第11話「少し痛めつけてみる?」

「基本的なことを教えて欲しいんだが、

 魔法って・・・何だ?」


ミリアンとモエカはキョトンとした表情をした。

なぜそんなことを聞くの?と言わんばかりだ。

だが、モエカは俺の特殊な身の上を察してくれた。


「へー、

 ミノルの故郷には魔法が無いんだね。

 そうゆう世界もあるんだ。

 ええと、

 魔法ってゆうのはね・・・」


モエカは説明しようとして、ちょっと困った顔をした。

あまりにも当たり前すぎて、うまい表現が見つからない感じだ。


「魔法使いが、

 水に特別な力を宿らせること・・・かな?」


水?

魔法というと、手から火の玉を出したりするのかと思っていたが、どうも違うようだ。


「特別な力って、

 どんなことができるんだ?」

「いちばんポピュラーなのは、

 治癒魔法かな。

 治癒の魔法水は、怪我を治すことができるの。

 でも危険な魔法もあるわ」

「それって・・・」


俺が聞き返したとき、家の扉がそっと開かれる音がした。


客だろうか。


ミリアンを見ると、彼女も不安そうな表情で俺を見返してきた。


俺はモエカに合図すると、音を立てないようにゆっくりと立ち上がった。


バンッ!


その時いきなり部屋の扉が開いた。

身構えると、細身の剣を持った全身黒づくめの男が現れた。

顔に布を巻いているため人相はわからないが、その目には殺気が宿っている。

まずい。

男は俺たち3人を見比べ、俺とミリアンが丸腰であることを確認すると、剣を振り上げてモエカに襲いかかった。


キインッ!


金属がぶつかり合う音が響く。

モエカは最初の一撃をかろうじて受け流した。


「くっ、

 あんたいったい、何者!?」


男は無言で第二撃を仕掛ける。

モエカも反撃しようとするが、相手の攻撃を弾くのが精一杯の様子だ。

狭い部屋の中では持ち前のフットワークを活かす攻撃ができない。


モエカを助けなくては!


俺はとっさに100円のフルーツナイフを探したが、部屋の反対側のリュックサックに入れっぱなしだと気づいた。

あそこまで行っている暇はない。

俺は周囲を見回し、テーブルの上に小瓶を見つけると、男に目掛けて力任せに投げつけた。


ドンッ!


え?

爆発?

小瓶から吹き出した炎が男の体を包み込んだ。


「ぎゃぁあああっ!」


男は悲鳴を上げて床に倒れ込む。

すかさずモエカは男の腰に剣を打ち付けた。


「がはっ!」


殺意のない打撃だったが、男を気絶させるには充分だった。


***********


「さっきの爆発が・・・魔法か?」


俺はケーブル用の「結束バンド(100円)」で男の両手両足を縛り上げると、改めてモエカに聞いてみた。


「うん。

 火炎の魔法水。

 でしょ?」


モエカはミリアンに視線を投げ、答えを促した。


「はい。

 衝撃に応じて燃焼するように呪文がかけられた水です。

 祖父には、そうゆうことができるのです」


なるほど。

この世界の魔法使いは、水を燃料のようなものに変えられるだけでなく、その発動条件まで指定できるらしい。

しかしそんな物騒な物を机の上に置いておくとは・・・身の危険を感じていたのかもしれない。


その時、ゴホゴホと咳き込む音がした。


男の意識が戻ったようだ。


何か情報が聞き出せるかもしれない。

俺とモエカは男を左右から取り囲み、尋問を開始することにした。


「お前は何者だ?

 なぜ押し入ってきた?」

「・・・」


男は答えない。

結束バンドをはずそうとして手足をもぞもぞと動かしている。

無駄な抵抗だ。

結束バンドは締めることはできても、人間の腕力じゃ緩めることはできない。


「少し痛めつけてみる?」


モエカが腰の剣を抜くそぶりを見せる。


「いや、俺に任せてくれ」


俺は男のズボンの裾をまくりあげた。

足にはぎっしりとすね毛が生えている。

俺は「粘着布テープ(100円)」を袋から出すと、30センチほどの長さに切り、男の足に貼り付けた。

そして下から上に向けて勢いよく剥がす。


「ぎゃぁああああっ!」


本日二回目の絶叫が響き渡った。


男は目に涙を浮かべている。

しかし俺は躊躇することなく、反対側の裾をまくりあげた。

さっきと同じように、粘着テープを貼り付ける。

すね毛がちゃんと抜けるように、指で丹念にこすりつける。


「ま、まってくれ、

 話す、話すから!」


意外と簡単に落ちたようだ。

まだ毛はたくさん残っているのに。


「頼まれただけだ。

 その娘をさらってこいと」


男は視線でミリアンを指した。

老いた魔法使いだけでなく、孫娘まで誘拐しようとしたってことか?


「誰に頼まれた?

 ・・・テープを剥がすぞ?」

「し、知らん、

 知らん奴だ!

 エスラーダで落ち合うことになっていた」


エスラーダ・・・か。

やはりマジックギルドとやらが、何か関係しているのだろうか。


「名前も知らないのか?

 特徴は?」

「いい身なりの男だ。

 たっぷり報酬をくれると言っていた」

「それだけの情報じゃ

 わからんなあ」


俺は「マーカー付きホワイトボード(100円)」を取り出すと、男にマーカーを渡した。

奴の両手は結束バンドで縛られているので、ホワイトボードは俺が持ってやった。


「これに似顔絵を描いてみろ」

「え・・・」


男が額に汗をたらしながら絵を描き終えるのを、俺たちはひたすら待った。

ミリアンの祖父を探しだそうにも、まだ手がかりがない。

この誘拐を依頼した人物こそが、最大の鍵になるだろう。


だが、ついに似顔絵が完成したとき、俺たちは絶句した。

今まで見たことがなかったのだ。

これほどヘタな絵は・・・。


俺は男の足から、勢いよくテープを引き剥がした。


***** つづく *****

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