第3話 カラハタ侵攻

 あれから更に3年の月日が過ぎた。

 ついに5歳になった朔夜は、周囲の目を搔い潜りながら基礎的な教養だけでなく、魔術訓練を充実させていた。

 全ては来る隣国の侵攻に備えるため。

 じゃなくて、その隙に安全な他国に亡命するためだ。

 もう産まれたばかりの頃とは違い、魔力と気力を均等に放出できるようになってからは攻撃・防御を中心にメキメキと実力を伸ばしている。

 数少ない護衛兼指南役である萌黄も、その成長速度には舌を巻いていた。


「若様のそれは、最早魔術とは言えませんねぇ。どう見ても伝承に伝わる神力としか」

「そんなに既存の魔術とは異なるのか?」

「ええ。まず魔力は属性ごとに色があり、気力は白色が基本となります。

ですが、若様から放出されている力の色は黄金。金色の魔力など聞いたことがありません! 可能性があるとしたら、龍神族に使い手の多い神力以外にないかと」

「龍神!? いるのか!」


 神力よりも龍神に食い付く朔夜に、萌黄は目を丸くする。


「え、ええ……おりますとも。ただ、我が国があの隣国出身の偽預言者を重宝するようになってからは、めっきり交流が途絶えておりまして」

「と言うことは、以前は交流があったんだな?」

「はい。こちらも隣国ですが、両国とも非常に仲睦まじい間柄でした。

若様からいう曾祖母様ひいおばあさまも彼の国よりお輿入れされた程です。

私の祖母が言うには、陛下はお若い頃の先代皇太后様と良く似ておられるそうですが、髪と目の色に関しては若様がそのまま受け継がれているそうですよ」


 成長された暁には、若様の方が先代皇太后様そっくりになられるやも知れませんね?

 そう悪戯っぽく笑う彼につられて、朔夜も自然と笑顔になる。


「自分の祖母が私と同じ髪と目の色と知ったら、あの天帝は何と言うんだろうな?

自分の中に魔神の血が混じっているなんてーって喚いたりしてっ。

だったら面白いなあー、足の裏叩いて笑ってやろうっと!」


 右手を口元にやりながらニヒヒと悪い顔をする朔夜に、吹き出しそうになるのを堪えながら萌黄が諭してきた。


「わ、若様っ、お気持ちはわかりますが一応我が国の帝ですので。……誰が耳をそばだてているやらわかりませんし」


 と、最後はそっと声を潜める。

 確かに天帝派は簡単に刺客を差し向けられるぐらい強大な存在だ。

 下手なことをいえば軽口とは言え、向こうは直ぐ頭に血を上らせるだろう。

 本当に身勝手な奴らだ。


「さっ、若様。話はこれぐらいにして、今度は的の真ん中に正確に当てる訓練を致しましょう!」


 話を切り替えるようにパンっと手を叩き、萌黄は朔夜に訓練を促す。

 遠方から、馴染みの従者達以外の不快な気配が近づいていることに気付いた朔夜も素直に頷いた。

 ああいう奴等とは、極力顔を合わせないに限る。

 面倒事を避けるため、直ぐ様その場を跡にした。


「しつこい奴らだなあ、あいつら。まだ諦めてないのか」


 竹林の生い茂る庭園を歩き回りながら、先程までいた訓練場を嗅ぎ回る天帝派の行動に眉を顰める。

 暗殺から逃れるために身に付けた遠視とおみの魔術で見られているとも知らず、奴等はあちらこちらを物色して回っていた。

 主君と同じく萌黄も目元を剣呑に尖らせ、いつでも抜刀できるよう腰に下げた刀に手を置いていた。


「陛下がカラハタ国の邪教に傾倒さえしなければ、この国の祝福は続いていたというのに」

「カラハタ……あの似非預言者の出身国だったな。確か【唯一創成の聖家族教会】とか言う名称の新興宗教だったかな?」

「実態はカルトですがね。この国に上から下まで浸食しきっており、少しでもこのカルトを否定する者がいれば、どんな手段を使っても根絶やしにする恐ろしい集団です」

「手段とは?」


 尋ねる朔夜に、一瞬萌黄が言い辛そうに口籠る。

 だが、将来の天帝となる立場の彼には必要なことだと思い直し、あまり聞いていて気持ちの良いものではないですがと前置きして話し出した。


「奴らが排除すると決めた相手の社会的信用を落とすため、意図的に悪い噂を流すのです。勿論最初から信じてもらえる確率は低いため、わざとサクラを用意し、一般人の振りをして井戸端会議などで噂を広めます」

「でも社会的信用の低い人間の言うことなんて信用する?」

「そこで彼らは事前に皇室から各貴族の治める領都や村に至るまで、要職に自分たちの息が掛かった人間を入れ込むのです。先程の井戸端会議の例でいうなら婦人会の代表とかですね。そうすることであの誰々さんが言うなら、あの人は悪い人に違いないと周囲に思い込ませ攻撃させるのです」


 最悪なことにそれは標的にされた人間が引っ越しても、その引っ越し先でも同じ根も葉もない悪評を流して、最終的に自殺に追いやるという。

 そこまで聞いて、朔夜の背に冷たい汗が流れた。

 何故なら彼には身に覚えのありすぎる話だったからだ。

 ――同じだ、前世で私が受けた仕打ちと。だがこんな偶然があるのだろうか?

 顔面蒼白にする朔夜に気付いた萌黄が、慌てて話を止める。


「もっ申し訳ございません、若様! やはりまだ若様にはっ」

「いや、そうじゃないんだ。余りにも身に覚えのありすぎることだったものだから」

「ああ……そうですよね。国を挙げてあいつらときたら!」


 恐らく似非預言者によるあの神託事件以降の、朔夜を悪とする風潮に対してだろう。

 実際には前世のことを思い出していただけだが、きっと唐突過ぎて理解できないだろうし、上手く説明できる自信がないため、敢えて訂正せずにそう思わせておくことにする。

 今大切なことは力を付けることだ。

 既にシナリオからは大きく外れた人生を送っているため、カルト狂いの隣国よりも、親族に暗殺されないよう知識と実力を身につけねば。

 そう強く決心し、二人は天帝派が二人の移動先に気付かないうちに足早に竹林を通り過ぎて行った。


* * * *


 その日の夜半、朔夜は日虹水晶を側にある燭台の光に翳しながら、今後の方針について悩んでいた。

 最近では天井裏に潜んでいた暗殺者から、あわやというところで護衛に救出されたばかりということもあり、体術の必要性を痛感していた。

 そのため、今日も萌黄を中心とする護衛達から体術訓練を受けていた訳だが、内容の物足りなさに焦りを募らせる。

 内容としては柔軟体操から体幹を鍛えるためのバランス訓練まで、基礎中の基礎というもので拍子抜けするものばかり。

 攻撃手段まで教えられている魔術に比べ、この差は何なのか。

 彼としては、直ぐにでも暗殺の危機から逃れるための受身を含む武術訓練を習いたかったのだが、それを伝えたところ、身体が出来上がっていないうちに無理な動きをすると後々支障を来すとこんこんと言い含められてしまった。


「恐れながら、何のための護衛だと思っておられますか? 内部に敵が潜んでいる故に心安らかでいられないのは重々承知です。ひとえに我等が不甲斐ないため……申し訳ありません。ですが、命に代えても御身を守ると誓ったことに嘘偽りはございません! それは、貴方様の健やかなる成長をも含んでいるため何卒、何卒っ」

「わ、わかった! わかったからそんな目で見るのはやめてくれっ」


 さすがの朔夜も、己の不甲斐なさを責め、半泣き状態になっている家臣に物申せる神経は持ち合わせていなかった。

 彼はチキンハートなのだ、猫又だけど。


 大切にされているが故に家臣からの協力が得られにくい状態で考えた苦肉の策は、前世で会得していた武術の個人訓練だった。

 ……個人? いや、間違いなく一匹ではなく個人だ!

 将来人型になれることは確定済みであるし。

 だが将来人型になれるとはいえ、今は二本足で立つ真似などできないため、四足ならではの戦い方を生み出すことに注力するしかなかった。


 前提として仔猫とは言えど猫又のため、普通の猫以上に鋭利な爪を隠し持っていることが四足での戦闘の肝だ。

 思わぬ武器に気付いたのは、側仕えからの報告書の封を開けた時だった。

 あー、何か猫型でもこうサクッと切れるハサミとかないかなあ?

 ぼんやりととりとめのないことを思いながら、手先を眺めているとシュッと爪が飛び出してきた。


「んっ? 爪……にしては長すぎ?」


 日本の忍が使いそうな手甲鉤にも似ている。

 長さ、厚みが普通の猫のそれじゃない。

 それと同時に首元の日虹水晶が消えていることに気づく。


「ど、どこいったの水晶!?」

「あのう、若様。その手甲鉤が日虹水晶ではございませんか? ほら、虹色に光ってますし」


 そう言われて目を向けると、爪だと思っていた物にはオパールのように様々な光が泳いでいた。

 見た目こそは美しいが、愛くるしい見た目の仔猫に備わっているには、余りにも不釣り合いで凶悪な形状だ。

 ハサミにするにはちょっと……。

 妙なところでずれている朔夜は、その時は呑気な感想しか抱けなかった。

 何せハサミのことで頭は一杯だ。

でも器用さを身に付ければ何とかなるはずと、爪先でちょいちょいと掠めてみれば、思ったよりザックリと切れてしまった。

 そりゃそうだよね、これ武器だもん。ハサミじゃないね!

 わかっていたこととは言え、物ぐさな自分に呆れる。

 お陰で手紙の上半分が切れてしまい読みづらい。


「わ、若様……」


困った顔でこちらを見てくる側仕えに、同じく困った顔で見返す。


「えーと、猫型でも使えるハサミってないの?」

「お、恐れながら、ハサミは人型専用のもので、大抵は爪を微調整して開けておりまして」

「あー、そっかぁー」


 こういう日常生活に必要な事こそ訓練が必要なんじゃない?

 そう思ったが、只でさえ忙しい彼らにあれこれ聞くのも躊躇われる。

 それにいざという時には浅葱に聞けばいい。

 そう思い、中の書類を何とか解読して、敵対派閥からの園遊会のお誘いだったとわかると、労力を無駄にしたことにガクッと肩を落とした。

 側仕えとの相談の結果、ご病気という名目を立てて丁重にお断りしたが、その後からだったか暗殺の頻度が上がったのは。

 やはり園遊会で毒を盛る予定だったのだろう。

 それをこちら側に勘づかれたと思ったのか、これまで以上に執拗で容赦がなくなっていった。


 一通り回想を終え、溜め息を吐きながら彼は瞬時に手甲鉤を装着した。

シュッと空気を裂く音と共に、ハラハラと舞落ちる枯葉が木端微塵となり霧散する。

 こんな室内に枯葉などあるわけがない。

 であるならば、間抜けな暗殺者が服に付けてきたものに決まっている。

 考える間もなく座布団から飛び退いた朔夜は、気配のする天井へ勢いよく爪を振り上げた。

 ガキィンッと金属音のぶつかる音が響き渡る。

 黒装束に身を包んだ男と思しき影は、音もなくひらりと舞い降りてきた。

 月明りの下で男の手の中の白刃が煌めく。

 次いで相手の短刀が迫り、距離を取る間もなく鉤爪で薙ぎ払い続ける。

 だが幼さ故に体力の限界が近づいてきたこともあり、動きが徐々に鈍くなってきた。

 夜目が効くとしても、それは相手も同じこと。

 今の朔夜には固有神器を持っている以外に優位に立てる点がなかった。

 止めとばかりに勢いを増した短刀が眼前に迫る。

 やらせるかよ、くそったれが!!

 刹那火花が散る。

 信じられないとばかりに、黒装束の男の目が驚愕の色に染まった。


――馬鹿な。邪神の化身とはいえ、何故こんな幼子にここまでの力がっ。


 男の眼前に、渾身の力を込めた刃を受け止める仔猫の姿が映し出される。

 だがそれ以上に幼子とは思えぬ鋭い相貌に、男は思わずたじろいてしまう。


「お前は、お前は何者なんだ?」


 本来静かに標的を葬るのが掟である暗殺者に、僅かな問答ですらご法度だ。

 にも拘らず、男は問うてしまった。

 互いに鍔迫り合いの接戦に持ち込んだまま、より一層朔夜は鋭い視線を向ける。


「通りすがりの猫又だ。私を、いや俺を勝手に邪神扱いすんじゃねえ!」


 覚えておけ。

 そう言い放つと共に鉤爪が一際輝きを放つ。


絶閃乱舞ぜっせんらんぶ


 蝶のように舞いながら、鎌鼬の如き烈風を巻き起こし男の身体を切り刻んでいく。

 抵抗しようとするも、神速の動きに男の目に焦りが浮かんだ。

 やはり、やはり人ではない! 奴は化け物だっ、命に代えても殺さねば!!

 

「ぐぁぁっ、け……消さねば、お前だけは、お、前だけ……は」

 

 激しい力の奔流を前にして、遂に白刃が砕け散る。

 それを最後に男の意識は途絶えた。


 凄まじい空気の対流が止んだ後、そこには血塗れの黒装束が倒れ伏していた。

 全身から大量の汗を流し、肩を上下させた朔夜も一歩も動けずにいる。

 すぐにでも別の暗殺者が差し向けられる前に逃げないと。

 またしても護衛達に別の任務を与えられてしまい、手薄にされたところで暗殺者を投入してくるとは。

 のろのろと歩きながら、黒装束に覆われていた男の素顔を覗き込む。

 色は白というよりも極めて薄い灰色の肌。

 のっぺりとした彫りの薄い容姿は、どこか不気味さを際立たせている。

 象牙色の肌に彫りの深い蘇陽の民とは対照的な容姿だ。


「この系統の顔は、うちの国のものじゃない。まさかっ」


 足元に転がっていた短刀の柄の紋章に、朔夜の目が大きく見開かれた。

 それは一つ目の牡牛が子供の首を掲げる姿。


「カラハタ王家の紋章……。じゃあ、いつもより執拗だったのはこいつらが絡んでいたから」


 おかしなところはいくつもあった。

 言葉の抑揚が不自然だったし、黒装束もこの国の物とは微妙に形が違う。

 最たるものは武術だ。

 天帝が差し向ける者たちとは明らかに動きが違った。

 一体どれだけの工作員が入り込んでいるんだ。

 どうして俺の警備がガラ空きなんだ?

 

 そこまで考えた時、屋敷の奥から爆発音が鳴り響いた。

 あちらこちらから火柱が吹き上がり、黒煙が立ち昇る。

 遠くから女官や大臣達の怒号と悲鳴が聞こえてきた。


「しまった! 今日がだったのか!」


 隣国カラハタの侵攻。

 具体的な日付まではわからなかったが、卯の花の季節ということだけは知っていたはずなのに。

 火の手の上がる屋敷を見渡しながら、浅葱達侍従の姿が見えないことに心が騒めく。

 ここまで大切に守ってくれた人達だ。彼等だけは何としてでも助けたい。

 だがその前に準備が必要だ。

 首元に戻った日虹水晶を掲げ、室内の書物や乾物系食物、水筒、衣類をその中に収納する。以外にも固有神器は、無尽蔵の蔵のような役目も果たせるものだった。

 書物にあった固有神器の伝承にあったが、まさか本当に収納できるとは思わなかった。ついでに隣国襲撃の証拠となる短刀の破片と柄も回収しておく。

 もし奴等を問い詰める機会があれば有効活用できるかもしれない。

 

 粗方準備ができたところで、朔夜は比較的安全な庭園に飛び出した。

 浅葱達がいるとすれば中央の官舎だ。

 逸る気持ちを抑えながら、少年は力の限り駆けていく。

 いくつもの平屋建の官舎は元々余り修繕されていなかったが、今回の爆発で見るも無惨にひしゃげて、建物全体が傾いていた。

 俺の世話係になってしまったばかりに、浅葱達はこんな隅にまで追いやられていたのか。

 天帝派を避けるため、中央官舎にまで足を運ばなかったことが今になって悔やまれる。

 後ろ楯を持たない自分にできることはなくとも、せめて彼等に近しい人達にこの窮状を訴えることができたのではないだろうか。

 言い様のない苦い気持ちが込み上げてくる中、不意に火のついたように泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 よく見れば右手の官舎の下辺りに、三毛と水色の長毛の2匹の仔猫が固まっている。

 恐らく分家筋のどこかの子供だろう。

 倒れた家屋の柱に阻まれ、自力で脱出できない状態で震えている。

 幼子達を見て、天帝と共に朔夜を迫害してきた分家のことを思い出す。

 このまま何も見なかった振りをして通り過ぎればいい。

 こいつらだって今は可愛い子供だが、やがてあいつらと同じような類いに成り下がる。

 そう自分に言い聞かせ、重い足を踏み出そうとする。

 その時、俯いていた小さな三毛と水色の頭が上がった。

 綺麗な翡翠の瞳と、琥珀の瞳が揃って朔夜に向く。

 小さな口が『たすけて』と動いた気がした。


「っ、ああもうっ!」


 何で俺はこう間が悪いんだと口走りながら、2匹の元へ急いで駆け寄る。

 日虹水晶の神器を使って何とかできないか思考するも、どこかを取り外せば途端に雪崩の如く押し潰されるのは明らかだ。


「だとしたら、やっぱり魔術で浮かせるしかないよね」


 亡命のためにもできるだけ使いたくなかったが、背に腹は代えられない。

 右手に魔力、左手に気力。

 両手を合わせて呼吸を整えていく。

 何度か呼吸を繰り返す内に体毛がわさわさと音を立て、身体中から金色の神気が溢れだした。

 そのまま両手を掲げ、2匹を閉じ込めていた木の柱と瓦礫を浮かせていく。


「おいっ、出られるか!?」

「う、うん……。足、ちょっと痛いけど」


 水色の仔猫が小さく応える。


「なら何とか出られるな? よし、俺が支えておくから急いでこっちに来るんだ!」

「わかった!」


 今度は三毛の仔猫が力強く応えて、前に踏み出す。

 もう一人の仔猫と共に、足を引き摺りながらも何とか朔夜の元まで辿り着いた。

 それと共に掲げていた両手を下ろすと、宙に浮いていた瓦礫がゆっくりと下に落ちた。


「あの、ありがとうございましゅ」


 まだ3歳ぐらいだろう、舌ったらずな口調で2匹ともお礼を言ってきた。

 正直一度は見捨てようとした手前、どこか居心地が悪い。


「別に、たまたま見掛けただけだし。それよりも、俺がお前達を助けたことは誰にも言わないように」

「どうして?」

「俺は嫌われているから」

「よくわかんない。助けてくれた人にはありがとうと言わなきゃいけないって母上言ってたよ?」


 無邪気な口調で当たり前の事を口にする水色の仔猫を前に、思わず口ごもる。

 そうよ、私にも母上言ってたと、三毛仔猫も言ってきたので、上手い言葉が見つからず頭を抱えた。


「と、とにかくそういうことだから! 俺はもう行くから、お前達もしばらくはここら辺にでも隠れてろよ。じゃあな」


 待ってという言葉を背に受けて、今度こそ朔夜は中央官舎を目指し走り出した。

 一応去り際に簡易な回復魔術を掛けておいたから、あそこから逃げ出せるくらいには回復しているはずだ。

 まあ、どれだけ効くか自信ないけど。



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