢えず...森の外に出ましょう。これ以上ここにいたとしても、こっちの身が危なくなるだけだと思うので...」

「...それもそうだね、自然の力に消化を任せるのは、ちょっとここまでくると私達が手を出すのも無駄だと思うし」


そう言って、グレイは武器の代わりのスコップを抜き取り、シャニは服についた土を叩いて落とし、所々で、たまに噴き出る火柱を避けながら、急ぎ足で、一度、湖に向かう


———————————


「キャァーー!!」

「グルアアァーー!!」

「キャッキャッ!!」

「う...うるさい...」

「...ちょっとここから離れましょう...うるさ過ぎる」


竜を治療し昼寝をした所の周辺は、森からこの湖にやって来た、草食、肉食問わず、野生動物が集まり、最初は耐えられた鳴き声も今となっては、喧騒程度まで大きくなり耳を塞いでも聞こえてくる。


火から逃れるため、水辺にやってきた動物たちから離れ、反対側に向かうと幾分か騒音がマシになった。熱風と酸欠に陥る恐怖感から抜け出した二人は、大きく息を吐いて地面に腰を掛ける。


「ふう、何とかひと段落...は、して無いな。ここからどう抜け出せば良いんだろ」


膝下まであるブーツを片足だけ外し、足指先を揉みながら問うシャニ。


「取り敢えず、健斗が帰って来るまで待ちましょう。変に動いて怪我とか火の中で酸欠で倒れるとかが起こったら、どうしようもなくなるので。一応、ここ周辺の木が倒れたとしても大丈夫なようにしてきますね」

「じゃあ私も付いて行こうかな、まさか、燃えてるものを手でやろうと思ってたりしてないよね?」

「...スッ」


 そう言うと図星だったのか、正面を捉えていたグレイの目線がシャニの反対側に向く。

そこを見逃さないシャニ、手に持っていた杖の先でグレイの脇腹をグリグリと押す。


「ちょ!痛いですって!結構骨に当たって——」

「ほらほらー、本当はどうだったんだー?んー?」


すると『ゴリッ』と共にグレイの胸骨が音を上げ、痛みでその場に一瞬立ち止まる


「いっつ...」

「——ッごめん!ちょっとやり過ぎちゃった...」

「...先輩、調子乗りすぎっすよ...」

「本当にごめんなさい...」

「なんか埋め合わせを要求しますよ...本当に結構痛いな」

「...それでいいなら、回復ポーション、私の分上げようか?」

「いや、それは残しといてください、多分すぐ治るおさまんで」


手を合わせて「ごめんね」ともう一度言うと、「もういいですよ」と手を振って許してくれた、

本当に自分、すぐに調子乗って失敗するのに、何で学ばないんだ。


頭の中で自分を殴りながらそう反省するシャニだった。


数秒後にその近くで、爆発が起こるのは誰が予想できただろうか



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